監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
ハラスメント問題は年々深刻化しており、労働局への相談件数も増加傾向にあります。そのため、企業は今後ますますハラスメント対策を強化する必要があるでしょう。
また、万が一ハラスメントが発生した際も、適切な対応を怠ると労働トラブルにつながるため注意が必要です。
本記事では、企業で起こりやすいハラスメントの種類や具体例、適切なハラスメント対策などを詳しく解説していきます。ぜひご覧ください。
Contents
ハラスメント問題による企業リスク
ハラスメントが発生すると、企業は以下のようなリスクを負います。
- ・従業員のメンタルヘルス不調
- ・定着率の低下や離職率の増加
- ・従業員のモチベーション低下
- ・企業のイメージダウン
- ・損害賠償責任
- ・労災認定による保険料増加
このように、企業は「経済的」「社会的」「人的」にさまざまなダメージを受けるため、日頃からハラスメント対策は徹底しておくことが重要です。
企業で問題となりうる代表的なハラスメント
企業で特に発生しやすいハラスメントは、以下の3つです。
- ・パワーハラスメント(パワハラ)
- ・セクシャルハラスメント(セクハラ)
- ・マタニティハラスメント(マタハラ)
それぞれの詳細は、次項から解説します。
パワーハラスメント(パワハラ)
パワハラとは、職場での優位性を利用し、業務上必要な範囲を超えて、部下などに威圧的・高圧的な態度をとることです。
その言動によって相手労働者に身体的・精神的な苦痛を与えたり、職場環境を悪化させるようなものが、パワハラに該当します。
セクシャルハラスメント(セクハラ)
セクハラとは、相手労働者の意に反した性的な言動を行うことです。その言動によって相手労働者に不快感を与え、職場環境を害するものや、性的な言動を拒否した者に対し、降格や減給、解雇などの不利な扱いをするものが、セクハラに該当します。
なお、近年は女性だけでなく“男性”がセクハラの被害者となるケースも増えています。
また、セクハラは自社の社員だけでなく、取引先の従業員から訴えられることもあるため注意が必要です。
マタニティハラスメント(マタハラ)
マタニティハラスメントとは、妊娠や出産を理由に職場で精神的肉体的な嫌がらせを受けたり、労働条件につき不利益な取り扱いを受けることです。
また、育児に関しては、「育休を取得する男性」に対する不適切な言動(パタハラ)」も問題となりつつあります。
その他問題となるハラスメント
企業では、以下のようなハラスメントも問題になることがあります。
-
・パタニティハラスメント
男性の育児参加に対するハラスメントです。主に育児休暇の取得を申し出た男性従業員に対し、嫌がらせや降格といった不利益な措置などが行われます。
-
・モラルハラスメント
言葉や態度によって、相手を精神的に傷つけるハラスメントです。
パワハラと違い、モラハラでは上下関係は関係ありません。つまり、同僚間でもモラハラは成立しますし、部下から上司に対する嫌がらせもモラハラとなる可能性があります。
-
・ジェンダーハラスメント
従業員の性別に関するハラスメントです。性別だけを理由に仕事を固定したり、不適切な言動を繰り返したりする行為が該当します。
問題となりうるハラスメントの行為
ハラスメントとなり得る行為について、下表で具体的にご紹介します。
ハラスメントの種類 | ハラスメント行為の具体例 |
---|---|
パワーハラスメント(パワハラ) |
|
セクシュアルハラスメント(セクハラ) |
|
マタニティーハラスメント(マタハラ) |
|
パタニティハラスメント(パタハラ) |
|
モラルハラスメント(モラハラ) |
|
ジェンダーハラスメント(ジェンハラ) |
|
各種ハラスメント問題における企業の法的義務
ハラスメントに対する企業の義務は、複数の法律で義務付けられています。
-
・パワーハラスメント
「パワハラ防止法(労働施策総合推進法)」で企業の義務が定められています。
主に、パワハラの防止措置を講じること、相談者への不利益取扱いを禁止することなどが義務付けられています。 -
・セクシャルハラスメント
「男女雇用機会均等法」において、セクハラを防止するための措置を講じることが義務付けられています。
-
・マタニティハラスメント
「男女雇用機会均等法」や「育児・介護休業法」で、マタハラの防止措置を講じることが義務付けられています。
また、妊娠や出産、育児休業の取得を理由に、解雇などの不当な措置を講じることも禁止されています。
パワハラ防止法の成立と企業の取り組み
パワハラ防止法は2020年6月に施行され、すべての企業にパワハラの防止措置を講じることが義務付けられました。
当初は大企業のみを対象としていましたが、2022年4月には中小企業にも適用範囲が拡大されています。
パワハラ防止法が成立した背景には、パワハラに関する相談件数の増加などが挙げられます。
全国の労働局に寄せられる相談も、「いじめ」や「嫌がらせ」など、パワハラに関連するものが最多となっています。
この状況を改善するため、国も本格的にパワハラの法整備に取り組むこととなりました。
企業が行うべきハラスメント防止策
パワハラ防止法では、企業に以下のような対応を求めています。
- ・ハラスメント防止策の明確化・社内周知
- ・対応窓口の設置
- ・関係者のプライバシー保護・不利益取扱いの禁止
それぞれ次項で詳しく解説していきます。
ハラスメント防止策の明確化・社内周知
パワハラ防止策について企業の方針を明確化し、従業員に周知します。周知方法は、掲示板や社内報、ホームページなど、全従業員が閲覧できるものにしましょう。
また、周知内容としては、以下のようなものが挙げられます。
- ・パワハラを禁止する旨
- ・パワハラが発生する背景や原因、パワハラ事例
- ・パワハラを行った者に対する処分 など
また、社内研修や勉強会を実施することで、より従業員の理解が深まると考えられます。
対応窓口の設置
パワハラに関する相談窓口を設置し、従業員に周知します。
設置しても利用されなければ意味がないので、相談方法(対面、電話、メールなど)や担当者、守秘義務などは明確に定めることが重要です。
また、担当者が人事部や総務部の場合、相談対応についてしっかり教育しておく必要があります。
事前教育を怠ると、相談者の気分を害したり、相談内容が外部に漏れたりするおそれがあるため注意が必要です。
なお、「社内の人間には相談しづらい」という従業員のため、外部機関に相談窓口を委託するのもひとつの方法です。
委託先としては、弁護士や社会保険労務士などの専門家がおすすめです。
関係者のプライバシー保護・不利益取り扱い禁止
相談者のプライバシーを守るため、以下のような措置を講じる必要があります。
- ・プライバシー保護に必要な体制をマニュアル化し、担当者に周知すること
- ・担当者に向け、プライバシー保護に関する教育や研修を実施すること
- ・相談者のプライバシーは十分守られる旨を、社内報や掲示板、ホームページなどで周知すること
なお、保護すべきプライバシーには、相談者の性的指向や性自認、不妊治療歴なども含まれます。
企業内でハラスメントが発生した場合の対応
ハラスメント発生後の対応は、以下の2点が特に重要です。
- ・事実関係の確認
- ・加害者・被害者への対応
それぞれ詳しく解説していきます。
事実関係の確認
相談内容を踏まえ、当事者双方(被害者・行為者)にヒアリングを行います。
被害者へのヒアリングでは、質問責めにするのではなく、丁寧に話を聞き取ることを心がけましょう。
併せて、相談者が行為者にどんな対応(処分)を求めるのかも確認します。
また、相手の行為によって相談者が怪我をしていたり、精神的ダメージを抱えていたりする場合、医療機関の受診を勧めましょう。
一方、行為者へのヒアリングでは、初めから加害者扱いしないことがポイントです。
実際、行為者の言動はハラスメントではなく、「業務上必要な指導だった」とみなされるケースも少なくありません。
そのため、まずは事実をしっかり聞き取り、ハラスメントに該当するか客観的に判断することが重要です。
ハラスメントの判断基準
ハラスメントに該当するかは、以下の点を考慮して判断されるのが一般的です。
- ・言動の目的
- ・被害者側の問題行動やその程度
- ・言動が行われた経緯や状況
- ・業種や業態
- ・言動の内容や頻度、継続性
- ・被害者側の属性や健康状態
- ・行為者との関係性
ハラスメントに該当するかどうかでは、被害者がどのように感じたかも重要ですが、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」であったか否かが重要です。
被害者側にも何らかの問題がある場合や、言動が指導の一環といえる場合などには、「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」とはいえないとして、ハラスメント認定されない可能性もあります。
加害者・被害者への対応
被害者へのフォローアップ
被害者の不安を減らすため、適切な配慮が求められます。
例えば、被害者が行為者と顔を合わさずに済むよう、配置転換をする方法です。
ただし、行為者からの逆恨みも懸念されるため、配置転換後も継続的に指導・監視するようにしましょう。
また、被害者の健康状態を把握するため、定期的に産業医との面談を実施するのも良いでしょう。
加害者への処分
加害者への処分としては、以下のようなものが一般的です。
- ・上司による注意や指導
- ・相談者への謝罪
- ・配置転換
- ・懲戒処分
処分を検討する際は、相談者の希望やハラスメント行為の実態を踏まえて判断します。
また、懲戒処分については、就業規則の規定に従って行う必要があります。
安易に降格や解雇を行うと、労働トラブルを招くおそれがあるため注意しましょう。
弁護士へハラスメント問題を依頼するメリット
ハラスメントが発生すると、従業員のモチベーション低下や離職率の増加、社会的イメージの悪化などさまざまなダメージを負います。
これらのリスクを防ぐには、日頃から社内でハラスメント対策を徹底しておくことが重要です。
弁護士に依頼すれば、ハラスメント対策について有効なアドバイスを受けることができます。
また、相談窓口を弁護士に委託することも可能です。
さらに、万が一ハラスメントが発生した際も、迅速な初期対応をとることができます。被害者へのフォローアップや加害者への処分など、判断に迷う場合もお気軽にご相談いただけます。
ハラスメント対策でお悩みの方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
-
保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)
来所・zoom相談初回1時間無料
企業側人事労務に関するご相談
- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
- ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
- ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
- ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
- ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)