熟年離婚の原因と、離婚前にしておくべき準備

離婚問題

熟年離婚の原因と、離婚前にしておくべき準備

札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈

監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士

熟年離婚に明確な定義はありませんが、一般的には20年ほど長く連れ添った夫婦が何らかの事情で離婚を選択することをいいます。

夫婦の年齢ではなく、婚姻期間が長期間に及ぶことが「熟年離婚」のひとつの基準となるでしょう。

最近では、子供の自立や夫の定年退職といったライフステージの変わり目に、熟年離婚を選択する夫婦も増えています。

この記事では、熟年離婚に必要な準備や手続などについて解説していきます。

熟年離婚の原因

夫婦の数だけ離婚の理由はさまざまですが、長年連れ添ってきた夫婦特有の離婚の原因があります。具体的には、以下のようなものが挙げられます。

  • ①相手の顔を見ることがストレス
  • ②価値観の違い、性格の不一致
  • ③夫婦の会話がない
  • ④子供の自立
  • ⑤借金、浪費癖
  • ⑥介護問題

では、それぞれについて詳しく見ていきましょう。

相手の顔を見ることがストレス

これまで外で働いていた夫が定年退職を迎え、家にいるようになると1日中夫と時間を過ごすことになります。

思うように家事ができなかったり、夫の分まで昼食を用意したりと、妻はこれまでとの生活の違いにストレスを感じてしまうこともあります。

その結果、「顔を見ることがストレス」「一緒にいることが苦痛」と感じてしまい、離婚を考える原因となってしまいます。

価値観の違い、性格の不一致

価値観の違いや性格の不一致は、熟年夫婦に限らずどの夫婦も抱えている問題でしょう。

そもそも血がつながった親や兄弟でさえ価値観は異なるものですから、これまで育ってきた環境が異なる夫婦では、価値観の違いは当然のことです。

「この人とは価値観が合わないな」と感じていても、昔は今ほど離婚が身近ではなかったこともあり、我慢して過ごしてきたかもしれません。

しかし、子供の自立や夫の定年退職などのタイミングを機に、残りの人生を好きなように過ごしたいという思いから、熟年離婚に踏み切るケースもあります。

夫婦の会話がない

熟年離婚に踏み切る理由として、「夫婦の会話がない」というケースも多く見受けられます。

長年一緒にいる中で段々と会話がなくなっていった夫婦もあれば、夫が仕事で忙しく会話をする暇もなかった夫婦が、定年退職を迎えて会話をしてこなかったことに気付いたという場合もあるでしょう。

会話がないことを「心地いい」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、孤独感を覚えてしまう方も多いようです。会話がないのに夫婦を続ける意味があるのかと不安を感じ、離婚を考えるきっかけとなる場合もあります。

子供の自立

子供の自立は、熟年離婚に踏み切る大きなきっかけとなるでしょう。

それまでは配偶者への愛情が薄れていても、「子供には両親がそろっていた方が良い」「経済的な面で子供の進路を妨害したくない」という思いから、離婚を踏みとどまっていた方は多いでしょう。

しかし、子供が自立すると今まで離婚を踏みとどめていた理由がなくなり、「老後はひとりで暮らしたい」と思い離婚を切り出すケースもあります。
また、子供が自立し、家を出たことで配偶者との生活が息苦しいと気付く場合もあるでしょう。

借金、浪費癖

配偶者の借金や浪費癖も熟年離婚の理由となります。

これまで幾度となく借金を繰り返していた場合や、隠していた借金が発覚するような場合もあるでしょう。また、配偶者の消費癖に耐えられなくなったというケースもあります。

子育てが終わりこれから夫婦だけの生活になる中で、そのような相手とは一緒にいられないと見切りをつけて離婚を切り出す場合もあります。

介護問題

熟年夫婦の年齢になると、双方の親の介護問題が浮上してきます。

特に義両親の介護は心身への負担が大きく、これまでの関係が良好ではなかった場合、強い嫌悪感を抱いてしまうでしょう。

「義理の子供だから」といった理由だけで介護を押し付けられ、直系の子供である配偶者は何もしてくれないといったようなケースでは、離婚して自分の両親だけを介護したいと考えるのは自然です。

このような背景から熟年離婚に至るケースも多くあります。

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熟年離婚に必要な準備

熟年離婚では、婚姻期間が長かった分、離婚後の生活が大きく変化します。勢いだけで離婚するのは大変危険であり、離婚後の生活について、事前に準備しておくことが大切です。

ここからは、熟年離婚をする際に事前に行っておくべき準備について解説していきます。

就職活動を行う

特にこれまで専業主婦(夫)であった場合は、離婚後経済的に困窮しないように収入の確保が重要です。

離婚時の財産分与や相続した資産などがある場合でも、収入がなければいずれお金が無くなる日が来ます。そこで、離婚前にハローワークなどに行ったり、就職活動をしたりして、離婚後に安定した収入を得られるようにしておきましょう。

また、これまで就職したことがないような場合には、就職に有利な資格の取得を目指すところから始めましょう。

味方を作る

熟年離婚をする際、味方がいることが救いになる方も多いようです。
離婚という大きな決断をした際に周囲から批判されてしまうと、ストレスを抱えたり、孤独を感じたりしてしまうおそれもあります。

そうならないためにも、家族や友人などと良好な関係を築き、味方を作っておくことが良いかもしれません。

住居を確保する

特に、財産分与によって現在住んでいる家に相手がそのまま住むことになった場合や、賃貸物件を解約することに決めた場合などは、住む家がなくなってしまうため、離婚後の住居を確保する必要があります。

親が健在であったり、実家を相続したりしているような場合には、実家に引っ越しをするのも良いでしょう。

そうでない場合は賃貸契約を締結することになると思いますので、条件の合う物件を探す、必要な費用を準備するなど早めに対応することをおすすめします。

財産分与について調べる

離婚の際は、婚姻期間中に夫婦が築き上げた財産を分配する「財産分与」を行います。
夫が仕事をして収入を得ていて、妻は専業主婦という場合でも基本的には平等に分配することができます。

熟年離婚の場合は、婚姻期間も長くなることから財産分与の対象となるものが多くなる場合があります。

つまり、多くの財産を分配しなければなりません。
どのようなものが財産分与の対象となるのか、分配額が適切かどうか分からないことも多いため、一度弁護士にご相談ください。

専業主婦(専業主夫)の場合は年金分割制度について調べておく

年金分割とは、婚姻期間中に夫婦が納めた厚生年金保険料の支払実績を、離婚時に多い方から少ない方へ分割する制度です。
熟年離婚の場合は婚姻期間も長く、年金分割の対象となる標準報酬が高額になるケースも多いため、忘れずに行いましょう。

年金分割には以下の2つの方法があります。

  • 合意分割
    按分割合を上限2分の1として、夫婦の合意や家庭裁判所の決定によって按分割合を決めるもの
    3号分割よりも高額になりやすいです。
  • 3号分割
    2008年4月1日以降に納めた厚生年金保険料が対象となり、第3号被保険者であった期間の標準報酬を自動的に2分の1の按分割合で分割するもの
    専業主婦(夫)であった方の場合は、合意分割とあまり変わらない金額になることもあります。

退職金について把握しておく

熟年離婚のタイミングは、配偶者の定年退職前後であることが多くあります。
そのため、配偶者の退職金についても把握しておくことが大切です。

退職金は、退職金が支払われるのか、後どのくらいで支払われるのかなどの事情を考慮して財産分与の対象となるかが決まります。

後ほど詳しく解説しますが、離婚時に退職金を財産分与として受け取ることができるかどうかは離婚後の生活にとっても非常に重要なことであるため、事前に調べておくなど対策をしておきましょう。

熟年離婚の手続

熟年夫婦だからといって、ほかの夫婦と離婚の手続に大きな変わりはありません。
大まかな手続は以下の流れで行います。

  • ①夫婦で話合い
    まずは夫婦で離婚や離婚条件について話し合いましょう。
    このとき、お互いが冷静なタイミングで話を切り出すこと、離婚したい理由を明確にしておくことが大切です。
  • ②離婚調停
    話合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。
    調停では、調停委員が当事者双方から交互に話を聞き、合意に向けて意見調整が行われます。早ければ1回で終わることもありますが、双方が譲らなければ長期化することもあります。
  • ③離婚裁判
    離婚調停が不成立となった場合は、離婚裁判を提起することとなります。
    ただし、裁判で離婚が認められるには、法定離婚事由(※)が必要です。
    また、裁判を起こす場合は基本的に調停を経てからとなります(調停前置主義)。
    ※民法で定められている離婚事由(不貞行為など)

熟年離婚で慰謝料はもらえるのか

熟年離婚だからという理由で慰謝料がもらえることはありません。
慰謝料は「精神的苦痛に対する補償」であるため、離婚の理由によって精神的苦痛を受けた場合にのみ請求できます。

例えば、以下のような事情を理由に離婚に至る場合は慰謝料を請求できる可能性があります。

  • 配偶者が不貞行為(肉体関係を伴う不倫)をしていた
  • 配偶者からDVやモラハラを受けていた
  • 配偶者が生活費をくれないなどの事情がある など

また、これらの事情が結婚当初から続いていたような場合では、精神的苦痛が大きいと判断され相場よりも慰謝料が高額になる場合があります。

退職金は必ず財産分与してもらえるわけではない

退職金が財産分与の対象となるかどうかは、離婚時に退職金が既に支払われているかどうかによって大きく変わってきます。
特にまだ支払われていない場合は、「将来支払われる」という確実性が重要です。

また、退職金が財産分与の対象となるケースでも、退職金の全てが財産分与できるわけではないため、注意が必要です。以下で詳しく見ていきましょう。

退職金が既に支払われている場合

離婚のタイミングで退職金が既に支払われていた場合は、財産分与の対象となります。
ただし、離婚時までに退職金を使い切ってしまったケースでは財産分与の対象とはなりません。

退職金がまだ支払われていない場合

退職金がまだ支払われていない場合は、「ほぼ確実に退職金の支払いがある」と見込める場合に財産分与の対象となります。代表的な計算方法を2つ見ていきましょう。

  • ①現時点で退職したと仮定して計算する方法
    式)財産分与の対象額=現時点で退職した場合に支払われる退職金×婚姻期間÷勤務期間
    なお、「現時点」というのは「別居した時点」や「離婚した時点」を指します。
    別居を経て離婚する場合は「別居した時点」となることが多いです。
  • ②定年退職時に受取予定の退職金で計算する方法
    式)財産分与の対象額=定年退職時に受取予定の退職金-結婚前と離婚後に働いた(働く予定)分の退職金-中間利息
    中間利息とは、お金の前払いを受けたとき、将来支払われる予定の時点までに発生するはずだった利息のことです。

熟年離婚したいと思ったら弁護士にご相談ください

子供の自立や夫の定年退職などライフステージの変化から、熟年離婚を決意する方も増えています。

熟年離婚では、財産分与の金額が大きくなる傾向にあります。
若年夫婦の離婚とは違った視点での離婚の準備が必要です。長年夫婦として連れ添ってきたからこそ、配偶者と離婚の折合いが付かない場合も考えられます。

熟年離婚でお悩みの場合は、私たち弁護士法人ALGにご相談ください。
私たちは離婚について詳しい弁護士が多く在籍しており、ご相談者様ひとりひとりに寄り添った解決策をご提案いたします。

離婚について分からないこと、心配なこと、些細なことでも構いませんので、まずはおひとりで悩まず、私たちにご相談ください。

札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈
監修:弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長
保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)
札幌弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。