
監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
一定の相続人は、被相続人の遺産について最低限の割合を取得できることが法律上保障されています。
これを“遺留分”といいます。遺言や、被相続人の生前贈与・死因贈与によって偏った相続配分となった場合、遺留分に満たない遺産しか受け取れなかった相続人から、「遺留分を侵害された」として、侵害額に相当する金銭の支払いを求める“遺留分侵害額請求”をされる可能性があります。
そこで今回は、
- 遺留分を請求された場合にどのように対処すればよいのか
- 請求された遺留分を減額することはできるのか
などについて、遺留分侵害額請求された方に向けて解説していきます。
Contents
遺留分侵害額請求をされたら、内容をよく確認しましょう
遺留分侵害額請求をされたら、まずは内容をしっかり確認しましょう。場合によっては、そもそも請求に応じる必要がなかったり、過大請求に対して減額できる可能性もあります。
以下、内容を確認する際の4つのポイントについて解説していきます。
- 請求者に遺留分を請求する権利はある?
- 遺留分の侵害は事実かどうか
- 請求された割合は合っている?
- 遺留分請求の時効を過ぎていないか
請求者に遺留分を請求する権利はある?
まずは誰から遺留分を請求されているのかを確認し、請求者が遺留分侵害額請求する権利があるか=遺留分権利者なのかを確認しましょう。遺留分権利者となるのは次のとおりです。
- 被相続人の配偶者
- 被相続人の子供や孫などの直系卑属
- 被相続人の父母や祖父母などの直系尊属(被相続人に子供や孫などの直系卑属の相続人がいない場合)
なお、次に該当する場合、相続人であっても遺留分を請求することはできません。
- 被相続人の兄弟姉妹や甥・姪
- 相続放棄した相続人
- 相続欠格事由にあたる相続人
- 相続廃除された相続人
遺留分の侵害は事実かどうか
請求者が遺留分権利者であった場合、次は相手方が主張する遺留分の侵害が事実かどうかを確認しましょう。遺留分侵害の対象となるのは、次の財産です。
- 遺贈(遺言によって特定の人が財産を引き継ぐこと)された財産
- 死因贈与(贈与者の死亡を条件に特定の人と贈与契約を結ぶこと)された財産
- 生前贈与(贈与者が生存しているうちに特定の人に財産を分け与えること)された財産
遺留分を請求された方が、他の相続人の遺留分を侵害するほどの遺産をそもそも受け取っていなかったり、あまりに昔の生前贈与だったりする場合は、遺留分侵害の対象にはなりません。
また、遺言や贈与によって財産を取得した人が複数いる場合、本来の請求先は他の相続人や受遺者・受贈者の可能性もあります。
遺留分侵害額請求にあたっては、請求者の認識に誤りがあることも少なくないので、相手方の主張を鵜呑みにするのではなく、事実確認をしっかり行うようにしましょう。
請求された割合は合っている?
遺留分権利者からの主張が正しいものであった場合、次は請求された割合が妥当かを確認しましょう。
遺留分の割合は、基本的に「法定相続分の2分の1」ですが、相続人が直系尊属(父母や祖父母など)だけの場合は、「法定相続分の3分の1」となります。
相続人 | 遺留分 | 配偶者 | 子供 | 父母 | 兄弟 |
---|---|---|---|---|---|
配偶者と子供 | 1/2 | 1/4 (1/2×1/2) |
1/4÷人数 (1/2×1/2) |
– | – |
配偶者と父母 | 1/2 | 2/6 (1/2×2/3) |
– | 1/6÷人数 (1/2×1/3) |
– |
配偶者のみ 配偶者と兄弟 |
1/2 | 1/2 | – | – | – |
子供のみ | 1/2 | – | 1/2÷人数 | – | – |
父母のみ | 1/3 | – | – | 1/3÷人数 | – |
遺留分請求の時効を過ぎていないか
遺留分侵害額請求が適正である場合、時効が過ぎていないかも確認しましょう。
遺留分侵害額請求は、次のいずれかの時効期限を過ぎると、請求権が消滅してしまいます。
【遺留分侵害額請求権の時効】
- 「相続開始」および「遺留分を侵害する遺贈・贈与があったこと」を知ったときから1年(消滅時効期間)
- 相続開始のときから10年(除斥期間)
これら時効が近いからといって請求を無視・放置するのは危険です。なぜなら、遺留分を請求された時点で時効のカウントがストップするからです。
ただし、請求を受けた後、交渉がないまま5年が経過すると、金銭債権の消滅時効が成立する場合もあります。
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払わなくていいケースでも連絡は必要?
「もう時効過ぎてるし無視しよう」「請求の権利が無いから放っておこう」「遺留分侵害していないから放っておこう」は問題ないか解説をお願いします。
「請求者はそもそも遺留分権利者ではない」
「請求されたけれど、実際は遺留分を侵害していなかった」
「時効が過ぎている」
など、遺留分請求に応じなくていいケースでも、相手方に対して連絡することが望ましいです。請求を無視・放置すると調停などの法的手続きをとられ、本来よりも多くの対応が必要となる可能性もあるので、ご自身には請求に応じる必要がないことをきちんと伝えるようにしましょう。
遺留分の請求は拒否できないの?
遺留分の請求は法的に認められた権利なので、適正な主張である場合、拒否することはできません。
請求を拒否し続けていると、相手方から調停を申し立てられたり裁判を起こされる可能性があり、相手の請求額がそのまま認められてしまうおそれがあります。
また、最終的に強制執行が認められると、預貯金などの財産を差し押さえられてしまうリスクもあります。こうした事態に備えて、遺留分侵害額請求は決して無視・放置せず、弁護士に相談しながら適切に対応することが重要です。
遺留分は減らせる可能性がある
遺留分侵害額請求が認められる場合でも、支払う金額を減らせる可能性があります。代表的なケースとして、請求者に特別受益がある場合と、不動産の評価額が下がる場合が挙げられます。
次項で詳しくみていきましょう。
請求者に特別受益がある場合
遺留分の請求者に特別受益がある場合、支払う金額を減額できる可能性があります。
特別受益とは、被相続人から生前贈与や遺贈によって特定の相続人が得た特別な利益のことです。
相続財産を公平にわけるためには、遺留分侵害額の計算にあたっても特別受益は考慮すべき要素となります。
したがって、遺留分侵害額を計算する際は特別受益分を差し引いて侵害額を計算する必要があるのですが、請求者自ら特別受益を考慮した金額を請求するケースは少ないため、請求額から支払う金額を減額できる可能性があるのです。
遺産の評価額を下げる
遺産の評価額を低く主張することで、支払う金額を減額できる可能性もあります。
評価額が争われる遺産として、代表的なものに土地や建物などの不動産が挙げられます。
不動産の評価額は、採用する評価方法によって大きく変わることがあります。
相手方の主張する評価額を鵜呑みにせず、適正な評価方法を確認し、評価額を下げることができれば、遺留分侵害額として支払う金額を減額することも可能です。
自身に寄与分がある場合、遺留分は減らせる?
遺留分を請求された方に寄与分がある場合、支払う金額が減らせるのでは?と思われるかもしれませんが、残念ながら寄与分によって遺留分が減額されることはありません。
寄与分とは、被相続人の家業を手伝っていたり、無償で介護をしたりして財産の維持・増加に関して一定の貢献をした者に対して、その貢献度に応じて多めに遺産を取得することを認める制度です。
この寄与分は遺留分侵害額を計算するにあたって考慮すべき要素に規定されていないため、ご自身が取得した遺産から寄与分を控除して遺留分を計算することができないのです。
したがって、寄与分があることを理由に遺留分の減額を求めることはできませんので注意が必要です。
遺留分を請求されてお困りのことがあれば弁護士にご相談ください
遺留分侵害額請求をされたからといって、相手方の主張を鵜呑みにするのは危険です。
適正な請求かどうかや、ご自身以外に遺留分侵害額を支払うべき相続人が他にいないのかを、しっかりと確認する必要がありますが、ご自身だけで適切に判断するのは難しいことが多いです。
弁護士に依頼することで、相手方の主張が正しいかどうかを判断することはもちろん、相続人調査や相続財産調査、相手方の交渉など、労力を要する手続きを任せることができます。
遺留分を請求されてお困りの方は、まずは弁護士法人ALGまでお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)