
監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
相続財産には、亡くなった人(=被相続人)が所有していた土地・建物などの“不動産”が含まれていることが多くあります。
「相続を希望する人が複数いて、分け方がわからない」「不動産の適正な価格を算定する方法がわからない」「だれも相続したがらない」
など、不動産の相続にはトラブルが生じやすい傾向にあります。そこで今回は、不動産を相続した場合の分け方や手続についてわかりやすく解説していきます。
令和6年から義務化された“相続登記”についても、本ページで一緒に確認していきましょう。
Contents
相続した不動産はどうやって分ければ良いの?
相続財産に不動産が含まれる場合、いくつかの分割方法があります。主な遺産分割方法は、次のとおりです。
- 被相続人の遺言書に従って分割する
- 換価分割する
- 現物分割する
- 代償分割する
- 共有分割する
それぞれの方法について、次項で詳しくみていきましょう。
遺言書があるなら内容を確認しましょう
被相続人の遺言書がある場合、その内容に従って遺産分割を行うことになります。まずは、遺言書の有無を確認しましょう。
遺言書はどこを探せばいい?
遺言書の主な探し方は、次のとおりです。
- 自宅の金庫、タンス、引き出しなどを探す
- 友人や親交のあった弁護士・税理士などの専門家、銀行に預けていないか確認する
- 公証役場で公正証書遺言を保管していないか確認する
- 法務局で自筆証書遺言を保管していないか確認する
遺言書を見つけた場合、家庭裁判所の検認手続が必要なので、勝手に開封しないようにしましょう(公証役場や法務局で保管された遺言書を除く)。
なお、遺言書が見つからない場合や、遺言書で具体的な分割方法が指定されていない場合は、遺産分割協議によって分割方法を決めます。
遺言書が存在する場合でも、相続人や、受遺者・遺言執行者(指定されている場合)全員が合意できれば、遺言書とは異なる方法で遺産分割を行うことも可能です。
売却・現金化して相続人で分ける(換価分割)
相続財産の不動産を売却して、その売却代金を相続人で分ける方法があります。
これを“換価分割”といって、現金化することによって平等に分けられるだけでなく、不動産の維持費などを支払う必要がなくなるため、不満が生じにくい分割方法です。
【換価分割の注意点】
不動産を売却するにあたり、名義変更が必要になったり、諸経費が差し引かれたりして、手間や費用がかかります。
なにより、換価分割を行う場合は必ず不動産を手放すことになるため、不動産を手放したくない相続人がいる場合など、別の分割方法を検討せざるを得ないケースも多いでしょう。
相続人の一人がそのまま相続する(現物分割)
相続人の一人が、不動産をそのまま相続する方法もあります。これを“現物分割”といって、手間の少ない、最もシンプルな分割方法です。不動産が複数ある場合や、同程度の相続財産が複数ある場合に有効な方法です。
【現物分割の注意点】
相続財産の価値に差が生じる場合、平等に遺産分割を行うことが難しいことから、公平性に欠けるというデメリットがあります。
相続する人がほかの相続人にお金を払う(代償分割)
不動産を相続する人が、ほかの相続人に対して相応分の代償金を支払う方法があります。これを“代償分割”といって、不動産を手放すことなく、相続人全員が公平に相続できることから、不満が生じにくい分割方法のひとつです。
(例①)
不動産の価値が2000万円だった場合に、兄弟2人が相続人だったとします。
兄が不動産を相続する場合、兄は弟に対して1000万円の代償金を支払うことになります。
(例②)
不動産の価値が2000万円だった場合に、母親、兄、弟の3人が相続人だったとします。
不動産を占有する母親が相続する場合、母親は兄弟に対して500万円ずつの代償金を支払うことになります。
【代償分割の注意点】
代償分割の場合、不動産の評価額で争いになることも多いです。また、一般に不動産は高額なので、不動産を相続した人の金銭的負担が大きくなる点に注意が必要です。
複数の相続人で共有する(共有分割)
相続財産の不動産を、相続人全員で、それぞれの相続分に応じて共有する方法があります。
これを“共有分割”といって、ひとつの不動産を、相続人全員で共有名義にするシンプルな方法で、遺産分割協議がまとまらなかったときに選択されることが多いです。
【共有分割の注意点】
一見すると公平性のある方法ですが、
- 不動産を賃貸物件にしたり、大掛かりなリフォームが必要になったりしたときは、共有名義人全員の同意が必要になる
- 共有名義人が亡くなって相続が発生すると、その相続人が共有名義人となるため、権利関係が複雑になる
など、時間の経過とともにトラブルが生じやすくなって、共有を解消することも難しくなるため、共有分割はできるだけ避けるようにしましょう。
不動産の相続には名義変更が必要
相続によって不動産の所有者が変わる場合、“相続登記”という手続きを行う必要があります。
相続登記とは、正式には“相続による所有権移転登記”といって、所有者を変更するための名義変更手続のことです。
相続登記は、必要書類を揃えて、法務局に提出する方法で行うことができます。
以下、相続登記はいつまでに、どのような書類を、どこに提出すればよいのかを、詳しく解説していきます。
相続登記はいつまでにやればいい?
不動産の相続登記は令和6年4月1日に義務化されたことにより、相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。
この義務を正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料が科される可能性があります。
●義務化される前に相続した不動産はどうなる?
義務化される令和6年4月1日よりも前に発生した相続においても、義務化の対象となります。そのため、猶予期間である令和9年3月31日までに相続登記を行う必要があります。
相続登記に必要な書類
相続登記に必要な書類は、「遺言書」、「遺産分割協議」、「法定相続分」などの相続の方法によって異なります。
以下、どの相続方法でも共通して必要なものと、相続方法ごとに必要になるもののうち、代表的なものを、入手先とあわせてご紹介します。
必要書類 | 入手先 |
---|---|
登記申請書 | 法務省のウェブサイトからダウンロードできます |
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、除籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 |
被相続人の住民票の除票 | 住所地の市区町村役場 |
新しい所有者の住民票 | 住所地の市区町村役場 |
固定資産評価証明書 | 不動産の所在地の市区町村役場 |
書類 | 入手先 |
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被相続人の遺言書 | ※自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、検認手続後、調書の添付も必要です。 |
新しい所有者の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 |
書類 | 入手先 |
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遺産分割協議書 | ※相続人全員の署名押印(実印)があるもの |
相続人全員の印鑑証明書 | 住所地の市区町村役場 |
法定相続人全員の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 |
書類 | 入手先 |
---|---|
法定相続人全員の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 |
●提出した戸籍などの原本は返却してもらえる?
相続登記の申請の際には、原本の提出が求められます。原本の返却を希望する場合は、原本の返却を求める旨を明示し、コピーを添付して提出することになります。戸籍に関しては、“相続関係説明図”を作成して提出すると、戸籍のコピーを添付しなくても原本を返却してもらうことができます。
提出先
相続登記はどこの法務局でも行えるわけではなく、不動産の所在地を管轄する法務局で行います。必要書類を法務局の窓口に持参する方法が一般的ですが、郵送することも可能です。
提出先を調べる方法は?
法務局のウェブサイトの「管轄のご案内」から、管轄の区域を確認することができます。また、インターネットで、不動産のある地名と「法務局」で検索する方法もあります。
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不動産の相続時に発生する税金
不動産の相続時に、相続人に発生する税金は、
- 相続財産を相続した場合にかかる「相続税」
- 相続登記をした場合にかかる「登録免許税」
この2種類があります。それぞれ、次項で詳しくみていきましょう。
相続税
相続税とは、被相続人の相続財産を相続したときに、相続人に課税される税金のことです。
不動産や預貯金などの遺産総額が基礎控除額を超えた場合に、超過した部分に対して相続税が発生します。
【基礎控除額の計算方法】
基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
(例)
相続人が兄弟2人の場合、基礎控除額は3000万円+(600万円×2人)=4200万円となるので不動産を含めた遺産総額が4200円に満たない場合は、相続税が発生しないことになります。
【相続税の申告・納税期限】
相続税が発生する場合、被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、相続税の申告から納税までを行わなければなりません。相続登記が終わっていないからといって期限が延長できるわけではないので注意しましょう。
登録免許税
登録免許税とは、相続登記の手続を行う際に課税される税金のことです。
【登録免許税の計算方法】
登録免許税=不動産の固定資産税評価額×0.4%固定資産税評価額は、市区町村役場で入手できる“固定資産評価証明書”の評価額を参照します。
また、計算にあたっては、評価額は1000未満が切り捨て、登録免許税も100未満が切り捨てとなります。
【登録免許税の免税措置】
不動産の評価額が100万円以下の場合や、相続登記をするまえに相続人が亡くなってしまった場合は、相続登記の登録免許税が免除されることがあります。
免税措置を受けるためには、申請書への法令の条項の記載が必要です。
相続したくない不動産はどうすればいい?
「立地が不便で管理できない」「管理の負担が大きすぎる」「遠方に住んでいて相続しても利用しない」
など、相続したくない不動産がある場合にとれる対応として、次のような方法が考えられます。
- 相続放棄する
相続放棄とは、被相続人の相続財産の一切の権利を放棄する方法です。ただし、不動産以外の財産も手放すことになるため、慎重に判断する必要があります。
相続人全員が相続放棄した場合、財産は最終的に国庫に帰属されます。不動産の管理を担当していた人など、一定の要件に当てはまる人の場合、相続放棄をしても管理義務が残ることがあります。
- 相続した土地を売却・寄付する
相続した土地を手放す方法として、不動産会社に売却したり、市区町村へ寄付したりする方法もあります。
- 国に引き取ってもらう(相続土地国庫帰属制度)
一定の条件を満たせば、費用を負担して国に土地を引き取ってもらうことができます。この制度を“相続土地国庫帰属制度”といいます。相続放棄と違い、ほかの財産を手放す必要がないというメリットがあります。
不動産の相続に関するQ&A
父が亡くなったのですが、不動産の名義人が祖父になっていました。この場合、私たちは相続できないのでしょうか?
祖父名義の不動産を、父親の相続人が相続できるかどうかは、祖父が存命かどうかで変わります。
【不動産の名義人である祖父が存命中の場合】
不動産の名義人である祖父が存命中の場合、不動産は祖父の財産となるため、父親の相続人が相続することはできません。
【不動産の名義人である祖父がすでに亡くなっている場合(数次相続)】
不動産の名義人である祖父がすでに亡くなっている場合は、祖父の相続人と父親の相続人とで遺産分割協議を行い、全員の合意があれば、不動産を相続することができます。
この場合、祖父→父親の相続登記を経て、父親→相続人の相続登記を行うことになります。
※なお、祖父の相続人が父親一人だった場合は、祖父から父親への相続登記を省略して、祖父から直接相続登記することができます(=中間省略登記)。
不動産の相続は弁護士へ依頼するのがおすすめ
不動産は相続財産のなかでも高額になることが多く、現金のように簡単に分け合うことができないため、相続においてトラブルに発展するケースが少なくありません。
弁護士であれば、不動産の評価額の計算方法や分割方法について最適な提案をすることが可能です。
また、過去の相続において相続登記がなされておらず、手続が複雑化するケースでは、相続人の調査から遺産分割協議の調整、相続登記まで一貫したサポートもできます。
不動産の相続のしかたがわからない、相続登記の手続に不安があるなど、不動産の相続についてお困りの方は、一度弁護士法人ALGまでご相談ください。
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保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)