監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
交通事故によって大切なご家族の命が失われてしまったときのご遺族の気持ちは、簡単に推し量れるものではありません。
無念、苦痛、悲痛といった気持ちは金銭によって簡単に癒えるものではありませんし、失われた命を取り戻すこともできませんが、せめて加害者から適切な償いが受けられるように、【死亡事故の慰謝料】について、本ページで詳しく説明していきたいと思います。
Contents
死亡事故の慰謝料と請求できる慰謝料の種類
死亡事故の慰謝料とは、交通事故によって亡くなられたことによる精神的な苦痛に対する賠償金のことです。
死亡事故の慰謝料は、【被害者本人の慰謝料】と【遺族の慰謝料(近親者の慰謝料)】の2種類があります。
被害者本人の慰謝料
被害者本人の慰謝料は、交通事故によって亡くなられた被害者ご本人の無念や苦しみなどの精神的苦痛に対する慰謝料です。
ただし、被害者ご本人は亡くなられていて慰謝料を請求することができないので、相続によって“慰謝料の請求権”を引き継いだ相続人が、被害者本人の慰謝料を請求することになります。
なお、相続人にあたるのは、被害者の配偶者と、被害者の子などです。
遺族の慰謝料(近親者の慰謝料)
遺族の慰謝料とは、交通事故によって大切な家族を亡くされたご遺族の無念、苦しみ、悲しみといった精神的苦痛に対する慰謝料です。
死亡事故によってご遺族の方に生じた精神的苦痛は、被害者本人の精神的苦痛とは別のものとして、遺族(近親者)固有の慰謝料が認められています。
なお、遺族(近親者)にあたるのは、被害者の父母、配偶者、子供です。
ただし、親代わりとなって被害者の面倒をみてきた祖父母や兄弟姉妹など、実質的に父母と同等の関係性があるとみなされる方がいる場合には、その方からの慰謝料請求が認められることもあります。
死亡事故慰謝料の計算方法
死亡事故の慰謝料には、特定の計算式がありません。
では、どのように慰謝料額を決定するのかというと、被害者の方の家庭での役割(立場)によって、死亡事故慰謝料の金額が決まります。
なお、自賠責保険においては、被害者本人の慰謝料とは別に、近親者の慰謝料が設定されているため、【被害者本人の慰謝料】と【近親者の慰謝料】を合算した金額が支払われます。
死亡事故の慰謝料相場
| 自賠責基準 | 弁護士基準 | |
|---|---|---|
| 一家の支柱 | 400万円 | 2800万円 |
| 母親・配偶者 | 2500万円 | |
| その他 | 2000万~2500万円 |
死亡事故の慰謝料相場は、上記の表のとおりです。
弁護士が死亡慰謝料を算定する場合(弁護士基準)は、被害者の方の家庭での役割(立場)によって慰謝料額が変動します。
一方、自賠責保険が死亡慰謝料を算定する場合(自賠責基準)は、被害者の属性に関係なく、一律で400万円と設定されていて、遺族(近親者)がいる場合に、その人数に応じた“近親者の慰謝料”が加算されます。
近親者の慰謝料について
| 請求者1人 | 550万円 |
|---|---|
| 請求者2人 | 650万円 |
| 請求者3人以上 | 750万円 |
| 扶養家族がいる場合 | 上記+200万円 |
自賠責保険が死亡慰謝料を算定する場合、近親者の慰謝料が上記の表のとおり、被害者本人の慰謝料とは別に設定されています。
近親者の慰謝料は、慰謝料請求権を有するご遺族の人数と、扶養家族の有無によって金額が変動します。
【例】
交通事故の被害者の方が一家の支柱で、配偶者と未成年の子供3人を扶養していた場合
| 被害者本人の慰謝料 | 近親者の慰謝料 | |||
|---|---|---|---|---|
| 400万円 | + | 750万円 (請求者3人以上) |
+ | 200万円 (扶養家族がいる場合) |
これらを合計して、1350万円が死亡慰謝料として支払われます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
慰謝料の算定額に影響する3つの基準の違い
交通事故の慰謝料には、3つの算定基準があって、どの基準を用いるかによって慰謝料額が大きく変わります。
| 自賠責基準 | 自賠責基準は、自賠責保険が用いる基準です。 基本的な対人賠償の確保を目的としているため、3つの基準のうち、慰謝料額が最も低額になることが多いです。 |
|---|---|
| 任意保険基準 | 任意保険基準は、任意保険会社が用いる基準です。 保険会社ごとに独自の基準を持っていて、詳細は非公開ですが、基本的に自賠責基準と同額か、やや上乗せした金額であることが多いです。 |
| 弁護士基準 | 弁護士基準とは、裁判所や弁護士が用いる基準で、裁判基準とも呼ばれます。 過去の裁判例をもとに設定されていて、3つの基準のなかで最も高額になることが多いです。 |
基本的に弁護士基準の慰謝料が最も適正額に近いですが、加害者側が最初から弁護士基準で交渉してくることは、ほぼありません。
死亡慰謝料が増減する要素
死亡事故の慰謝料は、個別の事情によって増額したり、減額されたりすることがあります。
以下、慰謝料の増額事由と減額事由について、それぞれ詳しくみていきましょう。
慰謝料の増額事由
死亡事故の慰謝料は、事故態様や加害者側の事故後の態度によって増額されることがあります。
具体的には、
- 無免許運転、飲酒運転、著しいスピード違反など、加害者に重過失がある場合
- 加害者が事故後に救護活動を行わなかった場合
- 遺族への暴言や虚偽の事実を述べるなど、加害者の態度が不誠実な場合
などです。
ほかにも、扶養家族が多くいる場合や、ご遺族の方がPTSDを発症した場合などにも、慰謝料が増額されることがあります。
慰謝料の減額事由
死亡事故の慰謝料は、次のような要因で減額されてしまうこともあるので、注意が必要です。
- 交通事故発生の原因について、被害者側にも過失があると判断された場合(過失相殺)
- 交通事故とは別に、被害者の持病や既往症が死亡に影響したと判断された場合(素因減額)
- 加害者側からの賠償金のほかに、自賠責保険から慰謝料として保険金を受領していた場合(損益相殺)
死亡事故の慰謝料に相続税などの税金はかかる?
死亡事故の慰謝料は、基本的に相続税の対象にはなりません。
これは、被害者の遺産ではなく、遺族の所得にあたるためで、事故被害者が死亡したことに対して支払われるほかの損害賠償金についても同様です。
とはいえ、損害賠償金は所得税法上、非課税の扱いとなるため、基本的に所得税の対象にもなりません。
ただし、被害者ご本人が事故後に自ら損害賠償請求した後に亡くなった場合や、損害賠償請求の金額が確定した後に亡くなった場合は、請求権や賠償金を受け取る権利が相続財産となるため、これらを相続した人に相続税が課税されるため、注意が必要です。
内縁関係や婚約者でも死亡慰謝料は認められる?
内縁関係や婚約者など、戸籍上の婚姻関係が認められない場合、故人の財産を相続することができないため、被相続人本人の慰謝料を受け取ることができません。
ただし、長年一緒に暮らしていて、被害者の方の扶養を受けて生活していたなど、婚姻関係にある夫婦と実質的に同様の関係にあると判断できるケースでは、内縁配偶者固有の慰謝料が認められやすい傾向にあります。
一方、婚約者の場合は、実質的に夫婦と同様の関係にあるとまでは認識されず、婚約者固有の慰謝料は認められにくいのが実状です。
慰謝料のほかに受け取れるもの
死亡事故において、被害者のご遺族の方が請求できるのは、死亡慰謝料だけではありません。
死亡慰謝料とは別に、葬儀にかかった費用(=葬儀関係費)と、死亡事故がなければ被害者の方が得られたはずの収入(=死亡逸失利益)を請求することができます。
死亡逸失利益
死亡逸失利益とは、被害者の方が交通事故で死亡しなければ得られたはずの将来の収入のことです。
死亡逸失利益は、被害者の方の基礎収入と、67歳まで働けたと仮定した就労可能年数をもとに、被害者の生活費や中間利息を控除して金額を算定します。
【死亡逸失利益の計算式】
基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応する中間利息控除係数(ライプニッツ係数)
不当な慰謝料額にしないために、弁護士にご相談ください
大切なご家族を交通事故で亡くしたばかりで、損害賠償請求など考える余裕もないかもしれません。
ですが、亡くなられた被害者ご本人のためにも、遺されたご遺族のためにも、加害者には適正に賠償責任を果たしてもらわねばなりません。
そのために重要なのが、適正な慰謝料を請求することです。
ただし、加害者側から提示された金額は、必ずしも適正であるとは限らないのが実状です。
死亡慰謝料の金額に少しでも疑問を感じられた方、加害者側とのやり取りに不安がある方は、ぜひ一度、私たち弁護士法人ALGまでご相談ください。
ご遺族の方の負担が少しでも軽くなるよう、弁護士が全力でサポートさせていただきます。

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保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)
