労務

労働審判制度の手続の流れ

札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈

監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士

労働審判とは、会社と労働者の間の労働トラブルを、迅速かつ適正に解決するための裁判所の手続のことです。
2006年4月にスタートして18年余り。労働問題の解決手段として広く活用されており、現在、年間3000件以上の労働審判が申し立てられています。

解決までのスピードが裁判に比べて非常に速いという特徴があります。
申立てを受けた会社側は、とてもタイトな期間内で、自身の主張・反論をし尽くす必要があります。

そのため、労働審判で会社側に有利な結果を得るためには、どのような流れで手続が進むかを把握し、適切な時期に十分な対応をすることがとても重要です。

このページでは、労働審判制度の概要や手続の流れ、労働審判を起こされた場合の会社側の対応などについて解説していきます。

労働審判手続はどのような流れで行われるのか?

労働審判とは、労働者個人と会社との間に生じた労働関係のトラブルを、その実情に応じて、速やかに解決するための手続です。
処理される案件として、解雇や雇止めの有効性、配置転換、出向、未払賃金(残業代等)の支払いなどが挙げられます。

労働審判の手続は、以下の流れで行われます。

  • ①労働者が裁判所に申立書を提出する
  • ②裁判所から第1回期日の指定・呼出しがなされる(原則申立から40日以内)
  • ③会社が答弁書や証拠書類を期限内に提出する(第1回期日の7~10日前まで)
  • ④第1回~第3回期日(労働審判委員会が原則3回以内の期日で審理し、和解を試みる)
  • ⑤和解できない場合は、委員会が審判を下す
  • ⑥当事者が審判に異議申立てを行うと、裁判へと移行する

手続労働審判は3回以内の期日で審理される

通常の労働裁判は審理にかかる期間が長く、例えば、不当解雇については、ケースバイケースですが、裁判がスタートしてから解決するまで、1年半~2年ほどかかると考えておく必要があります。

一方、労働審判では、原則として3回以内の期日で審理することになっているため、トラブルの早期解決が見込めるというメリットがあります。
労働者が労働審判の申立てを行ってから、3~4ヶ月ほどで、調停(和解)が成立するか、裁判所による審判が出されることが通例です。

ただし、このメリットの裏返しとして、期日が3回以内と制限されているため、実質的に第1回期日の段階で、会社と労働者双方の主張・立証を尽くすことが求められます。
会社としてはあらかじめ入念な準備をして第1回期日に臨まなければなりません。

労働審判手続の具体的な流れ

労働審判手続の具体的な流れについて、以下で見ていきましょう。

労働者からの申し立て

労働審判は、労働者が裁判所に申し立てることによって、スタートします。
申立てをする際、労働者は地方裁判所に「労働審判手続申立書」と証拠などを裁判所に提出します。

労働審判申立書には、例えば、労働者が雇止めの無効を主張する事件であれば、以下のような事項が記載されています。

  • 申立人の業務内容や契約更新の回数からして、正社員と同視できるため、本件契約には解雇権濫用法理が類推適用されるべきところ、会社側は能力不足や担当業務がなくなったことを理由に更新を拒否しているが、そのような事実はない。
  • したがって、雇止めは不当であるから、会社側に復職とバックペイ〇〇円の支払いを求める。

また、証拠書類として、雇用契約書、更新契約書、雇止め通知書、雇止め理由証明書、給与明細書などが提出されることが多いです。

会社は労働審判の申立てを拒否できる?

労働審判の申立ては、基本的に拒否することができません。
労働者から労働審判の申立てがなされてから、40日以内に第1回目の期日が行われるのが通常です。

仮に正当な理由なく第1回期日を欠席すると、会社側が不在のまま手続が進められ、労働者側の言い分を認める内容の審判が下されるおそれがあるほか、5万円以下の過料に処される懸念があります。
そのため、第1回期日呼出しの書面が届いた場合には、できる限りその呼出に応じ、どうしても難しい場合には日程調整の連絡を早めに裁判所に入れるのが望ましいでしょう。

第1回期日の決定・呼び出し

労働審判の申立てがなされると、第1回の労働審判の期日が決定されて、会社と労働者は裁判所から呼出しを受けます。会社側には、期日呼出状とともに、労働審判申立書と証拠のコピーが送付されます。

この呼出状には、以下の事項が書かれています。

  • 労働審判が行われる裁判所
  • 第1回期日の日時
  • 答弁書や証拠書類の提出期限など

期日までに準備しておくべきこととは?

労働審判のポイントは、「第1回期日までの準備が勝負」という点です。
申立てを受けた会社は、第1回期日までに事実関係を調査し、会社側の反論を書いた答弁書と、その反論の根拠となる証拠(雇用契約書、就業規則、タイムカード等)を裁判所に提出しなければなりません。

第1回期日は、申立てから約1ヶ月後に指定されることが多く、裁判所から審判の書類が届いてから20日ほどの間に、急いで準備を行う必要があります。

裁判所は、第1回期日前に、双方から提出された書面の主張や反論を読み込み、また、証拠資料を精査します。そして、第1回期日において、労働者側や会社側に直接質問した上で、大まかな心証(解決の方向性)を固めてしまいます。

そのため、労働審判で有利な結果を得るには、いかに法的に説得力のある答弁書を作成できるか、有効な証拠を収集できるかがカギとなります。
これを実現するためには、法律の専門家である弁護士への依頼が有効です。

第1回期日

第1回期日は、裁判所の評議室(会議室)で行われます。
円卓を囲む形で、労働審判委員会(裁判官1名と労働審判委員2名)、労働者、会社担当者、代理人弁護士などが着席します。

まず、委員会から自己紹介がなされた後、申立書と答弁書を踏まえて、労働者側と会社側に、トラブルの事実関係についての質問(審尋)がなされます。
これらのやり取りが1時間ほど続いた後、労働者側と会社側いずれも席を外して、委員会が適切な和解内容などについて評議します。

その後、労働者側と会社側が交互に呼び出され、委員会の心証が伝えられ、どこまでなら妥協できるかなど和解の意向が聴取されます。お互いに合意したならば、ここで和解が成立します。

全く話合いの余地がなければ、ここで労働審判終了となりますが、少しでも合意できる余地があるならば、2回目、3回目の期日が開催されることになります。

労働審判手続は公開されるのか?

労働審判は、原則として非公開とされています。
ただし、裁判所が許可した場合は傍聴が認められる可能性があります。

労働審判の当事者は、会社と対象となる社員だけですので、基本的に、取引先や他の社員、マスコミ等に対して、労働審判を行っている事実やその内容が漏れることはありません。

ただし、非公開と言っても、労働審判の出席者や傍聴者は、もちろん労働審判の内容を知っています。
そのため、社員を出席させる際には、その出席者から情報がリークされないかどうか十分に注意を払う必要があります。

少なくとも出席者については、ある程度以上の役職の人物に絞るべきといえます。

会社はどのような姿勢で臨むべきか?

会社側は、第1回期日において、裁判所から答弁書の内容や、申立人に対する反論について口頭で直接質問されることになります。

質問を受けた際に、不適切な回答をしてしまうと、裁判所の心証が悪くなるリスクがあります。
そのため、第1回期日までに関係者から詳しく事情聴取し、想定される質問と回答をまとめた「想定問答集」を作成した上で、第1回期日の出席者(社長や上司、責任者など)は審尋のリハーサルを行っておくことが推奨されます。

また、初回期日から和解案が出される場合があるため、会社として最終的にどうしたいのか、いくらまでの解決金なら支払えるのかなど、具体的な解決策についても検討しておくのが望ましいでしょう。

第2・3回期日

第2回期日は当事者の都合に配慮しながら、第1回期日から2週間~1ヶ月後、第3回期日も、第2回期日から2週間~1ヶ月後に設けられるケースが多いです。

第2回、第3回期日においても、基本的には第1回期日と手続は同じです。
期日までに準備書面を提出し、それらを整理した上で、委員会による審尋や調停(話し合い)による解決が試みられます。

なお、前述のとおり、労働審判委員会は第1回期日でざっくりとした解決の方向性を決めてしまいます。
ただし、一定のハードルはあるものの、準備書面の内容や期日のプレゼンテーション次第では、第1回期日の段階で委員会が決めていた解決案(解決金の支払い金額など)をより会社に有利なものへと修正させることも可能です。

調停が成立した場合

会社と労働者どちらも一定の和解案に合意すると、調停が成立し、ここで事件は解決となります。

調停成立とは、話合いによって和解することをいいます。
和解した内容は、調停調書という書類に書かれます。

調停調書には裁判上の確定判決と同一の法的効果があります。
そのため、当事者は後日その内容について争うことはできませんし、合意内容を守らない場合は、調停調書に従って強制執行を申し立てられる可能性があります。

調停調書は、基本的には労働審判委員会が作成して提示してくれますが、会社側にとって不利益な結果とならぬよう内容をよく精査した上で、場合によっては、修正や加筆を要求することも求められます。

調停不成立の場合

労働審判委員会によって話合いでの解決が試みられますが、会社と労働者間で合意できなかった場合は、調停不成立となり、労働審判委員会が審判を言い渡します。
多くの場合、審判内容は調停案とほぼ同じものであることが多いです。

審判の言渡しでは、通常の裁判でいう判決の言渡しと同様に、審判主文と審判理由の要旨が口頭あるいは審判所の送達により伝えられます。これにより、労働審判手続は終了します。

労働審判の確定

労働審判がなされた日から(審判書の送達または口頭の告知を受けた日から)、2週間以内に当事者から異議の申立てがなければ、労働審判の内容はそのまま確定します。

労働審判の判定は調停成立と同じく、裁判上の確定判決と同じ法的効力を持つことになります。
そのため、相手方が審判で確定した義務を行わない場合には、強制執行手続に進むことができるようになります。

例えば、会社に未払賃金(残業代等)の支払いが命じられたにもかかわらず、会社がこれに応じない場合は、預金口座などの差し押さえを受けるおそれがあります。

不服がある場合は異議を申し立てる

当事者は、審判内容に納得がいかない場合は、労働審判がなされた日(審判書の送達または口頭の告知を受けた日から)から2週間以内に異議を申し立てることができます。
2週間以内に異議申立てがなされた場合、審判は当然に効力を失い、自動的に裁判へと進行し、裁判所の判断を仰ぐことになります。

異議申立ては書面で行う必要があります。
異議申立書の提出先は、労働審判委員会ではなく、当該労働審判が行われた地方裁判所となります。

異議申立書には、審判結果に異議があることを書けばよく、異議申立ての理由を書く必要はありません。
また、通常の裁判へと進んでも、労働審判の記録は引き継がれないため、準備書面や証拠書類を改めて提出し直す必要があります。

申立てから解決までにかかる期間はどれくらい?

令和4年の裁判所の統計データによると、通常の労働裁判の平均審理期間は17.2ヶ月となっています。
これに対し、労働審判の平均審理期間は90.3日となっており、労働審判の約7割は3ヶ月以内に終了しています。

労働審判であっても、お互いに合意できなければ、後日通常の裁判が行われることになるため、状況次第では長期化する可能性はあります。
しかし、上記データによれば、労働審判において合意できたケースについては、通常の裁判よりも圧倒的に早く解決できるというメリットがあります。

労働審判委員会が労働審判を終了させるケースとは?

事件の性質が、迅速かつ簡易的な解決を目的とする労働審判手続に適さない場合は、労働審判委員会の判断で労働審判を打ち切り、通常の裁判へと進む場合があります。
これを労働審判法第24条に基づく終了(いわゆる24条終了)といいます。

労働審判手続に不適当である事件とは、3回以内の期日で審理を終えることが難しい複雑な事件や、調停や労働審判による解決に向いていない事件を指します。
24条終了される可能性の高いケースとして、以下が挙げられます。

  • 男女差別や労働組合差別、人事評価を争う事件
  • 会社分割の無効を争う事件
  • 就業規則の不利益変更を争う事件
  • 高度な専門的知識が必要とされる事件(発明の対価など)
  • 事実認定のため、多くの証人尋問を必要とする事案(ハラスメントなど)
  • 大量の証拠の精査が求められる事案(労働時間が争点となる残業代請求など)

労働審判手続で不備が無いよう、労働問題の専門家である弁護士がサポート致します。

労働審判のポイントは、第1回期日で勝負の大半が決まってしまうことです。
これは、解決までが早いという労働審判のメリットの裏返しでもあります。

呼出状が届いてから第1回期日までの期間は非常に短く、その間に膨大な事実調査や証拠収集、説得力のある答弁書の作成を完了させなければなりません。

しかし、労働審判では呼出状が届いてから第1回期日までの期間が非常に短く、かつ、答弁書の作成や証拠集めなど、会社として準備するべきことが膨大です。
そのため、適切な準備をして第1回期日に臨むことが難しいという現状があります。

弁護士法人ALGでは、こうしたタイトなスケジュールにも対応できるよう、電話やWeb会議システムを積極的に活用した、スピード感のあるリーガルサポート体制を整えています。

北海道は広く、移動に時間を要する地域も多いですが、当事務所ではWeb会議等を通じたオンラインでの打ち合わせが可能です。
そのため、札幌市内のみならず道内全域の企業様に対して、対面と変わらない密度で、迅速かつ適切な準備をバックアップいたします。

弁護士法人ALGには労働法務に精通する弁護士が多く所属しております。
労働審判手続で不備がないよう、迅速かつ適切にサポートすることが可能ですので、ぜひご相談ください。

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札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈
監修:弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長
保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)
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