
監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
夫婦関係が上手くいかないときや、離婚を考えているときなど、「別居」を検討している方もいらっしゃるでしょう。
今後のことを冷静になって考えるためにも、離婚の前に別居をする夫婦も少なくありません。
別居は夫婦関係に大きな影響を与えるだけでなく、「別居した事実」が離婚についても法的に重要な意味を持ちます。
しかし、別居は正しい方法で行わなければ不利に働く可能性もあります。
この記事では別居について、離婚するうえでの効果や、メリット・デメリットについて解説していきます。
Contents
別居すると離婚しやすくなるのは本当か
別居期間が長くなると、離婚が認められやすくなる傾向にあります。
民法上、裁判で離婚が認められるには、以下の5つの法定離婚事由が必要となります。
【法定離婚事由】
- ①配偶者に不貞行為があったとき
- ②配偶者から悪意で遺棄されたとき
- ③配偶者の生死が3年以上明らかでないとき
- ④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- ⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
なお、④については、2024年5月21日公布の改正が施行される際に、削除される予定です。
別居期間が長いと、⑤の事由に当てはまるとみなされる場合があります。
⑤は簡単にいうと、「婚姻関係が破綻している」ということです。
長期間の別居をしている場合は、既に婚姻関係が破綻していると判断され、離婚が認められやすくなります。
どれくらいの別居期間があれば離婚できる?
別居を理由に離婚する場合は、一般的に3~5年の別居期間が必要となると言われています。
とはいえ、裁判所は夫婦の個別事情を考慮して「婚姻関係が破綻しているかどうか」を判断するため、事情によって必要な別居期間は異なります。
例えば、配偶者が不貞行為に近い行為をしたことをきっかけに別居に至ったような場合では、別居年数が短くても、配偶者との離婚が認められる可能性が高いでしょう。
単身赴任や家庭内別居も別居として認められる?
単身赴任や家庭内別居は「別居」として認められるのでしょうか。
それぞれについて見ていきましょう。
●単身赴任の場合
単身赴任は、仕事上やむを得ない事情でするものであり、本人の意思ではありません。そのため、「別居」として認められないのが基本です。
ただし、単身赴任以前から夫婦関係が悪化しており、離婚の意思が明確なうえで単身赴任を選択したようなケースでは、別居として認められる可能性があります。
●家庭内別居の場合
家庭内別居の事実は外部からはわかりにくいため、家庭内別居が「別居」に当たるとして離婚を認めてもらうには、以下のような事情を複数証明する必要があるでしょう。
- 寝室が別である
- それぞれの生活空間が違う
- 家事を各自で行っている
- 家計を別にしている など
正当な理由なしに別居すると、離婚時に不利になる可能性がある
別居をする際は「正当な理由」が存在することが望ましいといえます。
夫婦には、法律上同居義務があります。そのため、違反をすると、その態様によっては悪意の遺棄として有責配偶者だとみなされてしまうおそれがあります。
有責配偶者からの離婚請求は基本的に認められていないため、正当な理由なく不当な態様で別居を開始すると、離婚について不利に働く可能性があります。
正当な理由とはどんなもの?
別居の際の「正当な理由」とは、誰が聞いても共同生活を続けるのは難しいと思うような理由です。具体的には、配偶者が以下のような問題を抱えている場合に、正当な理由があると認められる傾向にあります。
- 配偶者が不貞行為をした
- 配偶者から自分や子供がDVを受けている
- 配偶者がモラハラをしてきて精神的に追い詰めてくる
- 収入があるのに生活費を渡さない
- 健康なのに働こうとしない
など
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
不利にならない別居の方法
では、いざ別居するにあたって不利にならないために、どのようなことに気を付ければ良いのでしょうか。
ここからは、不利にならない別居の方法について詳しく見ていきましょう。
相手に別居の同意を得る
別居をしたい場合は、その旨を配偶者に伝えて同意を得るというのも1つの手段です。
同意を得る方法は、メールやLINEなどのやり取りでも構いません。むしろ、文字で証拠が残る形式でやり取りを行うことは、望ましいといえます。
会話で同意を得る場合には、録音を行うのがベストです。
事前に同意を得ることは望ましいですが、事前に同意を得なかった場合であっても、必ず不利になるわけではありません。
特に、配偶者から暴力を受けており、話し合いをすることで暴力が悪化するような場合などは、事前に同意を得るべきとは言えません。直ちに身の安全を確保しましょう。
親権を獲得したい場合は子供と一緒に別居する
離婚後に子供の親権を獲得したいとお考えの場合は、なるべく子供を連れて別居することが望ましいです。
親権は親が子供と暮らしたいという気持ちだけで考えるものではありません。
「どちらと暮らした方が子供にとって幸せか」という観点から判断されます。
つまり、これまでの監護実績や離婚後の養育状況などを考慮して決められます。
子供と離れて暮らす期間が長かったことは、親権を獲得するにあたって、不利に働くおそれがあります。
しかし、親権者の一方である配偶者の同意を得ずに、勝手に子供を連れて別居してしまうと、配偶者から「違法な連れ去りである」などと主張されてしまい、争いになる可能性があります。
別居先に子供を連れて行きたい場合には、事前に、夫婦で話し合うことが最善です。
なお、子供が産まれてからずっと主たる監護者として子供の面倒を一人でみてきたような場合には、配偶者の同意を得ずに子供を連れて別居しても、子供の利益に反するものではないと判断されることもあります。
相手が浮気していた場合は証拠を確保しておく
配偶者が不貞行為をしていた場合は、別居前にその証拠を確保しておくことが大切です。
不貞行為は裁判で離婚が認められる事由のひとつです。
しかし、裁判で配偶者が不貞行為を行っていたことを証明するためには、客観的にみて不貞行為だとわかる証拠が何より大切です。
別居をしてしまえば、生活の場が別々となり、有益な証拠をそろえることが難しくなります。とくにスマートフォンでのメッセージのやり取りなどは、同居中でなければ目にする機会がなくなってしまいます。
別居のメリットとデメリット
別居のメリットとデメリットについて見ていきましょう。
【メリット】
- 別居期間が長期に及べば、裁判で離婚請求が認められる可能性が高くなる
- こちらの離婚意思が固いことが示せるので、相手が真剣に受け止めるようになる
- こちらが婚姻費用をもらう側である場合には、相手が別居中の婚姻費用の支払いを減らすために、早期の離婚に応じる可能性がある
- 同居によるストレスから解放される
- 配偶者からのDVやモラハラがある場合には、そういった行為から逃れることができる
- 落ち着いて離婚について考えたり、離婚の準備を進めることができる
【デメリット】
- 離婚を考え直したときに復縁しにくくなる
- 相手の有責行為の証拠集めが難しくなる
- 家を出た行為が「悪意の遺棄」に当たるとして、相手から逆に離婚請求や慰謝料請求をされるおそれがある
- 相手が財産を隠した場合に見つけづらくなる可能性がある
- 新しい仕事や住居を探す労力が必要になる
- 同居時よりも経済的に苦しくなる場合がある
別居の際に持ち出すべきもの
別居の際に持ち出すものについて以下に挙げたのでご参考ください。
なお、夫婦の共有財産や配偶者名義の財産については、勝手に持ち出さないよう注意しましょう。
【貴重品等】
- 現金
- 預金通帳
- キャッシュカード
- クレジットカード
- 自分名義の保険証券(生命保険など)
- 実印、銀行印
- マイナンバーカード
- 運転免許証
- パスポート
- 健康保険証
- 年金手帳
- 母子手帳(子供と一緒に別居する場合に限る)
- スマートフォン
【生活用品】
- 常備薬
- 当面の衣類
- 子供が学校で使う教材等
【その他】
- 配偶者の源泉徴収票(コピー)
- 配偶者の直近3ヶ月の給与明細書(コピー)
- 共有財産に関する資料(コピー)
- 不貞行為やDVの証拠
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
別居に伴う手続き
別居に伴い、以下の手続きも行うようにしましょう。
-
別居する旨の通知
直接伝えることが難しい場合は、メールや手紙などでも良いでしょう。 -
配偶者の課税証明書の取得
婚姻費用や養育費を請求するうえで、相手の収入を証明する重要な書類です。
住民票を移してしまうと配偶者の分の課税証明書を取得することができなくなってしまう場合もあるため、取得できる場合は、同居中に取得しておきましょう。 -
婚姻費用の請求
別居中でも婚姻関係にあるうちは、収入が少ない方の配偶者は他方の配偶者に婚姻費用を請求できるのが原則です。
別居中の生活費となるため、別居を開始したらすぐに相手に請求するようにしましょう。 -
住民票の移動
引越しをした日から14日以内に手続きを行いましょう。
なお、DVから逃れるための別居など、配偶者に引っ越し先を知られたくない場合は役所に相談することで転居後の住民票の閲覧を制限できる可能性があります。 -
子供に関する手続き
児童手当の受給者変更、乳幼児・子供医療証の住所変更、転園・転校手続き等も忘れずに行いましょう。
別居後、荷物を取りに行きたくなった場合
別居後に、持ち出し忘れた荷物に気付くこともあるでしょう。
「もともと自分の家だったのだから、自由に出入りしてもいいのではないか」と思われるかもしれませんが、配偶者に無断で家に入る行為は、「住居侵入罪」に該当すると主張されたり、配偶者に告訴されるおそれがあります。
また、自分のものか配偶者のものか判断が付かないものを勝手に持ち出す行為は、配偶者とのトラブルに繋がりやすいので、注意しましょう。
持ち出し忘れた荷物を取りに行きたい場合は、配偶者と連絡を取り話し合うようにしましょう。配偶者が直接荷物を取りに行くのを拒む場合は、郵送してもらったり、第三者を介することで解決が図れる場合があります。
別居後、生活が苦しくなってしまった場合
別居後は、生活費をひとりで賄っていかないといけないため、経済的に苦しくなることも考えられます。
そのような事態にならないためにも、別居時に婚姻費用を忘れずに請求しましょう。
別居中であっても、婚姻関係にあるうちは生活費の分担義務があり、収入の少ない方は多い方に対して婚姻費用を請求できます。婚姻費用には、生活費だけでなく子供の養育費も含まれています。
別居後の生活に不安がある場合や経済的に苦しくなることが予想できる場合には、婚姻費用を請求しましょう。配偶者が応じない場合は婚姻費用分担請求調停を申し立てることも検討すると良いです。
また生活保護や児童手当、児童扶養手当など婚姻費用以外にも受給できる可能性がありますので、役所に相談してみましょう。
有利な結果と早期解決へ向けて、離婚に詳しい弁護士がアドバイスさせて頂きます
別居は夫婦関係や離婚について冷静に考えることに繋がり、離婚をするにあたって有効な手段といえます。
しかし、別居はしっかりと準備をしてから進めないと、不利な結果になってしまうおそれがあります。
別居や離婚についてお悩みの場合は、私たち弁護士法人ALGにご相談ください。
弁護士法人ALGには、離婚や夫婦問題に詳しい弁護士が多数在籍しております。
これまでの経験や積み上げてきた専門知識から、夫婦個々の事情に合わせたアドバイスをし、全力でサポートいたします。
弁護士法人ALGでは、別居に関するご相談も多くいただいております。
ぜひ一度、お話をお聞かせください。
-
保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)