監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
問題社員とは、さまざまな問題行為によって企業や他の従業員に迷惑をかける者のことです。
早急に対処しないと、業務に遅れが生じたり、取り返しのつかないミスが起きたりするおそれがあるため迅速な対応が求められます。
ただし、安易に「解雇」に踏み切るのは危険です。解雇には一定の要件があるため、むやみに行えば労働トラブルの元となります。
そこで本記事では、問題社員を解雇する際の流れや注意点、解雇以外の対応方法などを詳しく解説していきます。
ぜひ参考になさってください。
Contents
問題社員が企業に及ぼす影響
問題社員を放置すると、企業は以下のような影響を受ける可能性があります。
- ・業務の効率や生産性が下がる
- ・ミスを繰り返すことで、取引先からの企業イメージが悪化する
- ・他の従業員のモチベーションを低下させる
- ・離職率の増加を招く
- ・問題社員への注意や指導に手間がかかる
- ・部署全体の業務遂行が遅れる
問題社員の類型
問題社員の類型として、以下のようなタイプが挙げられます。
- ・業務指示に従わない
「やりたくない」「面倒だ」など身勝手な理由で、業務指示を無視したり、従わなかったりすることです。
他の従業員の業務量にも影響するため、悪質といえます。 - ・勤怠が乱れがち
遅刻や早退、欠勤を繰り返すことです。
真面目に出勤している従業員の不平・不満を招くおそれがあります。 - ・協調性がない
個人の能力は高くても、周囲との関わりやコミュニケーションができないタイプです。
報告や連絡、相談も少ないため、チーム全体の作業効率が落ちる可能性があります。 - ・能力不足
仕事が遅い、同じミスを繰り返す、期限を守れない、ノルマを一向に達成できないなど、能力に問題があるタイプです。
他の従業員がカバーに回れば、部署全体の業務が滞るおそれがあります。 - ・ハラスメント行為を繰り返す
何度注意しても、セクハラやパワハラ行為を繰り返すことです。
ハラスメントは被害者本人のモチベーションを下げるだけでなく、企業の信用低下にもつながるため、早急な対応が必要です。
問題社員への対応
問題社員がいる場合、まずは「改善」を試みるのが得策です。
いきなり解雇すると、不当解雇などの労働トラブルになるおそれがあるため注意しましょう。
具体的には、以下の流れで進めましょう。
- 業務指導を徹底する
本人や他の従業員に事実確認をしたうえで、指導を行います。
指導は口頭でも構いませんが、記録や証拠を残すため“書面”で行うのがおすすめです。
また、指導では「どこが問題なのか」「どう改めれば良いのか」を具体的に伝えるようにしましょう。 - 注意書を交付する
業務指導を行っても改善がみられない場合、企業から「注意書」を交付します。
注意書とは、問題行為を本人に通知し、改善を促すための“警告文”のようなものです。
また、「改善がみられなければ解雇も検討する」旨も明記しておくと、より効果的です。 - 懲戒処分を検討する
状況が変わらない場合、懲戒処分も検討が必要です。
例えば、けん責や戒告、減給などの措置が一般的です。ただし、懲戒処分は就業規則の定めにしたがって行う必要があります。
問題社員の解雇について
解雇が認められるには、以下の条件があります。
- ・懲戒解雇について就業規則で明記されている
- ・解雇の合理性や社会的相当性が認められる
- ・適切な手続きを踏んでいる
これらの条件を満たさない場合、「不当解雇」として訴えられたり、解雇が無効になったりする可能性があるため注意が必要です。
また、解雇を決定する前に、問題社員に弁明の機会を付与することも必要です。
問題社員の雇い止め
雇い止めとは、雇用期間に定めのある従業員に対し、期間満了時に契約を更新せず、雇用を終了することをいいます。
一方的な雇止めは従業員の生活に大きな影響を与えるため、労働契約法で厳しく制限されています。
例えば、「これまで何度も契約が更新されている」「更新手続きが形骸化していた」「上司が契約更新を匂わせていた」などのケースでは、その後も当然契約が更新されるものと期待されます。
そのため、雇い止めに合理性や相当性がないと、「不当な雇止め」として無効になる可能性が高いです(労契法17条)。
問題社員については、本人に注意・指摘した記録や内容、問題行為の証拠などを揃えておくと、雇い止めが認められやすくなる可能性があります。
雇い止めが認められやすい問題行動
以下のような行動がみられる場合、雇い止めが認められる可能性があります。
- ・横領などの会社に対する犯罪行為
- ・業務命令に従わない、無視する
- ・ハラスメント行為やいじめ、嫌がらせ
- ・無断欠勤を繰り返すなどの勤怠不良
- ・著しい能力不足
ただし、これらの言動があっても直ちに雇止めが認められるわけではありません。「何度も注意や指導を行ったが、一向に改善がみられなかった」など、やむを得ない事情が求められるのが一般的です。
能力不足を理由とした解雇・雇い止め
能力不足による解雇・雇い止めは、厳しく判断される傾向にあります。一般的には、以下のような経営に支障をきたすレベルの事情が求められます。
- ・重大なミスを繰り返し、多額の損害を発生させた
- ・継続的に指導や教育を行ったが、一向に改善がみられない
- ・他の従業員の負担が増し、退職者が増えた
証拠として、「損害額がわかるデータ」や「指導の履歴」などを準備しておくことをおすすめします。
単に他の従業員よりも成績が悪い、仕事が遅い程度では、雇止めは認められない可能性が高いため注意しましょう。
企業に求められる解雇回避努力
企業は、できるだけ解雇を避けるための努力義務を負っています。
これを「解雇回避努力」といいます。
問題社員についても、いきなり解雇するのではなく、まずは以下のような代替措置を検討する必要があります。
- ・教育や研修などの改善の機会
- ・給与の減額
- ・他の部門や職種への配置転換
- ・より適正な職位への降格
- ・解雇以外の懲戒処分
- ・退職勧奨
不当な解雇・雇い止めのリスク
不当な解雇や雇い止めを行うと、従業員に訴えられたり、措置が無効になったりする可能性があります。
それに伴い、企業には以下のようなリスクが発生します。
- ・裁判の準備や証拠集めの負担
- ・従業員の復職
- ・解雇、雇い止め期間中の未払い賃金の支払い義務
- ・慰謝料の支払い義務
- ・他の解雇者による訴えの提起
- ・企業のイメージダウン
仮に従業員が復職しても、以前のような信頼関係を築くのは難しいといえます。
そのため、安易に解雇や雇い止めを決定するのは避けましょう。
不当解雇による罰則
不当解雇と認められても、企業は基本的に罰則を受けません。
というのも、解雇の制限について定めた「労働契約法」には、罰則の規定がないからです。
ただし、“慰謝料”や“解雇期間中の賃金”は請求される可能性があるため、ダメージは大きいでしょう。
なお、以下の行為は労働基準法違反にあたるため、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科せられる可能性があります。
- ・産休期間中の解雇
- ・業務災害による解雇
- ・解雇予告や解雇予告手当のない解雇
弁護士に依頼することのメリット
問題社員への対応は、弁護士に相談・依頼したうえで慎重に進めるのがポイントです。
弁護士であれば、解雇や雇い止めを避けた適切な措置についてアドバイスができます。
また、問題社員への接し方や改善の促し方など、デリケートな部分もしっかりサポートいたします。
一方的に解雇や雇い止めに踏み切ると、従業員に訴えられ、労働トラブルに発展するおそれもあります。
おひとりで判断するのではなく、まずは専門家である弁護士にご相談ください。
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