
監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
作成者の死後に備えて作成される遺言書にはいくつかの種類があり、そのなかでも確実性や安全性が高いといわれるのが公正証書遺言です。
公正証書遺言はメリットが大きい一方で、作成に手間や費用がかかるなどの注意点もあります。
今回は、ご自身の意思を確実に実行してほしいとお考えの方におすすめの公正証書遺言について、メリットやデメリットを踏まえながら、作成の流れをご紹介していきます。
Contents
公正証書遺言とは
“公正証書遺言”とは、公証役場にて証人2名の立ち合いのもと、法律の専門家である公証人が作成する遺言書のことです。
ご自身だけで作成する“自筆証書遺言”と異なり、公正証書遺言は、公証人や証人が関与して作成され、遺言者本人の意思確認をしたうえで、遺言者と証人が署名押印することで完成します。
完成した公正証書遺言は、原本が公証役場で保管されることから、裁判所による検認の手続きが必要ないことも特徴のひとつです。
不備によって遺言書が無効になる可能性が低く、紛失や偽造などのおそれもないことから、遺言書の内容を確実に実行してほしいと考える方におすすめの方法です。
公正証書遺言のメリット
公正証書遺言は、遺言者の意思確認をしたうえで公証人が作成し、公証役場で原本が保管されるという特徴から、次のような3つのメリットがあります。
- 紛失、偽造、変造のおそれがない
- 遺言書開封時の検認手続きが不要
- 自筆できない人でも作成できる
それぞれのメリットを、次項で詳しくみていきましょう。
紛失、偽造、変造のおそれがない
公正証書遺言の原本は公証役場で保管されるため、紛失したり、第三者に破棄・変造されたりするおそれがありません。
また、本人への意思確認のもと公証人が作成する公正証書は、第三者に偽造される心配もなく、「誰かに脅されて書かされた遺言書だ」などと遺言書の効力が争われることも回避できる可能性が高いです。
遺言書開封時の検認手続きが不要
公正証書遺言は、開封時の検認手続きが必要ないこともメリットのひとつです。
検認とは、家庭裁判所で相続人立ち合いのもと遺言書を開封し、内容を確認する手続きのことで、遺言書の偽造や変造を防止する目的もあります。
そのため、公証人や証人が関与して作成された後に公証役場で保管される、偽造・変造のリスクが低い公正証書遺言は、開封時に検認手続きが不要で、速やかに遺言書の内容を実現することができます。
自筆できない人でも作成できる
公正証書遺言は、遺言者の意思に基づいて公証人が遺言書の内容を作成するため、高齢や病気などの事情で文字が書けず、遺言書を自筆できない場合でも作成することができます。
また、遺言者が署名押印できない場合にも、公証人がその事由を付記することで署名に代えることができるので、遺言者本人が作成し、署名押印が必要な自筆証書遺言とは異なり、公証人と意思疎通ができれば公正証書遺言は作成できるのが大きなメリットです。
なお、公正証書遺言は公証役場での手続きが必要ですが、外出が困難な場合には、出張費用を支払って、自宅や病院へ公証人に出張してもらうことも可能です。
公正証書遺言のデメリット
公正証書遺言には大きなメリットがある一方で、次のようなデメリットもあります。
- 作成に時間や費用がかかる
- 2名以上の証人が必要となる
それぞれ、次項で詳しくみていきましょう。
作成に時間や費用がかかる
公正証書遺言のデメリットとして、作成に時間や費用がかかることが挙げられます。
公正証書遺言は、公証人と打ち合わせをしたうえで作成するため、自筆証書遺言とは異なり「すぐに」作成することはできません。
また、作成にあたって公証役場が定める手数料などの費用が発生する点にも注意が必要です。
公正証書遺言の作成手数料は、遺言の対象とする相続財産の価額によって変動し、5000円~5万円程度と価額が大きくなるほど手数料も高額となります。
このほか、公証役場に証人を紹介してもらった場合には、証人の費用が1人あたり別途1万円程度必要になります。
2名以上の証人が必要となる
公正証書遺言を作成するにあたって2名以上の証人が必要となる点も、デメリットのひとつです。
2名以上の証人の立ち合いがなければ公正証書遺言は作成できないのですが、証人は遺言者ご自身で手配する必要があります。
なお、証人は誰でもいいわけではありません。
詳細は後述しますが、遺言者の相続人や、その遺言によって財産を引き継ぐことになる人(=受遺者)など、利害関係人は証人になることができません。
一般的には友人や知人から証人を探すことになりますが、遺言書の内容を知られたくないなど、ご自身で証人を手配できない場合は、公証役場に紹介してもらうことも可能です。
その際には作成手数料とは別に日当が発生するため注意しましょう。
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公正証書遺言を作成する流れ
公正証書遺言を作成する一般的な流れは次のとおりです。
- ①遺言書に書きたい内容のメモを作成する
- ②必要書類を集める
- ③2名以上の証人を探す
- ④証人と一緒に公証役場に行き、遺言書を作成する
それぞれの手続きについて、次項で詳しく解説していきます。
遺言書に書きたい内容のメモを作成する
まずは、ご自身で遺言書に書きたい内容をまとめて、メモなどに記録しておきましょう。
所定の書式はありませんが、抜け漏れのないように財産を洗い出し、「誰に、どの財産を、どのように渡したいのか」を箇条書きにまとめておくとよいでしょう。
【具体例】
- 自宅を妻に相続させる
- A銀行の預金全額を長男に相続させる
- ゆうちょ銀行の貯金全額をお世話になった△△団体へ寄付する
- 遺言執行者は長男とする
など
必要書類を集める
遺言書に書きたい内容が決まったら、その内容に応じて必要な書類を用意しましょう。
必要書類は公証役場に連絡して事前に確認することが可能ですが、代表的なものをいくつか表にまとめましたのでご参考ください。
内容 | 必要書類 |
---|---|
遺言者本人を証明するもの |
以下、①~⑤のいずれか ①印鑑登録証明書と実印 ②運転免許証と認印 ③マイナンバーカードと認印 ④住民基本台帳カード(写真付き)と認印 ⑤パスポート、身体障害者手帳または在留カードと認印 |
相続人との続柄が分かるもの | ●戸籍謄本 |
相続人以外に財産を渡す場合 |
●受遺者の住民票 ●登記簿謄本(登記事項証明書) ※受遺者が法人の場合 |
不動産がある場合 |
●固定資産税納税通知書または固定資産評価証明書 ●不動産の登記簿謄本(登記事項証明書) |
預貯金がある場合 | ●通帳またはその写し |
遺言執行者の指定がある場合 ※指定された遺言執行者が 相続人や受遺者以外の場合 |
●住民票や運転免許証の写し ●職業がわかるもの |
証人の確認資料 |
●住民票や運転免許証の写し ●職業がわかるもの |
2人以上の証人を探す
公正証書遺言の作成には、遺言者本人の意思に基づくものであるかなどを確認するために、2名以上の証人の立ち合いが義務付けられています。
2名以上と定められているとはいえ、実際に必要な証人は2名であることがほとんどです。
【証人の探し方】
一般的には、友人や知人から、証人になってくれる人を探します。
公正証書遺言の作成に立ち合うことになるため、遺言の内容を知られても差し支えない、信頼できる人がよいでしょう。
なお、証人は誰でもなれるわけではありませんので注意が必要です。
証人になれない人
公正証書遺言の証人になれない人は、次のいずれかにあてまはる人です。
【公正証書遺言の証人の欠格者】
- 未成年者
-
遺言者の推定相続人
(現時点で相続が発生した場合に、相続人になると推定される人) -
受遺者
(遺言によって財産を受け取る人) - 推定相続人および受遺者の配偶者や直系血族
- 公証人の配偶者、4親等内の親族、書記および使用人
遺言の内容を把握することが難しい未成年者や、遺言の利害関係人は証人になれず、該当する人が証人となった場合は、公正証書遺言が法的に無効となってしまうため注意しましょう。
証人と一緒に公証役場に行き、遺言書を作成する
遺言書の内容を決め、必要書類が集まったら、公証役場に連絡をしたうえで公証人と打ち合わせを行います。
公正証書遺言の内容が確定したら、日程を決めて遺言者と証人2名が公証役場へ出向き、公証人の立ち合いのもと公正証書遺言の作成が行われます。
【公正証書遺言作成当日の流れ】
- ①公証人から、遺言者と証人2名の本人確認が行われる
- ②公証人が作成した遺言書の内容を、遺言者と証人2名に読み聞かせる
- ③内容が正確であることが確認できたら、遺言者と証人2名が署名押印する
- ④公証人が署名押印する
- ⑤原本が公証役場で保管され、正本・謄本が遺言者に交付される
【公正証書作成当日の持ち物】
- 遺言者と証人2名、それぞれの身分証明書(運転免許証など)
- 遺言者と証人2名、それぞれの実印
- 公証人に支払う手数料
遺言書を作成する公証役場はどこ?
公正証書遺言は、全国どこの公証役場でも作成することができます。
もっとも、公証役場に出向くことを考えると、自宅や職場の近くの公証役場を利用することをおすすめします。
【公証人に出張してもらう場合】
公証人は管轄外の地域に出張することができないため、病気などで外出が困難で公証人に出張してもらう場合は、訪問先の県内の公証役場に依頼する必要があります。
公正証書遺言の作成が困難なケースと対処法
公正証書遺言は、公証人が遺言の内容を読み聞かせ、遺言者自身でその内容に相違ないかを確認したうえで署名押印することで完成しますが、こうした手続きが難しい場合や、遺言者が公証役場に出向けない場合、公正証書遺言を作成することはできないのでしょうか?
以下、公正証書遺言の作成が困難と考えられる3つのケースごとに、対処法をご紹介します。
言語機能や聴覚に障害がある場合
言語機能や聴覚に障害のある方でも、口頭や読み聞かせに代わる次のような方法によって公正証書遺言を作成することが可能です。
-
口がきけない方に対する、口頭に代わる措置
筆談や、通訳人による通訳で、公証人に遺言者の意思を伝える。 -
耳が聞こえない方に対する、読み聞かせに代わる措置
閲覧や、通訳人の手話により公証人が作成した遺言書の内容を遺言者に伝え、正確性を確認する。
署名できない場合
遺言者ご自身が身体上や健康上の理由によって署名できない場合でも、公正証書遺言を作成することが可能です。
遺言者が遺言の内容が正確なことを承認できれば、遺言者が署名することができない事由を公証人が付記することで、署名に代えることができます。
公証役場に行けない場合
身体上または健康上の理由や、高齢で体力的に難しいなどの理由で外出できず、遺言者ご自身が公証役場に行けない場合でも、公証人に出張してもらうことで公正証書遺言が作成できます。
自宅や、病院・施設など、公証人に出張してもらう際には、公証人の管轄外の地域へ出張できないことや、日当(目安として2万円)や交通費が別途必要になることに注意が必要です。
現状、公正証書遺言は対面・書面での手続きが必須です。
ですが、公正証書遺言の一連の手続きのデジタル化に関する改正法が令和7年に施行・実施される見通しです。法改正、これにより申請から交付まで、オンラインですべて手続きが可能になる見込みです。
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公正証書遺言の作成を弁護士に依頼するメリット
公正証書遺言を作成するにあたって、弁護士にサポートを依頼することが可能です。
弁護士に依頼する主なメリットとして、次のようなものが挙げられます。
- 遺言内容の相談ができる
- 書類準備などの手間が省ける
- 弁護士をを遺言執行者として選任できる
- 任意後見契約を結ぶことについてもサポートを受けられる
それぞれのメリットを、次項で詳しくご紹介していきます。
遺言内容の相談ができる
弁護士に依頼することで、遺言書が法的に有効か、トラブルにならないかなどの相談ができます。
公証人は遺言者の意思に従って遺言書を作成しますが、遺言者の希望を実現するためにどのような遺言にすればよいか?や、トラブルを防ぐためにどうすればよいか?などの内容については相談することができません。
遺言書を作成するにあたっては、「遺留分を侵害しない内容にする」、「相続税の負担を考慮する」など、注意すべき事柄がいくつかありますので、ご自身の希望を実現できる遺言書を作成したい場合には、事前に弁護士へ相談することをおすすめします。
書類準備などの手間が省ける
公正証書遺言の作成には、さまざまな書類を集める必要がありますが、戸籍謄本などの書類は弁護士に依頼することで効率的に取得することが可能になります。
どのような書類が必要か、集めた書類に不足はないかなどの確認もしてもらえるので、円滑な公正証書遺言の作成が期待できます。
遺言執行者として選任できる
弁護士を遺言執行者として選任できることも、メリットのひとつです。
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことをいいます。
遺言執行者に弁護士を指定することにより、相続争いを回避して、遺言執行手続きを円滑に進められる可能性が高まります。
なお、弁護士に遺言執行を依頼した場合、一般的に30万~100万円程度の費用(相続財産の総額によって変動)が必要となります。
弁護士法人ALGでは、遺言執行だけをご依頼いただくことも可能ですが、遺言書の作成についてご依頼いただいていた場合、遺言執行に関する着手金などの一部費用が発生しません。
公正証書遺言の作成を弁護士に依頼する際は、遺言執行についても弁護士に依頼すべきか、あわせてご相談いただくことをお勧めします。
任意後見契約を結ぶことができる
公正証書遺言を作成したいと考えたとき、あわせてご検討いただきたいのが“任意後見制度”です。
任意後見制度とは、将来判断能力が低下した場合に備えて、予めご自身で後見人を選んで、ご自身の代わりに行ってもらいたいことを契約で定めておく方法です。
任意後見契約は公正証書によって締結する必要があるので、公正証書遺言を作成する際にあわせて任意後見について契約を結ぶケースも多くみられます。
契約内容について、弁護士からアドバイスを受けることも可能ですし、任意後見人の依頼をすることもできますので、公正証書遺言と合わせてご相談なさることをおすすめします。
公正証書遺言に関するQ&A
公正証書遺言にすれば確実に効力がありますか?
公正証書遺言にすれば、必ず法的に有効になるとは限りません。
公正証書遺言は公証人が作成するため、自筆証書遺言のように様式の不備によって無効になることはほとんどありませんが、次のようなケースでは、たとえ公正証書遺言であっても「法的に無効」と判断されることがあるので注意が必要です。
●遺言の内容が公序良俗に反する
●遺言者に遺言能力がなかった
●証人が不適格だった
●詐欺・強迫・錯誤があった など
せっかく作成した遺言書が無効となって、ご自身の意思とは違う方法で遺産相続されることを防ぐためには、公正証書遺言を作成する場合でも、あらかじめ弁護士に相談することをおすすめします。
一度作成した公正証書遺言の内容を変更することはできますか?
一度作成した公正証書遺言の内容を変更することは可能です。
公正証書遺言の内容を変更する場合、変更箇所が一部であっても、全部であっても、新しい公正証書遺言を作成することになります。
この際、証人2名の立ち合いと作成手数料が改めて必要となります。
【自筆証書遺言を新たに作成する方法もある】
公正証書遺言を撤回する旨を記載した自筆証書遺言を新たに作成することでも、公正証書遺言の内容を変更することが可能です。
ですが、自筆証書遺言は紛失や改ざんなどのリスク・デメリットが大きいため注意が必要です。
公正証書遺言があることは死亡後通知されますか?
遺言者が亡くなった際に遺族(相続人)に対して、公証役場から公正証書遺言がある旨の通知は一切行われません。
そのため、せっかく作成した公正証書遺言の存在を知らないまま相続人間で遺産分割されることを回避するためにも、公正証書遺言を作成したことを、信頼できる方に事前に報告しておくことをおすすめします。
なお、公正証書遺言が存在するかどうかわからない場合は、最寄りの公証役場に“遺言検索”を依頼しましょう。
遺言検索は、遺言者が亡くなった後、相続人などの法的な利害関係人であれば全国どこの公証役場でも依頼することが可能です。
遺言書を見せてもらえません。公証役場で開示請求はできますか?
遺言者が亡くなった後、公正証書遺言を見せてもらえない場合、公証役場に対して開示請求することができます。
遺言者の相続人・受遺者・遺言執行者といった利害関係人であれば、開示請求によって公正証書遺言の謄本(原本の写し)が取得できます。
【公正証書遺言の開示請求の流れと必要書類・費用】
①最寄りの公証役場で遺言検索を依頼する
②公正証書遺言が保管されている公証役場に開示請求して、謄本を取得する
必要書類 | 費用 |
---|---|
●遺言者の死亡がわかる書類 (除籍謄本・死亡診断書など) ●利害関係人であることがわかる書類 (戸籍謄本) ●依頼者本人の確認書類 (運転免許証・パスポートなど) |
●遺言検索:無料 ●閲覧:1回につき200円 ●謄本の取得:1ページにつき250円 |
公正証書遺言に関する不安、不明点は弁護士にご相談ください
公正証書遺言は、公証人や証人が関与したうえで厳格な手続きのもと作成されるため、自筆証書遺言に比べて確実性・安全性が高いと考えられています。
「自分が希望するとおりに財産を引き継いでほしい」と望む場合におすすめの方法ですが、手続きが難しそうと感じる方も多いのではないでしょうか。
公正証書遺言の作成にあたって手続きに不安がある場合や、遺言の内容にアドバイスが必要な場合は、一度弁護士法人ALGまでご相談ください。
遺言書の作成をはじめとした相続問題に詳しい弁護士が、ご相談者様の希望が実現できるように、公正証書遺言の作成についてアドバイス・サポートいたします。
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保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)