
監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
夫や妻の不倫(浮気)を知ったとき、精神的に大きなショックを受け、「不倫相手に慰謝料を請求したい」と考えるのは無理もないことです。
ですが、不倫によって精神的な苦痛を受けたからといって、不倫相手への慰謝料請求が必ず認められるとは限りません。
そこで今回は、不倫相手に慰謝料請求できる条件や方法を詳しく解説していきます。
注意点や不倫相手に対してやってはいけない事もご紹介しますので、不倫相手に対して慰謝料を請求したいとお考えの方は、ぜひ参考になさってください。
Contents
不倫相手に慰謝料請求できる条件
不倫相手に慰謝料を請求するためには、いくつかの条件があります。
次項より、不倫相手に慰謝料請求できる主な4つの条件について、詳しくみていきましょう。
【不倫相手に慰謝料請求できる条件】
- 肉体関係があった
- 客観的な証拠がある
- 時効が過ぎていない
- 故意・過失がある
肉体関係があった
不倫相手に慰謝料請求するためには、「配偶者と不倫相手が肉体関係にあったこと」が前提となります。
夫婦はお互いに「配偶者以外の第三者と性的な関係をもってはいけない」という、“貞操義務”を負っています。
したがって、肉体関係を伴う不倫は、貞操義務違反=不法行為(不貞行為)にあたるため、共同不法行為者である配偶者と不倫相手に対して、慰謝料の請求が認められます。
単にデートしていただけ、手を繋いでいただけといったケースでは、不法行為とまでは認められず、慰謝料の請求が認められないこともあるので、肉体関係があったかどうかが重要なポイントとなります。
客観的な証拠がある
不倫相手に慰謝料請求するためには、不貞行為を示す客観的な証拠が必要です。
証拠がなければ、不倫の事実があっても言い逃れされてしまうため、第三者から見ても不貞行為があったことが明らかな、次のような“客観的な証拠”を集める必要があります。
【客観的な証拠の一例】
- ラブホテルに出入りしているところなど、不貞行為が推認できる写真や動画
- 肉体関係があったことを推測できる内容のメールや、LINEなどのSNS
- ラブホテルや旅行先の領収書、クレジットカードの利用明細
- SuicaやPASMO、ETCなどの利用履歴 など
時効が過ぎていない
不倫相手に慰謝料請求するためには、時効期間内に手続きを行う必要があります。
不倫に対する慰謝料請求権(=損害賠償請求権)の時効期間には、次の2種類があります。
【不倫に対する慰謝料請求権の時効】
不倫に対する慰謝料請求権は、次のいずれか早い方の時効が成立してしまうと、相手が任意で慰謝料を支払わない限り、不倫慰謝料を受け取れなくなってしまうため注意しましょう。
- 被害者が不倫の事実および不倫相手について知った時から3年
- 不貞行為があった時から20年
故意・過失がある
不倫相手に慰謝料請求するにあたっては、不倫相手に故意・過失があるかどうかも重要になります。
- 故意:既婚者であると知りながら不倫していた
- 過失:既婚者であることを知ろうと思えば知り得たのに、不注意で知らずにいた
つまり、不倫相手が既婚者と知らないまま関係を持ち、知らなくても仕方がないといえる事情がある場合は、慰謝料請求は認められないことになります。
不倫相手に慰謝料請求できないケース
配偶者の不倫が発覚したとしても、不倫相手に対して慰謝料請求できないケースもあります。
具体的なケースは次のとおりです。
- 配偶者と不倫相手との間に肉体関係がない場合
- 不貞行為の証拠が不十分な場合
- 慰謝料請求の時効が過ぎている場合
- 不倫相手が、既婚者であることを知る余地のないまま肉体関係を持った場合
- 肉体関係を強要されたなど、不倫相手の自由意思ではなかった場合
- 不貞行為がはじまる前から夫婦関係が破綻していた場合
- すでに配偶者から十分な不倫の慰謝料を受け取っている場合 など
不倫相手だけに慰謝料請求できる?
不倫相手だけに慰謝料請求することも可能です。
離婚をしない場合など、不倫相手だけに慰謝料請求をしたいということもあるでしょう。
不倫は相手がいて成立する“共同不法行為”なので、離婚する・しないにかかわらず、不倫によって精神的苦痛を被った配偶者に対して、配偶者と不倫相手は連帯して損害賠償の責任を負います。
もっとも、双方に請求しなければならないという決まりはないので、不倫相手にのみ慰謝料を請求することも可能です。
ただし、離婚はせずに慰謝料を請求するといった場合、離婚する場合と比べて精神的苦痛は小さいと考えられるため、慰謝料の相場が下がってしまう傾向にあるので注意が必要です。
不倫相手に請求する慰謝料の相場は?
不倫相手に請求する、不倫(不貞行為)の慰謝料の相場は、離婚しない場合は50万~100万円程度、離婚する場合は100万~300万円程度です。
離婚しない場合 | 50万~100万円程度 |
---|---|
離婚した場合 | 100万~300万円程度 |
もっとも、上記の慰謝料相場はあくまで目安の金額なので、次のような事情が考慮されて増減されることがあります。
【慰謝料が相場より高額になるケース】
- 不倫によって別居や離婚に至った場合
- 不倫していた期間が長く、頻度や回数が多い場合
- 夫婦の婚姻期間が長い場合
- 夫婦の間に子供がいる場合
- 不倫相手が妊娠・出産した、謝罪がないなど、不貞行為が悪質な場合
- 不倫相手の社会的地位や収入が高い場合 など
【慰謝料が相場より減額されるケース】
- 不倫によって別居や離婚に至らなかった場合
- 不倫していた期間が短く、頻度や回数も少なかった場合
- 夫婦の婚姻期間が短い場合
- 不倫がはじまる前から夫婦関係が円満ではなかった場合
- 不倫相手から真摯な謝罪があった場合 など
不倫相手に慰謝料請求する際に必要なもの
不倫相手に慰謝料請求するにあたって、「不倫の証拠」と、「不倫相手の氏名、住所または勤務先」が必要になります。
それぞれ詳しくみていきましょう。
不倫の証拠
不倫相手に慰謝料請求するためには、不倫の証拠が必要です。
- ホテルに出入りする写真
- 肉体関係があることがわかるメールやLINE
- 不倫を認める音声や書面
など、言い逃れができないような、客観的な証拠を集める必要があります。
証拠の集め方に注意
不倫の証拠は、慎重に集めなければ相手に気付かれて隠されてしまったり、違法な手段で集めた証拠は証拠能力が否定されてしまうこともあるので注意しなければなりません。
証拠の集め方に不安のある方は、一度弁護士にご相談ください。
相手の氏名、住所または勤務先
不倫相手に慰謝料請求するためには、最低でも不倫相手の氏名(フルネーム)と、住所または勤務先を知っておく必要があります。
こうした相手の連絡先の情報がわからなければ、内容証明郵便を送ることも、裁判の手続きを行うこともできなくなってしまいます。
もっとも、住所がわからない場合に勤務先に連絡してしまうと、不倫相手とトラブルになって慰謝料請求の交渉が難航する可能性もあるので、できるかぎり住所を調べるようにしましょう。
相手の氏名や住所を調べる方法
不倫相手の氏名や住所がわからなくても、
- 電話番号
- 携帯のキャリアメールアドレス
- 車のナンバー
などの情報がわかる場合、弁護士に不倫相手への慰謝料請求を依頼することで“弁護士照会”という制度を利用して、相手の情報を取得できる可能性があります。
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不倫相手に慰謝料を請求する方法
実際に、不倫相手へ慰謝料を請求する方法は、「当事者間での交渉」と「裁判所の手続き」があります。
一般的には、次の3ステップで慰謝料請求することになります。
- 相手に直接、メールなどで交渉する
- 相手方に直接、内容証明郵便で請求する
- 調停・裁判で請求する
それぞれの方法について、次項で詳しくみていきましょう。
相手に直接、メールなどで交渉する
不倫相手と連絡が取れる状態であれば、直接交渉して慰謝料を請求することもできます。
直接交渉するといっても、顔を合わせる必要はありません。
むしろ顔を合わせてしまうとトラブルに発展するおそれもあるので、メールやLINEなど、やり取りが記録できるツールを使って交渉することをおすすめします。
交渉のやり取りを記録しておけば、「言った・言わない」を未然に防ぐことができますし、交渉がこじれて裁判へ発展した際に証拠として利用できる可能性もあります。
不倫相手と直接交渉する際に取り決めておくこと
直接交渉するにあたっては、次のような内容を取り決めます。
交渉で合意できたら、取り決めた内容は“示談書”として書面に残しておきましょう。
- 慰謝料の金額・支払方法・支払期限
- 配偶者と二度と接触しないこと
- 互いに不貞や示談の内容を口外しないこと
- 違反があった場合は違約金を支払うこと など
相手方に直接、内容証明郵便で請求する
不倫相手が直接の交渉に応じなかったり、メールなどでのやり取りが不安な場合は、“内容証明郵便”で慰謝料請求することもできます。
内容証明郵便とは?
内容証明郵便とは、「いつ、どのような内容の文書を、誰から誰に差し出されたのか」を郵便局が証明してくれるサービスです。
法的な強制力はありませんが、相手がプレッシャーを感じて慰謝料請求に応じてくれる可能性があり、証拠としても活用できます。
内容証明郵便に記載する内容
内容証明郵便には、少なくとも次のような内容を記載しておきましょう。
- 不倫の事実
- 不倫=不貞行為が、不法行為に当たること
- 不貞行為によって精神的苦痛を受け、慰謝料請求すること
- 慰謝料の金額・支払方法・支払期限
- 慰謝料が支払われなかった場合、法的措置をとること
- 差出人と受取人の、住所・氏名 など
調停・裁判で請求する
当事者間での話し合いで解決できない場合は、裁判所の手続きを利用して不倫相手へ慰謝料請求することになります。
不倫相手に対する慰謝料請求の場合、調停を利用することもできますが、いきなり裁判を起こすことも可能です。
調停で不倫相手に慰謝料を請求する
不倫相手への慰謝料請求は、簡易裁判所の民事調停を申し立てます。
調停では、調停委員会が介入して和解を目指します。
民事調停は、法律に詳しくない人でも対応しやすい制度となっていますが、あくまで話し合いでの解決を目指す制度ですので、不成立となることが多いです。そのため、不倫相手への慰謝料請求の法的手段として調停が利用されるケースは少ないです。
裁判で不倫相手に慰謝料を請求する
慰謝料の請求額が140万円未満なら簡易裁判所、140万円を超える場合は地方裁判所に訴訟提起します。
裁判では、お互いの主張や証拠をもとに、裁判官の判決や、裁判上の和解で解決を目指します。
不倫相手に慰謝料請求する場合の注意点
不倫相手に慰謝料請求する場合、いくつか注意すべき事柄があります。
なかでも、不倫相手に慰謝料請求するリスクともいえる2つの注意点を、次項で詳しく解説していきます。
【不倫相手に慰謝料請求する場合の2つの注意点】
- 不倫相手から「求償権」を行使される可能性がある
- ダブル不倫の場合、慰謝料が実質的に相殺される可能性がある
不倫相手から「求償権」を行使される可能性がある
不倫相手だけに慰謝料請求した場合、不倫相手から“求償権”を行使される可能性があります。
求償権とは?
求償権とは、自分の負担分を超過して支払った場合に、もう一方の当事者が負担すべき部分の返還を請求する権利のことです。
不倫は “共同不法行為”なので、不倫相手だけに慰謝料請求した場合、不倫相手は求償権を行使することができます。
求償権を行使されないためには?
不倫相手が応じれば、求償権を放棄させることができますので、話し合いで求償権を放棄するよう求めましょう。
場合によっては、求償権の放棄を条件に慰謝料の減額を持ち掛けられることもありますので、柔軟に交渉することが重要です。
ダブル不倫の場合は慰謝料が実質的に相殺される可能性がある
ダブル不倫の場合、慰謝料請求すること自体は可能ですが、相手方の配偶者から慰謝料請求された場合、実質的に慰謝料が相殺される可能性があります。
ダブル不倫とは?
ダブル不倫とは、既婚者同士が不倫することをいいます。
こちらが不倫相手に慰謝料請求することにより、不倫相手の配偶者から、ご自身の配偶者に対して慰謝料請求される可能性があります。
このような場合でも、ご自身が慰謝料を支払う必要はありませんが、家庭単位でみると、慰謝料が相殺されてしまった場合と似た状況になってしまうことがあります。
ダブル不倫の場合の慰謝料請求のリスク
ダブル不倫の場合、慰謝料を相殺してお互いの支払いをゼロにするケースも多いですが、
- ご自身は離婚しなくても、不倫によって相手夫婦が離婚した場合
- ご自身の配偶者の方が社会的地位や収入が高い場合
など、場合によってはご自身の配偶者が相手方に対して支払う慰謝料の方が高額になってしまうこともあるので、注意が必要です。
不倫相手が慰謝料を払わない場合の対処法
不倫相手が慰謝料の支払いに納得していなかったり、支払能力がなくて慰謝料が支払えない場合の対処法として、次のようなものが挙げられます。
-
確実な証拠を示す
相手が「不倫していない」と主張して、慰謝料の支払いに納得していないときは、不倫の確実な証拠を集めて突き付けるという方法があります。
相手が言い逃れできない証拠を用意したうえで、内容証明郵便や裁判所の手続きを利用して慰謝料請求しましょう。 -
減額や分割払いを提案する
相手に支払能力がなくて支払えない場合は、慰謝料の減額や分割払いを提案することで支払ってもらえることがあります。
分割払いで合意した場合は未払いに備えて、違約金について盛り込んだ示談書を、強制執行認諾文言付きの公正証書で作成しておきましょう。
不倫相手に対してやってはいけない事
不倫相手が慰謝料を支払わないと、感情的になるお気持ちもわかります。
だからといってやりすぎてしまうと、逆にご自身が加害者となって慰謝料請求されることもあるので、不倫相手に対してやってはいけない事を確認しておきましょう。
- 不倫相手の自宅や職場に押しかける、怒鳴り込む
- 不倫相手の家族や知人に言いふらす
- インターネットで誹謗中傷する
- 不倫相手の両親や勤務先に対して慰謝料を請求する
- 不倫相手に乱暴な言動で、慰謝料を支払うように迫る
- 不倫相手に暴力をふるう
- 不倫相手や家族へ、無言電話などの嫌がらせをする
- 不倫相手に退職を強要する など
不倫相手への慰謝料請求に関するQ&A
不倫相手が複数いた場合、全員に慰謝料請求することは可能でしょうか?
不倫相手が複数いた場合、全員に慰謝料請求することは可能です。
不倫相手全員に慰謝料請求することで、配偶者との不倫関係を清算できる可能性がある一方で、いくつか注意すべき事柄もありますので確認しておきましょう。
【不倫相手全員に慰謝料請求するときの注意点】
・不倫相手の人数に比例して、単純に慰謝料が増額するものではない
(慰謝料100万円が、不倫相手がふたりだからと2倍の200万円にはならない)
・不倫相手ひとりずつ、個別で交渉する必要がある
もっとも、配偶者に対する慰謝料の増額事由にはなり得ますし、交渉次第では相場より高額の慰謝料が受け取れる可能性もあるので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
離婚した後でも不倫相手に慰謝料を請求することはできますか?
離婚した後でも時効が過ぎていなければ、不倫相手に不倫の慰謝料を請求することは可能です。
「不倫の事実を知って我慢できず、慰謝料請求を後回しにして離婚した」
「離婚した後に、配偶者が不倫していたことを知った」
など、どのようなご事情があったとしても、肉体関係があったことを客観的に示す証拠があって、不倫相手に故意・過失があれば、離婚後であっても不倫相手に慰謝料請求ができます。
ただし、元配偶者から十分な不倫の慰謝料を受け取っている場合、不倫相手からは慰謝料が受け取れないため、注意が必要です。
不倫相手への慰謝料請求をお考えなら弁護士にご相談ください
弁護士は裁判で不倫相手に慰謝料を請求するだけでなく、相手の連絡先・不倫の証拠集めの段階や、不倫相手との話し合いの段階からアドバイス・サポートが可能です。
弁護士から連絡することによってこちらの本気を示すことができるので、裁判を起こさなくても慰謝料を支払ってもらえる可能性が高まりますし、裁判に発展しても弁護士のサポートが受けられるので安心です。
不倫相手への慰謝料請求で不安や疑問を抱えていらっしゃる方は、一度弁護士法人ALGまでご相談ください。
配偶者の不倫という精神的ダメージを受けたご相談者様に寄り添い、満足のいく結果が得られるように全力でサポートいたします。
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保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)