
監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
遺産分割を行った後、当事者全員が合意している場合や遺産分割が無効・取消となる場合に限り、例外的に遺産分割をやり直すことができます。
では、遺産分割のやり直しに期限や時効はあるのでしょうか?
本ページで詳しく解説していきます。
Contents
遺産分割はやり直しができるのか
遺産分割のやり直しは基本的にできないのですが、例外として遺産分割のやり直しができるケースがあります。
次の3つのケースでは、遺産分割のやり直しが可能になります。
- ①相続人や受遺者などの当事者全員が合意している場合
- ②遺産分割が無効となる場合
- 遺産分割協議に相続人全員が参加していなかった
- 遺産分割協議に意思能力のない認知症の相続人が参加していた
- 遺産分割協議に未成年者の相続人が単独で参加していた など
- ③遺産分割が取消となる場合
- 合意した後に騙されたことに気付いた(詐欺)
- 脅されてやむなく合意してしまった(強迫)
- 遺産の時価を誤信したまま合意してしまった(錯誤) など
遺産分割後に他の財産が見つかった場合
遺産分割後に新たに相続財産が見つかった場合、見つかった財産についてのみ、相続人全員で遺産分割協議を行って遺産分割するのが一般的です。
もっとも、相続人全員が合意すれば、すでに遺産分割した分を含めて遺産分割協議をやり直すことも可能です。
遺産分割のやり直しを行う場合に期限や時効はある?
遺産分割そのものに期限や時効はなく、遺産分割をやり直す場合も同様に期限や時効はありません。
そのため、相続人全員の合意がある場合には、何年後でも遺産分割をやり直すことは可能です。しかし、一度成立した遺産分割の取消を主張する場合は取消権に時効があるので注意が必要です。
取消権には時効があるので注意が必要
詐欺や強迫、錯誤によって不当な遺産分割が行われた場合に、遺産分割のやり直しを求めるにあたっては、取消権の時効に注意が必要です。
詐欺・強迫・錯誤を理由に遺産分割の取消を主張する“取消権”は、「騙された」、「脅されていた」、「勘違いしていた」など、取消の事由に気付いたときから5年、または遺産分割が行われてから20年が経過し、消滅時効が成立したことを主張されてしまうと、遺産分割の取消・やり直しを請求することができなくなってしまうからです。
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遺産分割をやり直した場合の注意点
遺産分割をやり直した場合の主な注意点は、次の3点です。
- ①やり直し前に財産を第三者へ譲渡していた場合、譲渡された遺産は基本的に取り戻せない
- ②不動産の名義変更が済んでいる場合、再度不動産の登記が必要
- ③課税対象となる場合がある
それぞれの注意点について、次項で詳しく解説していきます。
やり直し前に財産を第三者へ譲渡していた場合、譲渡された遺産は基本的に取り戻せない
遺産分割後にすでに第三者へ譲渡された遺産については、第三者の権利が優先されるため、基本的に、遺産分割のやり直しを理由に取り戻すことができません。
例外的に、「騙されて遺産が第三者に渡ってしまった」、「脅されて遺産を第三者に譲渡してしまった」など、詐欺や強迫によって不当な遺産分割が行われ、その事情を第三者が知っていた場合には、例外的に第三者に対して遺産の取り戻しを行えることがあります。
不動産の名義変更が済んでいる場合、再度不動産の登記が必要
遺産分割後に不動産の名義変更が済んでいて、遺産分割のやり直しによって不動産の所有者に変更が生じる場合は、再度不動産の登記手続きが必要になります。
【遺産分割のやり直しに伴う不動産の登記手続き】
- ①最初の遺産分割における相続登記で、不動産の所有者となった人が相続登記を抹消(所有権抹消登記)する
- ②やり直した遺産分割協議によって新たな相続人となった人が相続登記(所有権移転登記)する
遺産分割のやり直しに伴う登記手続きは、上記の手順で行います。
この際、すでに納付した登録免許税は返還されないため、登録免許税は二重課税されることになります。
課税対象となる場合がある
遺産分割後、相続人など当事者全員の合意で遺産分割協議をやり直した場合、税法上は遺産分割ではなく、贈与があったものとみなされ、“贈与税”などの課税対象となることがあります。
遺産分割のやり直しによって不動産の所有者が変わる場合には“不動産取得税”が、対価の支払いが発生した場合は“譲渡所得税”がかかります。
基本的に、遺産分割のやり直しによって納付済みの相続税が返還されることも、新たに課税対象となる贈与税や所得税が免税されることもないので、やり直した分コストの負担が大きくなる点に注意しましょう。
遺産分割をやり直す際の期限について弁護士にご相談ください
騙された・脅された・勘違いしていたなどの理由で遺産分割をやり直す場合、取消権の時効に注意しなければなりません。
また、合意でやり直す場合や無効となってやり直す場合は時効も期限もありませんが、時間の経過に伴い相続人が亡くなってしまったり、相続人が認知症になったりして、財産の権利関係が複雑になることが考えられます。
そのため、遺産分割をやり直したいとお考えの場合は、なるべく早めの段階で手続きを行う必要があります。
遺産分割のやり直しにあたっては期限のほかに、手続きや費用の負担の大きさなど、考慮すべき事柄が多くありますので、疑問や不安なことは弁護士法人ALGまでご相談ください。
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保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)