監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
遠方にある実家や、管理が難しい山林・農地を相続する場合、その土地の管理や固定資産税といった負担が生じます。
相続した土地を活用する予定がなければ、土地の価値を見極めたうえで相続放棄を検討すべきですが、不要な土地だけを相続放棄することはできないなど注意しなければならないこともあります。
そこで今回は、【土地の相続放棄】について、注意点や手続の流れを解説していきます。
相続放棄せずに土地を所有し続けるリスクや、相続放棄以外に土地を手放す方法も紹介していくので、不要な土地を相続放棄するか悩まれている方の参考になれば幸いです。
Contents
土地や建物などの不動産は相続放棄できるのか?
土地や建物、空き家などの不動産を相続放棄することができます。
相続放棄すると、被相続人の相続財産に関する一切の権利・義務を手放すことになるため、固定資産税の支払義務も負わずに済みます。
<相続放棄した人の相続権は、ほかの法定相続人へ移ります>
相続放棄した人は、はじめから相続人ではなかったとみなされ、相続権がほかの法定相続人へと移ります。
法定相続人とは、民法で定められた相続財産を相続できる人のことで、被相続人の配偶者以外の血族は相続人になれる“相続順位”が決まっています。
【相続順位】
- 第1順位:子供(死亡している場合は孫などの直系卑属)
⇩ ※第1順位の相続人が誰もいない場合は相続権が次順位へ移ります - 第2順位:父母(死亡している場合は祖父母などの直系尊属)
⇩ ※第2順位の相続人が誰もいない場合は相続権が次順位へ移ります - 第3順位:兄弟姉妹(死亡している場合は甥・姪)
相続放棄せずに土地を所有し続けるリスクとは?
ご自身で活用する予定のない土地を、相続放棄せずに所有し続けることにより、次に挙げるようなリスクが想定されます。
- 不要な土地に対して固定資産税を支払わなければならない
- 共有名義にするとトラブルに発展することがある
それぞれのリスクについて、次項で詳しくみていきましょう。
固定資産税を支払わなければならない
土地を所有しているだけで、固定資産税の支払義務が発生します。
土地を使っていないからといって、固定資産税が免税されることはなく、毎年自動的に固定資産税が発生し続けます。なお、土地に住宅が建っている場合、“住宅用地の特例”を適用することで、固定資産税が軽減されます。
これは空き家も対象となるのですが、管理状態が不十分な空き家が「特定空き家」に指定された場合、住宅用地の特例による税制優遇が適用されなくなり、固定資産税が最大6倍に増額されるおそれがあります。
空き家問題と固定資産税については、次項でもう少し詳しく解説していきます。
空き家問題と固定資産税について
近年、所有者不明の空き家が増加し社会問題となっています。
空き家が放置されると、倒壊や火災などのリスクがあるほか、害虫や悪臭などで周囲の生活環境を悪化させるなど、さまざまな悪影響を及ぼすことがあります。
そこで、空き家の適切な管理・処理方法について定めた“空家等対策特別措置法”に従い、管理状態が不十分な空き家が“特定空き家”に指定されると、税制上の優遇措置が適用されなくなって、固定資産税が最大6倍に増える可能性があります。
特定空き家に指定される流れは、まず自治体から“助言・指導”が行われます。
この段階で適切に対応し、状況が改善されれば特定空き家の指定は解除されます。
改善が行われない場合には“勧告”がなされ、住宅用地の特例の対象から除外され、翌年以降の固定資産税が大幅に増加することになります。
共有名義にするとトラブルに発展することも
相続人が複数いる場合に、土地を取得する相続人が決まらないなどの事情があって、1つの土地を2名以上の相続人で共有名義とするケースがありますが、トラブルに発展する可能性が高いためおすすめしません。
土地を共有名義にしてしまうと、固定資産税や管理費用を誰がどのくらい負担するのかが問題になることが多く、いざ土地を売却しようとした場合には、共有者全員の同意が必要となるため、誰か1人でも反対する人がいれば土地を売却することができなくなってしまいます。
共有者のうち、誰か1人が亡くなると新たな相続人が共有者となり、権利関係も複雑になることが想定されるため、可能な限り土地や不動産を共有名義にすることは避けるようにしましょう。
土地を相続放棄する際の注意点
土地を相続放棄するにあたっては、いくつか注意すべきことがあります。
具体的な注意点として、
- 土地だけ相続放棄することはできない
- 相続放棄しても土地の管理・保存義務は残る
- 土地の名義変更を行うと相続放棄できなくなる
- 相続放棄には3ヶ月の期限がある
といったことが挙げられます。
以下、詳しくみていきましょう。
土地だけ相続放棄することはできない
必要のない土地だけを相続放棄することはできません。
【相続放棄】
相続放棄とは、プラスの財産・マイナスの財産を問わず、被相続人の相続財産全てに関する相続権を手放し、はじめから相続人ではなかったことにする手続です。
相続したくない財産がある場合や、マイナスの財産が上回る場合に有効な手段と考えられます。
相続放棄は一切の相続権を手放すことになるので、相続する財産・相続放棄する財産を選ぶことはできません。相続放棄は基本的に撤回できないため、土地の価値を見極めたうえで、慎重に判断しましょう。
相続放棄しても土地の管理・保存義務が残ることがある
相続放棄して土地の所有権を手放しても、土地を管理・保存する責任=保存義務が残る場合があります。
- 相続放棄した土地で暮らしていた
- 相続放棄した土地を事実上管理・支配していた
など、土地を現に占有している者にあてはまる場合、土地の次の管理者(新しい相続人、または相続財産清算人)に引き渡すまでの間、土地を管理・保存する責任(保存義務)が残る可能性があります。
この場合、自身が所有する財産と同一の注意をもってその土地を管理・保存しなければなりません。放置によって第三者に損害を与えた場合には賠償責任を問われるおそれがあるため、注意が必要です。
【相続財産清算人】
相続財産清算人とは、相続人がいない相続財産を管理し、債権者への精算・特別縁故者への財産分与の後、残った財産を最終的に国庫に帰属させる役割を担う人のことです。
相続財産の利害関係人が家庭裁判所に選任を申し立てることができます。
土地の名義変更を行うと相続放棄できなくなる
土地の名義変更を行うと、単純承認したとみなされて相続放棄できなくなります。
【単純承認】
単純承認とは、プラスの財産・マイナスの財産を問わず、被相続人の相続財産全てを無条件で相続することです。
相続開始を知ったときから3ヶ月(=熟慮期間)以内に手続が必要な相続放棄や限定承認と異なり、特別な手続は不要です。
名義変更など、相続財産を何らかの方法で一部でも処分してしまうと単純承認したとみなされて、以降の相続放棄はもとより、すでに認められた相続放棄も無効となってしまう可能性が高いです。
相続放棄には3ヶ月の期限がある
相続放棄の手続には期限があって、「自己のために相続が開始されたことを知ったときから3ヶ月」という熟慮期間内に行わなければなりません。
この期限を過ぎてしまうと、特別な事情がない限り相続放棄できなくなってしまうため、注意が必要です。
<熟慮期間内に相続放棄するか判断できない場合>
相続人や相続財産の特定に時間がかかるなどして、熟慮期間内に相続放棄するか判断できない場合は、事前に家庭裁判所に熟慮期間の延長(伸長)を申し立てることで、1~3ヶ月程度期間を延ばすことができます。
相続放棄した土地はどうなるのか?
相続放棄した土地は、ほかの相続人が相続することになります。
相続人全員が相続放棄した場合には、土地は最終的に国のもの(国庫に帰属)となります。
もっとも、相続人のいない土地を国庫に帰属させるためには、“相続財産清算人”を選任し、相続人がいないことを法的に確定してもらう必要があります。
相続人がいない財産について、相続財産清算人が被相続人の債権者や受遺者へ清算を行った後、残った財産があれば国庫に帰属させます。
土地を相続放棄する手続の流れ
土地を相続放棄するための手続は、次のような手順を踏むことになります。
- ①相続放棄申述書を作成し、住民票や戸籍謄本などの必要書類を用意する
- ②被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に必要書類を提出し、相続放棄の申述を行う
- ③家庭裁判所から届いた書類(照会書)に回答し、返送する
- ④相続放棄申述受理通知書が届いたら、手続が完了
相続放棄の申述を行うにあたっては、申述人1名につき800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手が必要になります。(記事作成当時)
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相続放棄以外で土地を手放す方法はある?
「土地以外のプラスの財産が多いので相続放棄したくない」
「土地以外にどうしても相続したい財産がある」
などの相続放棄したくないケースでは、土地を含めた相続財産を相続した後、次のような方法で不要な土地だけを手放せることがあります。
- 売却する
- 寄付する
- 国に引き取ってもらう
土地を相続する場合、不動産の名義を変更する手続(=相続登記)が必要で、必ずしも土地を手放せるとは限りませんので注意が必要です。
以下、相続放棄以外で土地を手放す方法のほか、手放さずに土地を活用する方法について詳しく解説していきます。
売却する
土地を手放す方法として、まずは土地の売却を検討してみましょう。
ご自身にとっては不要な土地でも、必要としている人が高く買い取ってくれる可能性もあるので、無料査定で相場を確認したうえで、不動産会社に仲介を依頼するとよいでしょう。
不便な地域であったり、古い家屋が建っていたりすると、なかなか買い手がつかないこともあるので、
- 価格を下げて売却する
- 更地にして売却する
- 自治体などが運営する空き家バンクに登録する
といった工夫が必要になります。
なお、2名以上の相続人の共有名義となっている場合には、共有者全員の合意が必要です。
全員が売却に合意できたら、得られた売却金を共有者間で分配します。
寄付する
不要な土地を手放す方法として、寄付が挙げられます。
土地の寄付の相手としては、
- 自治体
- 個人
- 法人
が候補となりますので、まずは寄付が可能か相手方に確認してみましょう。
なお、個人や法人へ土地を寄付した場合は“贈与”とみなされ、寄付された側に贈与税が課税されることがあるので注意が必要です。
国に引き取ってもらう
“相続土地国庫帰属制度”を利用することにより、土地を国に引き取ってもらえるケースがあります。
相続や遺贈で取得した土地で、次のいずれにもあてはまらなければ、売却や寄付が難しい土地であっても国に引き取ってもらえる可能性があります。
この制度は、2023年4月に施行されたものですが、制度が開始される前に相続した土地も対象です。
- 建物がある土地
- 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 他人の利用が予定されている土地
- 土壌汚染されている土地
- 境界が明らかでない土地
- 所有権の存否や範囲について争いがある土地
土地が不要なものである場合には、これらのいずれかに該当することも多く、この要件はかなり厳しいものといえます。
上記のいずれにも該当しない土地でも、管理に過分な費用・労力がかかる土地などは申請しても国庫帰属の承認が得られない可能性があり、要件を満たした場合には審査手数料や10年分の管理費に相当する「負担金」など一定の費用がかかる点にも注意が必要です。
土地活用を行う
不要な土地を手放す以外にも、その土地を有効活用することも検討してみましょう。
まずは土地の有効活用に関する立地調査を行い、次に挙げるような方法で土地を有効活用できれば収益を得られる可能性もあります。
- 土地に建物を建てて、アパートやトランクルーム、コンビニの経営をする
- 駐車場経営をする
- 自動販売機や看板を設置するスペースとして貸し出す など
土地の相続放棄に関するQ&A
被相続人から生前贈与された土地を相続放棄できますか?
被相続人から生前贈与された土地は、相続放棄しても所有権を手放すことはできません。
そもそも生前贈与と相続とは異なる手続であり、生前贈与された土地は相続財産には含まれないため、相続放棄の対象にもなりません。
【生前贈与】
生前贈与とは、生きている間に財産を無償で第三者へ贈与することをいいます。財産を渡す側(遺贈者)と財産を受け取る側(受遺者)の合意による契約行為で、受遺者に対して贈与税が課税されることがあります。
土地の共有持分のみを相続放棄することは可能ですか?
土地の共有持分だけを相続放棄して、ほかの財産を相続することはできません。
【共有持分】
共有持分とは、1つの土地や建物を2名以上の相続人の共有名義で相続した場合の、共有者それぞれが持つ所有権の割合のことです。
相続放棄では相続放棄する財産と相続する財産を選択することはできないので、土地の共有持分だけを相続したくないのであれば、
・相続人全員で遺産分割について話し合う
・相続した後にご自身の共有持分だけを売却する
といった方法を検討しましょう。
農地を相続放棄した場合、管理・保存義務はどうなりますか?
相続放棄をして農地の所有権を手放した場合でも、現に占有している農地に関しては管理・保存する責任(保存義務)が残ります。
農地であっても通常の土地と同様に相続放棄は可能ですが、耕作に関わっていたなど、事実上管理・支配している=現に占有している農地は、相続放棄した後、次の相続人または相続財産清算人に引き渡す時まで、農地が滅失・損傷しないよう、自己の財産と同一の注意をもって保存しなければなりません。
特に、農地の放置が周辺の農業環境に悪影響を及ぼすと判断された場合、自治体からの指導対象となる懸念もあるため、放置は推奨されません。
もっとも、被相続人と疎遠になっていた場合や、遠隔地にある農地のような場合など、現に占有していない農地については、相続放棄後でも保存義務はないと考えられます。
土地を相続放棄するかどうかで迷ったら、一度弁護士にご相談ください。
不要な土地の相続は、固定資産税の負担だけでなく、将来にわたる管理責任を負い続けるという重い課題を伴います。
また、相続放棄するとすべての相続財産を手放すことになるため、相続して土地を有効に活用することができるか、売却・寄付することは可能かを検討することも重要になります。
相続をすることのリスク判断は、容易なものではありません。
ご自身で最適な方法を選択するのは容易なことではありませんので、判断に迷ったら弁護士に相談することをおすすめします。
相続財産の調査や相続放棄の手続を弁護士に任せることも可能なので、熟慮期間が過ぎてしまう前に、まずは弁護士法人ALGへご相談ください。

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保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)
