労務

会社を辞めさせたい社員がいる場合の対処法

札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈

監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士

  • 問題社員の解雇・雇い止め

会社を辞めさせたい社員がいるけれども、どのように対処したらよいかわからず、問題社員の対応に頭を抱える会社は少なくありません。
辞めさせたい理由は能力不足や無断欠勤、パワハラ、懲戒事由の発生など様々であるかと思います。

ただし、日本では解雇するには正当な理由と証拠が必要とされ、たとえ問題社員であっても安易に解雇することはできません。例えば、「先月の成績が悪かったから、今日でクビ」という対応は、今の時代では認められませんので注意が必要です。

このページでは、会社を辞めさせたい社員がいる場合の対処法や注意点について解説していきます。

社員を辞めさせるには高いハードルがある

「業務命令に従わない社員」「パワハラを繰り返す社員」など、社会一般の感覚からするとクビになって当然と思える社員であることは間違いありません。

しかし、日本には解雇権濫用法理というルールが定められており、解雇するには「客観的に合理的な理由と社会的相当性」が必要とされています(労契法16条)。つまり、問題社員であっても解雇するには一定のハードルをクリアする必要があります。

裁判例でも、大学教授がパワハラを理由に懲戒解雇された事案につき、不適切ではあるが悪質性が高いとはいえず、本人が反省していることや懲戒処分歴がないことを考慮すると、懲戒解雇は重過ぎるとして無効と判断しています(前橋地方裁判所 平成29年10月4日判決)。

このように会社に責任がないと思われる事案でも、不当解雇と判断されるおそれがあるため注意が必要です。

不当解雇と判断された場合の会社のリスク

裁判などにより不当解雇・無効と判断された場合に、会社が受けるリスクとして以下が挙げられます。

社員の復職

不当解雇・無効と判断されたということは、解雇ははじめからなかったことを意味します。
現在も会社と解雇された社員との雇用契約が続いていることになるため、社員を復職させ、給与の支払いを再開する義務があります。

バックペイの支払い

社員との雇用契約は継続していることになるため、解雇日以降の未払い給与(バックペイ)を支払う義務を負います。裁判が長期にわたるなどトラブル解決までに時間を要すれば要するほどバックペイの金額も膨らみます。

損害賠償金の支払い

不当解雇を行った場合、解雇の態様によっては、精神的苦痛を与えたとして、慰謝料などの損害賠償金の支払いが命じられる可能性があります。

解雇事由になる具体例とは?

解雇の事由になりうるケースとして、以下が挙げられます。

普通解雇(会社による一方的な解雇)

  • 私傷病により休職し、休職期間を経たが復職できる状況にない
  • 入社時に求められた専門能力がないことが判明し、改善の余地もない
  • 必要な指導や配置転換を行った後も、勤務成績が不振である
  • 他の社員と協調せず業務に重大な支障が生じ改善の見込みもない
  • 会社の正当な業務命令に従わない

懲戒解雇(社員に罰を与えるための解雇)

  • 横領など業務に関する不正行為
  • 会社の名誉を傷つける重大な犯罪行為
  • 悪質なパワハラやセクハラ
  • 重大な職歴や学歴の詐称
  • 2週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促にも応じない
  • 機密情報を漏えいした

ただし、懲戒解雇の解雇事由は就業規則に定められているものに限定されます。
解雇を検討する際は、就業規則に書かれた解雇事由の内容をチェックする必要があります。

社員に会社を辞めさせる2つの方法

問題社員を辞めさせる主な方法として、解雇と退職勧奨が挙げられます。
2つの違いは、解雇は会社から一方的に社員を辞めさせるのに対し、退職勧奨は会社が社員に退職を勧めることで自主的に辞めてもらう点にあります。

以下で詳しく確認していきましょう。

①解雇

解雇とは、社員の意思に関係なく、会社の一方的な意思により労働契約を終わらせることをいいます。
解雇はその理由に応じて、①普通解雇、②懲戒解雇、③整理解雇と3つの種類に分けられます。

普通解雇と懲戒解雇の違い

普通解雇とは、働くことができない、働きが不十分であるなど、社員が負っている労働提供の義務が果たされないことを理由に辞めさせることをいいます。

一方、懲戒解雇とは、社員が社内ルールに違反したり、反社会的な行動をとったりしたときに、罰を与えるために辞めさせることをいいます。

いずれの解雇でも、就業規則に解雇事由・懲戒事由を明記しておく必要があります。
また、いずれも「客観的に合理的な理由と社会的相当性」の検証が求められ、解雇が認められるには一定のハードルがある点で共通しています。

ただし、懲戒解雇は普通解雇以上にその有効性が厳しく判断される傾向にあります。また、懲戒解雇は転職で不利になるなど社員にとって不利益が大きいため、裁判トラブルに発展するリスクが高いです。
円満に辞めさせたいならば、普通解雇の方が適切であるといえます。

人員削減を目的とした整理解雇について

整理解雇とはいわゆるリストラのことです。
部門縮小や閉鎖など経営上の必要性により余剰社員を解雇することをいいます。社員に非がない状況での解雇であるため、他の解雇よりも要件が厳しく定められています。

以下の4要件をすべて満たして初めて、整理解雇が有効と認められます。

  • ①人員整理の必要性
  • ②解雇回避努力義務の履行(役員の報酬の引き下げ、人件費以外の経費の抑制、新規採用の中止、派遣社員やパートの削減、希望退職募集、配置転換など)
  • ③人選の合理性 (勤務成績など正当な基準で解雇対象者を選んだこと)
  • ④手続きの妥当性(解雇対象者や労働組合と十分に協議を行ったこと)

整理解雇を避けるための経営努力なしに解雇はできません。
役員の報酬を引き下げたり、新規採用を中止したりするなど、解雇回避のために最大限努力を尽くしたかどうかが問われます。

②退職勧奨

退職勧奨とは、文字どおり会社が社員に対して辞めるよう勧めることをいいます。
社員が退職に合意すれば、退職届を提出させて辞めさせることが可能です。

退職勧奨は一方的に辞めさせる解雇と異なり、社員が同意のうえで自主的に退職します。
そのため、解雇が裁判で争われた場合のリスクや負担を回避できるという点でメリットがあります。

また、退職勧奨は解雇のように法律上のルールが定められていないため、比較的自由に行えます。

例えば、解雇では就業規則の定めや解雇予告等が必要ですが、退職勧奨ではこのような制限はありません。また、会社と社員がお互いに納得すれば、退職の条件について自由に決めることも可能です。
円満に辞めてもらうために一定の解決金を支払う企業も多いようです。

解雇の前に退職勧奨をするのが基本

会社を辞めさせたい社員がいる場合は、いきなり解雇するのではなく、まずは退職勧奨を行って自主的に辞めてもらうことを目指すのが基本です。

退職勧奨をしても社員と合意できないときに初めて、解雇を検討するのが望ましいでしょう。
これは安易に解雇すると社員側から不当解雇であるとして訴えられ、労働審判や裁判トラブルにつながるおそれがあるためです。

また、退職勧奨では、解雇事由がないなど、過去の裁判例から解雇が有効にならないようなケースであっても、退職してもらうことが可能であるというメリットがあります。

退職勧奨せずに解雇できるケースもある

まずは退職勧奨により自主的に辞めてもらうことを試みるべきですが、以下のようなケースでは、正当な解雇であると認められる可能性が高いため、退職勧奨せずに解雇を検討しても支障はないと考えられます。

  • 2週間以上無断欠勤を続けていて、本人と連絡がつかず行方不明である場合
  • 就業規則に定めた休職期間満了後も、復帰できる状況にない場合
  • 横領など業務に関する不正行為を行い、証拠も十分にそろっている場合

退職勧奨が違法になることもあるため注意

退職勧奨において、長時間にわたり大人数で辞めるよう説得したり、侮辱的な発言をしたり、「退職に同意しなければ解雇する」など不利益をほのめかす発言をしたりした場合は、退職強要として違法となる可能性があります。

裁判所が違法な退職勧奨であると判断すると、退職自体が無効となり、バックペイや慰謝料を請求されるリスクがあるためご注意ください。

裁判例でも、約4ヶ月間にわたり退職勧奨が行われ、社員が辞めるつもりはないと明確に拒んだにもかかわらず上司がさらに強く退職を勧めて、社員を侮辱する発言や退職以外に選択肢はないなどの発言をしていた事案につき、違法な退職強要にあたるとして、会社と上司に慰謝料を支払うよう命じています(横浜地方裁判所 令和2年3月24日判決)。

社員を辞めさせる際に考慮すべきこと・注意点

社員を解雇する場合、正当な解雇であると認められるためには、一定の要件を満たす必要があります。
解雇の要件のうち、特に重要なものを以下で確認していきましょう。

就業規則には解雇事由の規定が必要

解雇事由は、就業規則の絶対的必要記載事項に当たります(労基法89条3項)。そのため、就業規則に必ず解雇事由を明記しなければなりません。

特に懲戒解雇を選択する場合は、就業規則に明記した解雇事由に当たるケース以外では解雇できません。
また、普通解雇を選択する場合であっても、裁判例の中には、就業規則に定めた解雇事由に当たるケース以外は認められないと判断しているものがあります。

そのため、社員を解雇する前に、解雇しようとしている理由が就業規則の解雇事由に当たるかどうか、その内容が社員にも周知されているか、チェックすることが大切です。

問題社員がいる場合は改善を促す対応をとる

解雇は正当な理由がない限り、認められません。
これは普通解雇、懲戒解雇いずれであっても同じです。

特に解雇の正当性については、「解雇する前に十分に改善のチャンスを与えたか」、「これ以上改善の見込みがないといえるか」という視点から厳しく調査されます。裁判例でも、注意や指導が不十分であったとして、不当解雇と判断される会社が多く見受けられます。

そのため、問題社員の解雇を検討する場合は、必ず社員に注意・指導し、改善を促す対応をとることが必要です。本人に問題点を伝えて、どのように改善すべきか具体的に指導するとともに、業務内容の変更や配置転換も行って適性を見てみるなどの対応が求められます。

いきなり解雇ではなく軽い内容の懲戒処分から科す

懲戒処分にも法律上の禁止事項があり、問題行動の内容と比べて処分が重すぎてはならないというルールが定められています(労契法15条)。そのため、いきなり解雇するのではなく、まずは戒告など軽い内容の懲戒処分から科すことが必要です。

裁判例でも、会社が社員旅行の宴会でのセクハラを理由に管理職を懲戒解雇した事案につき、セクハラは悪質であるが、何ら指導や処分を行わず懲戒解雇を直ちに選択したのは重すぎるとして、懲戒解雇は無効であると判示しているため注意が必要です(東京地方裁判所 平成21年4月24日判決)。

解雇予告や解雇予告手当の支払いを怠らない

問題社員であっても、解雇する場合は基本的に30日前までに解雇予告を行う必要があります。
また、解雇予告を行わずに即日解雇する場合は、30日分以上の給与(解雇予告手当)の支払が必要です(労基法20条1項本文)。

例外として、「労働者の責に帰すべき事由」に基づいて解雇する場合には解雇予告は不要となりますが(同法ただし書)、懲戒解雇であってもこれにあてはまるとは限りません。

即日解雇されたとしてもやむを得ないほど問題行為が悪質であり、このまま働かせると会社運営に支障を与えるほどの事情がある場合に限られると解釈されています。

例えば、職場内において横領や窃盗、傷害などの犯罪行為を行った場合や、正当な理由もなく無断欠勤しかつ出勤の督促にも応じないような場合があたります。

解雇の有効性が問われた裁判例

ここで、解雇の有効性が問われた裁判例をご紹介します。

事件の概要

ポンプメーカーであるY社は、システムエンジニアとして約27年間の社会人経験のあるXを経営企画室係長として中途採用したところ、試用期間中の部下に対する威圧的な言動や、取引先への不適切な対応によりトラブルを起こしたこと、協調性がないこと、能力不足などの理由から、試用期間満了の2週間前にXを普通解雇しました。
これを不服としたXが解雇は無効であるとして、Y社を提訴した事案です。

裁判所の判断(平29(ワ)42659号 東京地方裁判所 令和元年9月18日判決)

裁判所は、上司から改善指導がなされていたとともに、約27年の社会人経験から改善の必要性につき十分に理解し得たのであるから、あらためて解雇の可能性にふれて警告する必要があったともいえないなどの事情を考慮し、試用期間の満了までの2週間の指導によっても、Xの勤務態度などについて容易に改善が見込めないと判断し、試用期間満了時までXへの指導を続けず、Xには管理職としての資質がなく、社員として不適当であるとして本採用拒否(普通解雇)したことは有効であると判示しました。

ポイント・解説

裁判所は、社会人経験が長いことを念頭において、会社側が十分な改善指導をしなくとも、社員には改善の必要性について理解し得たという事情があるため、試用期間満了前の普通解雇が有効と判断したものと考えられます。

本件のように経験者採用の社員については、職務経験を買われて即戦力として雇用されることが多いです。そのため、期待された能力に欠けることが発覚した場合は、会社が事細かに改善指導をせずとも、未経験採用の社員よりも解雇が認められやすいと判断されます。

ただし、不合理な人事評価により解雇した場合は不当解雇にあたるためご注意ください。

会社を辞めさせたい社員の対応について弁護士がアドバイスいたします。

問題社員に対する注意・指導や退職勧奨がうまくいかない場合には、解雇も視野に入ってきます。

しかし、問題社員であっても労働法の保護を受けるため、正当に解雇するには高いハードルを突破する必要があります。このハードルを超えるには、十分な準備と証拠の確保が必要です。

もっとも、どのような手順を踏めば解雇が有効とされるかはケースごとに異なり、労働法や裁判例、実務上の知識がなければ、解雇の正当性を判断することは困難です。

不当解雇のリスクをおさえて問題社員を辞めさせたい場合は、企業側の労働法務に詳しい弁護士法人ALGにぜひご相談ください。

札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈
監修:弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長
保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)
札幌弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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