
監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
遺産分割協議が終わった後で、さまざまな事情から「遺産分割協議をやり直したい」というケースも少なくありません。
遺産分割協議は、相続人全員で話し合い、合意のもと成立するものなので、基本的に一度成立した遺産分割協議はやり直すことができないのですが、一定の条件を満たす場合に限りやり直しできる可能性があります。
今回は、遺産分割協議のやり直しに焦点をあてて、やり直しできるケース・できないケースや注意点、成立した遺産分割協議が無効でやり直しせざるを得ないケースについて解説していきます。
Contents
遺産分割協議がやり直せるケース
相続人全員の合意によって成立した遺産分割協議は、基本的にやり直しができませんが、次のような事情がある場合に限り、例外的に遺産分割協議のやり直しが可能となります。
- 全員がやり直しに合意した
- 遺産分割協議後に騙されたと気づいた・勘違いしていた
上記2つのケースについて、次項で詳しく解説していきます。
全員がやり直しに合意した
相続人全員が合意すれば、遺産分割協議をやり直すことができます。
「やっぱり納得できない」
「手続きを進めるなかで不都合が生じた」
など、どのような理由であっても、相続人全員の合意があれば、すでに成立している遺産分割協議を解除して、やり直すことができます。
ただし、反対する相続人が1人でもいればやり直しはできませんし、税金などの金銭面や手続きで負担が大きくなるリスクがあるため、注意が必要です。
遺産分割協議後に騙されたと気づいた・勘違いしていた
遺産分割協議が終わった後で、騙された・勘違いしていたと気づいた場合は、遺産分割協議をやり直すことができます。
- 他の相続人の嘘を信じて合意してしまった(詐欺)
- 脅されてやむなく合意してしまった(強迫)
- 遺産の時価を誤信して合意してしまった(錯誤)
などの事情がある場合は、相続人全員の合意がなくても、遺産分割協議の取り消しを主張することができます。
取り消しが認められると、成立した遺産分割協議はなかったことになってやり直しすることになります。
なお、遺産分割協議の取り消しを主張する場合は、取り消す原因があることを知ってから5年、知らなかった場合も遺産分割協議から20年が経過すると取り消しができなくなってしまうため注意が必要です。
遺産分割協議が無効になるケース(やり直しが必須になるケース)
成立した遺産分割協議がそもそも無効で、やり直しが必須となるケースがあります。具体的なケースは次のとおりです。
- 参加していない相続人がいる、新たに相続人が現れた
- 認知症等、意思能力のない人が参加していた
それぞれのケースについて、次項で詳しく解説していきます。
参加していない相続人がいる、新たに相続人が現れた
参加していない相続人がいたり、新たに相続人が現れた場合は、遺産分割協議をやり直さなければなりません。
- 連絡の取れない相続人を抜いて遺産分割協議を行った
- 前妻に引き取られた子供がいたことに気づかずに遺産分割協議を行った
- 遺産分割協議後に、被相続人に認知された子供が現れた
など、1人でも欠けている状態で成立した遺産分割協議は無効となるため、相続人全員で改めて遺産分割協議をやり直す必要があります。
認知症等、意思能力のない人が参加していた
認知症等で意思能力のない人が参加していた場合、遺産分割協議をやり直さなければなりません。
- 重度の認知症で意思能力がない
- 重度の精神疾患で意思能力がない
- 未成年者
など、意思能力のない人がひとりで行った法律行為は無効となります。
遺産分割協議は法律行為にあたるため、意思能力のない人がひとりで参加した遺産分割協議は無効となって、やり直しが必要となります。
意思能力のない人が相続人となる場合は、代理人(成年後見人や特別代理人)を立てて遺産分割協議をやり直すことになります。
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遺産分割協議後に新たに遺産が見つかった場合は?
遺産分割協議後に新たな遺産が見つかった場合は、新しく見つかった遺産についてのみ遺産分割協議を行うことになります。もっとも、相続人全員が合意できれば、従前の遺産を含めたすべての遺産分割をやり直すことも可能です。
やり直したいけど相続人の中に亡くなった人がいる場合
遺産分割協議をやり直したいけれど、相続人の中に亡くなった人がいる場合は、亡くなった相続人の相続人全員の合意が必要になります。被相続人の相続人全員と、亡くなった相続人の相続人全員の合意があれば、遺産分割協議をやり直すことができます。
遺産分割協議のやり直しはいつまで?時効はある?
遺産分割協議のやり直しに時効はありません。
ただし、騙されたり勘違いしていて遺産分割協議を取り消したい場合は、取り消す原因があることを知ってから5年、知らなくても遺産分割協議から20年が経過すると時効により取消権が消滅してしまいます。
遺産分割協議をやり直す場合の注意点
遺産分割協議をやり直すにあたって、いくつか注意すべき事柄があります。
具体的には、
- 相続後に第三者へ権利が移転された財産は返還を求めることができない
- やり直しによって、遺産分割協議書の作成や納税、相続登記などの手続きが改めて必要になる
- 無効や取り消しにより遺産分割協議をやり直した場合は、相続税の修正申告や更生の請求が必要になる
- 相続人の合意で遺産分割協議をやり直す場合は、贈与税・所得税・不動産取得税・登録免許税などの二重課税が発生することがある
といったことが挙げられます。
次項で、遺産分割協議をやり直す場合の課税について詳しくみていきましょう。
遺産分割のやり直しには贈与税がかかる
相続人全員の合意で遺産分割協議をやり直した場合は、税法上は遺産分割ではなく、新たに財産を受け取った人への贈与とみなされて、贈与税が課税されることがあります。
また、対価の支払いが発生した場合は売買という扱いとなり、譲渡所得税が課税されます。
【例】
遺産分割協議のやり直しにより、相続人Ⓐが取得して相続登記した不動産を、相続人Ⓑが取得することになったとします。
この場合、相続人Ⓑに贈与税が課税されます。
(相続人Ⓑが相続人Ⓐに対価を支払った場合、相続人Ⓐに譲渡所得税が課税されます)
すでに相続税を納付していた場合は?
遺産分割協議のやり直しによって、納付済の相続税が返還されることも、贈与税や所得税が免除されることもないので、同じ財産に対して二重課税されることになります。贈与税や所得税は、相続税よりも税率が高くなるため、注意が必要です。
相続税の申告前(納税前)に遺産分割協議をやり直した場合は?
やり直した後の遺産分割協議の内容で相続税が申告できるのかどうかは、判断が難しいです。遺産分割協議が成立した場合、その時点で遺産の帰属先が確定したことになるため、基本的に贈与税や所得税が課税されると考えられます。もっとも、実務では必ずしも画一的な取り扱いがなされているわけではなく、個々の事情を考慮して個別に判断がなされることもあるためまずは弁護士に相談しましょう。
不動産がある場合は不動産取得税や登録免許税が発生する
相続人全員の合意で遺産分割協議をやり直し、不動産の所有者が変わった場合、登録免許税が発生します。すでに納付した登録免許税は返還されないため、二重課税されることになり、さらに贈与や売買という扱いになるため、不動産取得税も課税されます。
名義変更前(相続登記前)に遺産分割協議をやり直した場合は?
やり直す前の遺産分割協議の内容で相続登記を行うべきかは、判断が難しいです。遺産分割協議が成立した時点で遺産の帰属先が確定したことになるため、基本的には贈与や売買と判断される可能性があります。
もっとも、実務では必ずしも画一的な取り扱いがなされているわけではなく、個々の事情を考慮して個別に判断がなされることもあります。まずは弁護士に相談しましょう。
やり直しができないケースはある?
遺産分割協議のやり直しができないケースとして、次のようなものが挙げられます。
- 遺産分割協議のやり直しに反対する相続人が1人でもいる場合
遺産分割協議のやり直しには、相続人全員の合意が必要です。 - 騙されたり勘違いしていたりして遺産分割協議を取り消すにあたり、時効を過ぎていた場合
取り消す原因があることに気づいてから5年、または遺産分割協議から20年のいずれか早い時点で、時効により取り消しが請求できなくなります。 - 遺産分割協議が調停や審判によって成立していた場合
相続人全員がやり直しを希望しても、裁判所の結果を覆すことはできません。裁判所の判断に不服がある場合は、審判後2週間以内に即時抗告を行う必要があります。
遺産分割協議のやり直しについては弁護士にご相談ください
遺産分割協議は、一定の条件を満たせばやり直すことができます。
ただし、有効な遺産分割協議を安易にやり直してしまうと、労力と時間がかかるほかに、税務上の負担が大きくなる可能性もあるので、慎重に判断しなければなりません。
弁護士であれば、遺産分割協議のやり直しができる見込みがあるのかどうか、税務上の負担がどのくらいになるのかなどをアドバイスできるだけでなく、遺産分割協議のやり直しを含めた相続手続き全般についてもサポートが可能です。
遺産分割協議をやり直すべきかどうか迷ったり、ほかの相続人との交渉がスムーズに進まなかったりしてお困りのときは、弁護士法人ALGへご相談ください。
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保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)