
監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
交通事故でよくあるケガの一つにむちうちがあります。むちうちは事故直後に症状が出るものもあれば、しばらくして症状があらわれるものもあり、人によって症状はさまざまです。
症状の特徴や性質から、交通事故の中でも解決に至るまでにトラブルが起こりやすいケガだといえます。起こりがちなトラブルとしては、「治療中に保険会社から治療費を打ち切ると言われた」「治療で整骨院を利用したら治療費が認められなかった」「後遺障害等級認定がもらえなかった」などがあります。
今回はむちうちがどういうものなのか、起こり得るトラブルに対してどう対応すれば良いか解説します。
Contents
むちうちとは?
むちうちは正確には「頚椎捻挫」「外傷性頚部症候群」「頚椎損傷」と呼ばれるケガです。交通事故の強い衝撃で頭が揺さぶられ、首(頚椎)が損傷、圧迫されて負担がかかり、体に不調があらわれます。
むちうちは、車に追突されたり、カードレールや電柱にぶつかったり、車両同士が衝突したことなどによる強い衝撃で発症しやすいケガです。むちうちは症状が継続して慢性化するものや、気圧や湿度の変化に敏感であるといった特徴があります。
むちうちの主な症状
主な症状として「首や肩まわりの痛み、動かしづらさ」「指先や腕、肩のしびれ」「肩や背中の凝り」「頭痛」「めまい」「耳鳴り」「吐き気」「ふらつき」などがあります。
症状があらわれるのは、事故直後や数時間後、または翌日や数日後などで、ケガをした人によってタイミングが違います。程度にもよりますが、症状はしだいに緩和し、たいてい1ヶ月から3ヶ月ほどで治ります。ですが、中には症状が数ヶ月継続して慢性化することもあります。
一見、交通事故とは無関係に思えるものでも、むちうちが原因で症状があらわれている場合もあります。「動けないほどではないし、たいしたことはないだろう」と思えても、自己判断せず病院できちんと診察、検査を受けましょう。事故から受診までの間に時間が経つと、保険会社との間で揉めやすいので、なるべく早く受診することをおすすめします。
むちうちの主な治療方法
治療方法はむちうちの症状によって異なります。基本的には、ケガをした直後は首をできるだけ動かさないように固定します。「頚椎カラー」という器具で首が動かないように固定する場合もあります。痛みがあるときは、痛み止めや炎症をおさえる薬、シップなどが処方されます。
痛みがひどい場合は患部を温めて症状の改善を促す温熱療法や電気治療、患部に注射をするなどの治療がされます。症状が落ち着いたら運動療法などリハビリを行い、症状が慢性化してくるとマッサージや鍼灸を取り入れるケースもあります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
むちうちで認定される可能性のある後遺障害等級と認定基準
交通事故でむちうちになり、障害が残ったら後遺障害等級認定を申請できます。障害の程度によって等級が認定されると、後遺障害慰謝料を請求できます。
むちうちで認められる可能性がある後遺障害等級は「14級9号」と「12級13号」です。それぞれの認定基準は下記のとおりです。
「14級9号」
認定基準:局部に神経症状を残すもの
「12級13号」
認定基準:局部に頑固な神経症状を残すもの
ただ、むちうちは自覚症状があっても、レントゲンやMRI検査などの画像検査で異常を示す他覚所見が認められないことが多いです。他覚所見がないと後遺障害等級は認定されにくいです。むちうちで等級認定されるためには、むちうちと交通事故の関係をきちんと証明する必要があります。
むちうちで請求できる慰謝料と慰謝料相場
むちうちになって入院や通院をした場合「入通院慰謝料」を請求できます。また、入通院して治療した結果、これ以上治療を続けても症状の改善の見込みがないと判断され、残存した症状について後遺障害等級が認定された場合には、と「後遺障害等慰謝料」を請求できます。
どちらも算定基準によって金額が大きく変わります。算定基準は「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つがあります。弁護士基準で算定されたものが一番高額で、適正な金額であるとされています。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、入通院をして治療を受けることによって感じる精神的ダメージへの補償です。「治療で感じる痛み」「入通院の不安」「時間が拘束される煩わしさ」などがあります。
むちうちの症状や程度にもよりますが、人によって精神的ダメージの受け方は違います。だからこそ、適正な入通院慰謝料が被害者に支払われるように算定基準があります。
【むちうちで通院期間6ヶ月・実通院日数90日の場合】
自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|
77万円4000円 |
他覚所見あり 116万円 他覚所見なし 89万円 |
自賠責基準は被害者救済を目的とした必要最低限の補償です。入通院慰謝料の日割り額が定められており、被害者にとって十分な金額ではありません。弁護士基準は実際の裁判例をもとに算出した金額になるので、裁判所が認める適正な金額になります。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは交通事故で後遺障害が残り、後遺障害等級が認定された被害者の精神的苦痛に対する補償です。交通事故に遭い、障害を抱えることになった被害者の精神的ダメージは大きいため、入通院慰謝料とは別で認められます。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
12級13号 | 94万円 | 290万円 |
14級9号 | 32万円 | 110万円 |
後遺障害慰謝料は等級によって慰謝料額が大きく変わります。同じ等級でも算定基準によって、2~3倍以上の金額になることがあります。そのため、認定される等級や算定基準が重要になります。
むちうちで適正な等級認定・慰謝料請求するためのポイント
むちうちでは、適正な後遺障害等級認定をもらったり、慰謝料を請求するためのポイントがあります。下記でポイントを2つ解説します。
通院頻度を適切に保つ
むちうちの通院は週2~3回くらいが適切とされています。症状や程度によってはそれ以上、通院が必要な場合もあります。医師のもと適切な頻度で通院しましょう。
被害者の中には症状を我慢できるからといって仕事を優先し、きちんと通院されない方もいます。ですが通院が少ないと、症状が軽いと判断され慰謝料が減額されることがあります。また、通院が多すぎると、すでに治療が必要ないのに通院を続けていたのでは?と慰謝料の算定や後遺障害等級認定の審査に影響が出る可能性があります。
適切な頻度で通院すれば、適正な慰謝料を請求できます。さらに後遺障害等級認定の審査でも、妥当な等級を認定してもらえる可能性が高まります。
日常生活を送りながら通院するのは大変かと思いますが、先々のことを考えると通院頻度を適切に保つことが大切になります。
必ず整形外科を受診する
むちうちは整形外科を受診して下さい。整骨院へ行く人もいますが、まずは整形外科を受診して必要であれば医師の許可を得たうえで整骨院に通いましょう。
整形外科では詳しい検査や診察、治療を受けられます。整骨院は医療機関ではないため、医師の診察や治療が受けられません。保険会社に慰謝料を請求するさい、医師の診断書や詳細な検査結果が必要になります。事故後すぐに整形外科を受診すれば、交通事故とむちうちの関係性を証明でき、適正な慰謝料が認められやすくなります。
また、後遺障害等級認定を申請するさい、整骨院の通院だけでは等級が認められない可能性が高いです。むちうちの症状や治療の結果を医学的に証明できないと等級の判断が難しいからです。
整骨院に通っても良いですが、整形外科の医師の許可を得て、整形外科にも通いながら通院しましょう。そうすれば慰謝料や後遺障害等級認定に影響する心配はないかと思います。
通院中に保険会社からむちうちの治療費を打ち切られそうになったら
治療のため一定期間通院していると、加害者の保険会社から「治療を打ち切ります」と連絡が来ることがあります。交通事故のケガの中でも、むちうちは治療費を打ち切られやすいです。
むちうちはレントゲンやMRI検査上で他覚的所見がないことが多く、被害者の自覚症状をもとに医師の診察で判断されることが多いです。そのため、症状や相当な治療期間を判断、証明するのが難しく、一定期間がすぎると治療が打ち切られやすくなります。
仮に打ち切られてしまっても、治療を続ける必要がある場合は健康保険などを使って通院を続けましょう。その場合、治療費や通院にかかる交通費は自己負担になってしまいますが、ケガの治療が優先です。
ただし、医師が「必要ない」と言っているのにもかかわらず通院するような場合は、最終的に治療費を受け取ることは難しいです。治療を続ける必要があるかどうかについては、医師に確認した上で判断するようにしましょう。
交通事故でむちうちになったら弁護士へご相談下さい
交通事故でむちうちの症状があらわれたら、初期段階の対応が大切です。適切な医療機関を選択し、適切な頻度で治療を受ける必要があります。その後も、後遺障害等級認定を申請したり、保険会社から治療費を打ち切られたときに対処するなど、気を付けなければいけないことがたくさんあります。
交通事故でむちうちになってお困りの場合は弁護士にご相談下さい。交通事故のむちうちでよくあるトラブルへの対処や保険会社との交渉を弁護士が適切に行います。
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保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)