
監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
内部通報制度は、不正を発見した従業員が会社へ直接的に告発することができる制度です。
通報窓口を設けて通報を容易にできれば、不正の拡大を防止し、早期発見と対応を実現させる社内の自浄システムとなります。
しかし、内部通報制度の窓口担当者は社内の職員だけで十分でしょうか?
通報者の保護を実現するには、窓口担当者に十分な教育を行う必要があります。
もし、社内窓口には安心して通報できないという従業員がいれば、マスコミにリークされるおそれもあります。これらの教育コストや漏洩リスクを軽減するには、社外窓口の設置が有効でしょう。
また、社外窓口を弁護士に依頼すれば様々な利点もあります。
本稿では、内部通報制度の必要性や、社外窓口を弁護士に依頼するメリット等について解説していきます。
Contents
内部通報窓口を設置する必要性とは?
令和4年6月に施行された改正公益通報者保護法に基づき、消費者庁より指針が公表されました。
その指針の中で、常時使用する労働者数が300人超である事業主は、内部通報受付窓口の設置対応が定められています。
300人以下の事業者については、努力義務となっていますが、内部通報窓口は会社内部をクリーンに運営するための重要な制度です。
会社の実情に応じて可能な限り体制整備や運用準備を進めておいたほうがよいでしょう。
内部通報制度とは
内部通報制度とは、組織内の不正を内部の人間の通報によって、早期発見や防止に繋げる社内の自浄システムです。
通報窓口を活用することで、直属の上司等ではなく、会社組織へ直接訴えかけられる点に特徴があります。また、通報者を報復や不利益な取扱いなどの被害から守るため、公益通報者保護法が制定されました。
この法律では、通報者の秘密を守ることや、不利益取扱いの禁止などが定められています。
内部通報制度において社外窓口を設けるべき理由
内部通報制度を総務や人事などに設ける会社も少なくありません。
では、通報窓口は社内にあれば十分といえるでしょうか。
残念ながら、多くの場合には不十分といえます。通報窓口は社外に設けたほうがよいでしょう。
その理由は以下の通りです。
- ①経営幹部から独立した通報ルートを確保するため
- ②従業員が安心して通報できるようにするため
- ③制度運営にかかる手間や時間を軽減するため
- ④コンプライアンスを対外的にアピールするため
以降で詳しく解説していきます。
経営幹部から独立した通報ルートを確保するため
内部の不正事案が重大であればあるほど、経営幹部が関与しているケースがあります。
もし、通報窓口が社内のみであれば、通報者は経営幹部に知られることを恐れて通報をためらうことになるでしょう。そうなれば、不正は取り返しのつかない事態になるおそれもあります。
また、東京証券取引所で定められたコーポレートガバナンス・コードで、上場会社は経営陣から独立した窓口の設置を求められています。
現在、上場していない企業であっても、今後、このようなコンプライアンスは多くの企業に求められる姿勢になると考えられますので、早めに対応しておくべきでしょう。
従業員が安心して通報できるようにするため
通報窓口が社内のみの場合、通報したのが自分であるという情報が漏れるのではないかという、通報者の不安を払拭することは簡単ではないでしょう。
もし、情報が漏れれば報復されるおそれもありますので、通報者にとっては大きな問題です。不安を感じて通報を控えることになれば、通報窓口は通常に機能せず、形骸化してしまうかもしれません。
内部通報制度が瓦解すれば、社内の自浄を促すことができず不正が横行する社内環境になる可能性もあります。これは、会社にとって大きなリスクといえるでしょう。
従業員が安心して通報できる社外窓口があれば、通報が容易になり、社内環境を清浄化することに繋がるでしょう。
制度運営にかかる手間や時間を軽減するため
通報窓口は、単に設置さえすればよいというわけではありません。制度として運用するには、窓口担当者の対応や秘密保持に関する教育が必要となります。
また、相談時に話し声が漏れるような環境では意味がないので、十分に隔離された相談場所も必要です。これらの体制は最初に設計すれば終わりというわけでなく、都度、体制を見直していくことも重要です。
正しく制度を運営するには手間と時間を割かなければなりません。通報窓口を社外に設置すれば、運用体制や法改正によるアップデート等の負担を軽減することができます。
コンプライアンスを対外的にアピールするため
通報窓口が社外にあるということは、社内の経営環境を清浄化する体制が整っているという対外的なアピール要素になります。
社内の人間がいつでも通報しやすい体制の存在は、大きな不正が横行しにくく、クリーンな経営を実現できるという信用性の向上に繋がります。
消費者や取引先との信頼関係はもちろん、株主にとっての安心材料にもなるでしょう。
通報窓口を社外に設置することは、通報者にとっても、会社にとっても大きな安心に繋がるといえます。
内部通報制度の社外窓口を弁護士に依頼する6つのメリット
社外の通報窓口は誰に依頼すべきでしょうか。
前述の通り、通報窓口の担当者には、秘密保持やヒアリング対応など、適切な判断が求められます。
さらに、公益通報者保護法などの法改正による対応も必要となりますので、社外窓口は弁護士に依頼することをおすすめします。
社外窓口を弁護士に依頼する主なメリットは以下の通りです。
- ①会社からの独立性が保たれる
- ②守秘義務により通報者の秘密が守られる
- ③公正な調査が可能となる
- ④法的リスクを最小化しながら解決へと導く
- ⑤専門的知見により是正措置と再発防止策を講じる
- ⑥内部通報制度の設計についてもアドバイスできる
以降で1つずつ解説していきます。
①会社からの独立性が保たれる
法律事務所を社外通報窓口にすれば、会社から独立した通報窓口といえます。では、民間会社の社外窓口では独立性が保てないのかといえば、外形上は独立しているといえるでしょう。
しかし、外部窓口として通報内容をヒアリングし、その通報内容を企業の通報制度所管部署にそのまま報告するといった対応であれば、実態上の対応は社内窓口と同等となり得ます。
この場合には、完全な独立性を担保できているとまではいえない可能性があります。
ヒアリング内容に応じ、企業内の報告先を変えるなど、通報内容を的確に把握し、その後の対応までを見越して、企業と連携ができなければ、独立性をもった外部窓口とはいえないでしょう。
そのような判断を的確に行うには、やはり専門的な経験や知見をもった弁護士が安心といえます。
②守秘義務により通報者の秘密が守られる
通報者の秘密を守ることは、公益通報者保護法にも詳しく定められています。
これらの法律を遵守し、通報者を保護するには、正しい法律知識が求められます。
弁護士であれば、公益通報者保護法を遵守することはもちろん、職務上、守秘義務を負っているため、通報者にとっても安心して通報できる窓口といえます。
外部通報窓口を法律事務所にすることで、担当者の秘密保持に関するスキルを不安視する必要がなくなり、会社にとっても、通報者にとっても安心できる通報窓口となります。
③公正な調査が可能となる
通報内容を精査し、調査を行う場合、通報者の今までの勤務態度や、行為者の属性などによって、判断には恣意的要素が含まれやすくなります。
社内の人間が通報内容を公正に調査することは容易ではないでしょう。
しかし、社外窓口として弁護士が通報内容をヒアリングすることができれば、先入観無く通報内容を調査することが可能となります。
第三者として利害関係もなく、公正な調査を実現できるので、通報窓口としても非常に安心感の高い体制といえるでしょう。
④法的リスクを最小化しながら解決へと導く
通報内容の解決方法は1つとは限りません。むしろ選択肢は複数あることが多いでしょう。
しかし、選択肢によって会社が負うリスクの程度は異なります。
社外窓口を法律事務所に依頼することで、通報内容によって、どのような解決方法が法的リスクを最小化させられるのかアドバイスを受けることができます。
通報窓口が弁護士であれば、通報の当初から関与することができるため、法的アドバイスの精度はより高まることになります。
早期解決にも繋がるため、社内の自浄システムとして非常に優秀な制度体制といえるでしょう。
⑤専門的知見により是正措置と再発防止策を講じる
通報内容を解決に導けば、それで終了というわけではありません。事案によっては、組織体制の見直しや再発防止策を検討する必要もあります。
通報を受けた弁護士であれば、発生から解決に至る状況なども詳しく認識した上で、専門家として、是正措置や再発防止策を提案できます。
経営陣が経営上の措置や施策を検討することはもちろんですが、法的観点からのアドバイスを受けることができれば、より良い体制作りに繋がるでしょう。
⑥内部通報制度の設計についてもアドバイスを受けられる
内部通報制度の体制は会社によって様々です。
社外窓口を設置しても、本社にだけは社内窓口を設置しておきたいという場合もあります。
また、社外窓口として弁護士が受けた通報の報告体制をどのようにすればいいのか分からないなど不明点も多いでしょう。弁護士であれば、会社の業態や事情に応じて、どのような制度設計が適切なのか法的アドバイスをすることができます。
内部通報制度は、安心して従業員が通報できる体制を整え、その通報内容を調査し、より良い社内環境作りに活かしていくための制度です。
専門家である弁護士に相談しながら、自社に合った体制作りを検討してみてはいかがでしょうか。
内部通報の社外窓口として弁護士ができるサポート
内部通報の社外窓口として弁護士ができるサポートは、通報への対応やその調査、解決方法の提案などがメインとなるでしょう。
通報者へ不利益が発生しないようにするための助言や、行為者に対する処分内容の程度についてのアドバイスなど、サポート範囲は多岐に渡ります。
その他、内部通報体制の構築に関する法的アドバイスや規程の整備など設計段階のサポートも可能です。
また、内部通報制度は経営層や管理職だけが知っているという体制では不十分です。
どのような制度で、なんのために行うのかを社内全体で周知させなければ、有用な制度として機能させることは難しいでしょう。
内部通報制度の研修を社外窓口である弁護士が担当することも可能です。通報時に対応する弁護士を知っておくことで、通報者の安心感を強め、通報を促す効果も期待できるでしょう。
内部通報窓口を弁護士に依頼した場合の費用
弁護士に依頼する際の費用は、残念ながら一律ではなく、法律事務所によると言わざるを得ません。
月額の固定料金で設定するケースが多いと考えられますが、会社の従業員規模や事業所の数、通報件数などによって金額の多寡は異なるでしょう。
また、事案によって再発防止案の策定等、窓口対応以外の法的サポートが必要になれば追加料金となる料金設定なども考えられます。対応範囲や規模等により異なるため、弁護士費用については検討している事務所へ問い合わせてみましょう。
ただし、依頼する際には金額を最優先事項とすることはおすすめできません。
実際の事案が発生した場合の対応力やサポート体制など、どこまで企業に寄り添って対応できる事務所なのかを踏まえて、事務所を選ぶことをおすすめします。
内部通報の社外窓口に向いている弁護士とは?弁護士選びのポイント
社外窓口対応を行っている法律事務所は少なくありません。
では、その中から選ぶには、どのようなポイントに気をつけるべきでしょうか。
会社が弁護士に求める基準はそれぞれの事情によって異なりますが、一般的には以下のようなポイントを充足した弁護士が社外窓口に適していると考えられます。
- ①企業法務に関する経験・知識が豊富か
- ②内部通報後の処理まで対応してくれるか
- ③顧問弁護士に兼任させる場合は要注意
以下で、各ポイントについて解説致します。
企業法務に関する経験・知識が豊富か
実際に従業員から内部通報があった場合、その通報内容を精査し、解決に導くには企業法務に関する経験や知識が必要不可欠です。企業法務は弁護士であれば誰でも精通しているというわけではありません。
会社の組織としての対応やビジネス面からの対応などを適切に判断し、アドバイスできる弁護士を選ぶには、企業法務に関する経験を有しているのか確認しておくとよいでしょう。
内部通報後の処理まで対応してくれるか
内部通報に対するヒアリングだけを行い、その後の調査等は社内の人間だけで行わなければいけないとなれば、弁護士を社外窓口に依頼するメリットは半減するといえます。
内部通報を受けた後、社内担当者と連携し、事後対応に尽力してくれる弁護士を選ぶべきでしょう。
弁護士と社外窓口の契約を行う際には、実際の通報事案に対してどこまでのサポートが受けられるのか、具体的な業務範囲を必ず確認するようにしましょう。
顧問弁護士に兼任させる場合は要注意
顧問弁護士がいるから、社外窓口は顧問弁護士で大丈夫、というのは少し早計です。内部通報制度は、その信頼性を確立するためにも、経営幹部からの独立性や社内での中立性が求められます。
では、顧問弁護士は誰から見ても中立といえるでしょうか。
もちろん、弁護士であれば内部通報における自身の立場を理解し、公正に対応しますが、通報者からみて安心できる窓口であるかは疑問が残るところでしょう。
社内事情をよく知る弁護士に任せたいという気持ちは理解できますが、その分、経営幹部との関係性も強いため、不安を感じる通報者も一定程度存在すると考えておくべきです。
また、内部通報から端を発して訴訟に繋がったような場合、内部通報を担当した弁護士や法律事務所は、利益相反の観点から、訴訟に対応することが困難になります。
顧問弁護士と社外窓口とは、あえて分けるという考え方もあり得るところです。
社外窓口を弁護士に依頼する際は、できる限り顧問弁護士を避けた方が良いといえるでしょう。
内部通報の社外窓口を設置するなら、企業コンプライアンスに精通したALGにお任せ下さい。
内部通報の社外窓口は、社内の自浄システムを活性化させる有効な手段です。
しかし、社外であれば誰でもよいというわけではありません。企業秘密や重要な個人情報に接する告発などもあり得るため、通報窓口を担当するには高度な知識と適切な対応力が必要不可欠です。
社外窓口を設置するには、企業法務や企業コンプライアンスに精通した弁護士が適任といえるでしょう。
弁護士法人ALGでは企業コンプライアンスに精通した弁護士が多数在籍しておりますので、貴社の状況に合わせた柔軟な設計が可能です。
専門知識をもつ弁護士であれば、窓口対応だけでなく、コンプライアンス研修や規程の整備などワンストップで対応できます。
内部通報の社外窓口をお考えであれば、まずはお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)
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