亡くなった人が連帯保証人だった場合の相続

相続問題

亡くなった人が連帯保証人だった場合の相続

札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈

監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士

相続をきっかけに、亡くなった人(被相続人)が連帯保証人になっていたことが発覚するケースは少なくありません。

相続すると、預貯金や不動産などのプラスの財産とともに、借金などのマイナスの財産もすべて引き継ぐことになりますが、連帯保証人の地位も引き継がなければならないのでしょうか?

今回は、こうした疑問にお答えすべく、【亡くなった人が連帯保証人だった場合の相続】について、被相続人が連帯保証人になっていたことを知らないまま相続した場合の対処法にも触れながら、詳しく解説していきたいと思います。

亡くなった人が連帯保証人だった場合の相続はどうなる?

亡くなった人(=被相続人)が連帯保証人だった場合、その相続人が連帯保証人の地位を相続することになります。

【相続とは】
相続とは、プラスの財産・マイナスの財産を問わず、被相続人の財産および権利・義務の一切を引き継ぐことをいいます。

連帯保証人は、主たる債務者が返済不能な状況になった場合に、その債務を代わりに返済する義務(=保証債務)を負っています。
保証債務は相続財産に含まれるため、被相続人の財産を相続した相続人は、保証債務=連帯保証人の地位も同時に引き継ぐことになります。

連帯保証人の債務負担の相続割合は?

相続人が複数いる場合は基本的に、民法が定める遺産分割の目安となる割合=“法定相続分”に従って連帯保証人としての保証債務を相続することになります。

<例>
被相続人である父親の連帯保証債務500万円を、母親・長男・長女で相続した場合、それぞれが相続する債務は次のとおりです。

  • 母親:500万円×1/2(法定相続分の割合)=250万円
  • 長男:500万円×1/4(法定相続分の割合)=125万円
  • 長女:500万円×1/4(法定相続分の割合)=125万円

なお、遺産分割協議によって「母親が債務をすべて相続する」など、特定の相続人に債務を集中させる合意をすることも可能です。

ただし、この合意は、債権者に対しての法的な効力はありません。
そのため、母親が返済を怠った場合に、長男・長女に対して債権者から返済を求められたときは応じる必要がありますので、注意しましょう。

相続人の中に債務者がいる場合

相続人の中に債務者がいる場合、その債務者も被相続人の連帯保証人の地位を相続すると考えられます。

<例>

  • 債務者:長女
  • 債務者の連帯保証人:父親
  • 被相続人:父親
  • 相続人:母親、長男、長女 ※他に親族なし

このケースでは、相続人である母親と長男、そして相続人兼債務者である長女が、それぞれ法定相続分に従って連帯保証債務を負担することになります。

とはいえ、長女が主たる債務者なので、長女自身が債務を返済しなければならないことに変わりはありませんので、たとえ長女が相続放棄したとしても、連帯保証人としての責任は免れますが、主債務者として債務を全額返済しなければなりません。

相続開始後に発生した債務は?

連帯保証人としての責任は債務を完済するまで続くため、相続開始後に発生した保証債務についても、基本的には相続人が法定相続分に応じて相続することになります。

ただし、継続的な取引関係から、どれだけ発生するかわからない不特定の債務を保証する契約(=根保証契約)において個人が保証人となる場合は、例外となります。

個人の根保証契約は、主債務の金額がわからないため保証人の負担が大きくなることから、主たる債務者または保証人の死亡時点で保証債務の額が確定し、それ以上の金額(その後に発生する債務)については相続しなくてよいことになっています。

<相続開始後に発生した保証債務を相続人が負担しなくてよいケース例>

  • 被相続人が賃貸借契約の連帯保証人になっていたケース
    ➡ 個人の根保証契約において、債務者が家賃や修繕費などの支払を怠った場合、被相続人の死亡時点で生じていた債務に限り相続人が引き継ぎ、被相続人の死後に生じた分については、相続人が債務を負担する必要はありません。

連帯保証の時効について

債権者が、債務者や保証人に対して債務返済を請求・通知しないまま一定期間(時効)が過ぎると、債権者の法的な権利が消滅します。

このことを、“消滅時効”といって、時効の完成を主張(時効援用)することにより、連帯保証債務を免れることができます。

【債務の消滅時効が完成する期間】

  • 債権者が権利を行使できることを知ったときから5年間
  • 債権者が権利を行使できるときから10年間
    ※2020年4月1日より前に成立した連帯保証契約の場合は、権利を行使できるときから10年です。

連帯保証人の場合、主債務者の最終返済日から5年が経過していれば、主債務や保証債務の時効を援用することができます。

【連帯保証人が月々返済していた場合の時効】
連帯保証人である被相続人や相続人が、債務者に代わって月々少しずつ返済していた場合も、主たる債務者の最終返済日から5年が経過していれば、相続人が主債務の時効を援用することにより、債務を免れることができます。

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相続放棄をすれば連帯保証人にならずに済む

相続放棄することにより、連帯保証人の地位も放棄することができます。

【相続放棄とは】
相続放棄とは、被相続人の財産および権利・義務の一切を放棄することです。
相続放棄した人は、はじめから相続人ではなかった扱いになるため、連帯保証債務も相続しなくて済みます。
ただし、他の財産もすべて受け取れなくなるため注意が必要です。

【相続放棄の期限】
相続放棄には期限があって、被相続人が亡くなって相続が開始されたことを知ってから3ヶ月という“熟慮期間”以内に家庭裁判所で手続きを行わなければ、単純承認したとみなされ、相続放棄できなくなってしまうので注意しましょう。

連帯保証人の地位は他の相続人に引き継がれる?

相続放棄した場合、相続順位が同順位の相続人が他にいれば、他の相続人の相続する債務の割合が増えます。

一方、同順位に他の相続人がいない場合や、同順位の相続人全員が相続放棄した場合は、連帯保証人の地位は別の順位の相続人に引き継がれます。

<例>

  • 被相続人に配偶者・長男・長女がいて、長女が相続放棄した場合、配偶者と長男が連帯保証人の地位を引き継ぎます。
    ※長男・長女が相続放棄した場合、孫への代襲相続は発生しません。
  •  
  • 長男・長女ともに相続放棄すると、次順位の父母へ連帯保証人の地位が引き継がれます。
  • 父母含めた直系尊属が全員亡くなっている、あるいは全員が相続放棄した場合は、次順位の兄弟姉妹へ連帯保証人の地位が引き継がれます。
    ※兄弟姉妹が相続放棄した場合、甥・姪への代襲相続は発生しません。

連帯保証人であることを知らなかった場合の対処法

相続の手続きが一通り終わった後で、被相続人が連帯保証人になっていたことを知った場合、例外的に「債務の存在を知ったときから3ヶ月以内」に家庭裁判所で相続放棄の申述をすれば、相続放棄できることがあります。

相続後、債権者からの請求で被相続人が連帯保証人になっていたことをはじめて知るというケースは少なくありません。

基本的には、被相続人の預貯金や不動産の名義を変更したり、処分したりすると、単純承認したとみなされるため相続放棄することができません。

ですが、被相続人に債務がないと誤信していて、その誤信について「金融機関や信用情報機関に問い合わせても債務がみつからなかった」など、相続人側に過失がなければ、相続後でも例外的に相続放棄できる可能性がありますので、諦めず、速やかに弁護士へ相談することをおすすめします。

相続人が亡くなった人の連帯保証人だった場合は?借金は一人で相続するの?

【亡くなった人が連帯保証人だった場合の相続】とは少し話が逸れますが、【相続人が亡くなった人の連帯保証人だった場合の相続】についても解説します。

被相続人が主たる債務者だった場合、その債務は相続人全員で相続割合に従って相続することになります。

<例>

  • 債務者:父親
  • 債務者の連帯保証人:長男
  • 主たる債務:1000万円
  • 被相続人:父親
  • 相続人:母親、長男、長女  ※他に親族はいない

このケースでは、相続人である母親、長男、長女が法定相続分に従って主たる債務を相続することになり、長男はもともとの連帯保証人と、相続した主たる債務者、両方の地位を有することになります。

  • 母親:500万円
  • 長男:250万円
  • 長女:250万円

連帯保証人である長男はまず、相続した主たる債務の250万円を返済しなければなりません。
そのうえで、母親または長女が返済を怠った場合には、連帯保証人として債務を返済することになります。

この場合は相続放棄しても支払を免れないことに注意が必要

相続人が亡くなった人の連帯保証人だった場合、相続放棄しても連帯保証人の地位は放棄できないため、「連帯保証人として債務を返済する義務」から免れることはできません。

相続放棄すると、被相続人の財産と主たる債務者としての地位は相続せずに済みます。

ですが、連帯保証人としての地位は、相続人本人のものであるため、相続放棄しても連帯保証人としての地位はそのままで、他の相続人が返済を怠った場合は、連帯保証人としてその債務を返済しなければならないのです。

連帯保証人の相続は弁護士にご相談ください

亡くなった人が連帯保証人だった場合の相続は、判断が難しいことが多いです。

連帯保証債務は債務者が返済していれば連帯保証人に対して請求が行われることはありませんし、そもそも相続時点で保証債務の時効が完成している可能性もあるので、安易に相続放棄してしまうのは危険です。

限られた期間で、財産調査を行い、債務者の資力・支払状況を確認し、相続放棄するかどうか適切に判断するのは容易なことではありません。
そのため、被相続人が連帯保証人になっていることがわかったら、速やかに弁護士へ相談することをおすすめします。

札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈
監修:弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長
保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)
札幌弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。