
監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
働き方改革以降、勤務スタイルは多様化が進み、働き方をデザインすることは優秀な人材を確保する上で非常に有効な手段となりました。なかでも、子育て世帯に適しているといわれるフレックスタイム制は労働者主体で働く時間を設計できるため、注目が集まっています。
また、育児介護休業法において令和7年10月1日から施行される予定の改正では、柔軟な働き方を実現するための措置が義務化されるため、今後益々フレックスタイム導入の必要性は高まってくるでしょう。
本稿ではフレックスタイム導入における留意点について解説していきますので、導入時のチェックリストとしてお役立て下さい。
Contents
フレックスタイム制を導入する上で留意すべき事とは?
フレックスタイム制を導入することで、従業員のワークライフバランス実現や体調管理、人材定着の向上といったメリットが期待される一方、デメリットもあることを意識しておくことが大切です。
フレックスタイム制は制度が複雑であるため、理解が不十分な場合には、管理面に問題が起こり得ます。
特に、勤怠管理が複雑化する傾向にありますが、これは残業代の未払いなどにも繋がるため、会社は正しい管理を徹底する必要があります。状況によってはシステムの導入も検討するべきでしょう。
また、フレックスタイム制を導入する場合、個人によって出勤時間が異なるため、社内外とのコミュニケーションに支障が出るおそれもあります。
円滑に情報共有等を行うにはどのような対策が必要なのか、導入前に労使で協議しておくとよいでしょう。また、フレックスタイム制を導入するには法的要件を満たす必要があります。
フレックスタイム制を導入するための要件
フレックスタイムは、一定の定めた総労働時間の範囲内で、従業員の判断によって始業・終業時刻を設定し、勤務する制度です。導入にあたっては2つの法的要件をクリアする必要があります。
まず、始業・終業時刻は就業規則の絶対的記載事項であるため、フレックスタイム導入時には、従業員の判断に委ねる旨を就業規則へ規定しなければなりません。もし、コアタイム(労働しなければならない時間帯)を定める場合には、その点も規定するようにしましょう。
また、フレックスタイム制の基本的枠組みを労使協定にまとめ、締結することも要件の1つです。
ただし、フレックスタイムの清算期間が1ヶ月以内の場合には、労使協定を労働基準監督署へ届け出る必要はありません。
労使協定を締結する際の留意点
フレックスタイム制の基本的な枠組みを労使協定に定めることで、制度の導入が可能となります。労使協定に定めるべき内容は確実に把握しておきましょう。
労使協定を締結する際の留意点について、以降で詳しく解説していきます。
労使協定で定めるべき事項とは?
労使協定で定めるべきとされる事項は、以下の6点です。
一部の任意項目については、必要に応じて定めておきましょう。
- ①対象となる労働者の範囲
- ②清算期間
- ③清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)
- ④標準となる1日の労働時間
- ⑤コアタイム(任意)
- ⑥フレキシブルタイム(任意)
個人・部署単位の導入にも労使協定は必要か?
フレックスタイム制は企業単位の導入だけでなく、各人ごと、部署ごと等、様々な範囲で設定することができます。対象とする範囲の指定は、労使で十分協議した上で設定しましょう。
個人・部署単位の導入であっても労使協定は必要です。
部署単位で設定するのであれば、上記の定める事項①を「企画部職員」等と記載することで足ります。
もし、個人単位で導入するのであれば、「Aさん、Bさん、Cさん」等、個人を特定できる形式で記載するようにしましょう。
届出を怠った場合は罰金を科せられる
フレックスタイム制の清算期間は、法律で上限を3ヶ月と定められています。清算期間の長さは会社の実態に応じて上限内で設定することが可能です。
清算期間を1ヶ月超とした場合には、労使協定届を労働基準監督署に届け出ることが必須となります。
もし、届出を怠った場合には罰則として30万円以下の罰金が科される可能性がありますので注意しましょう。なお、清算期間が1ヶ月以内の場合には、労働基準監督署への届出は不要です。
就業規則に規定する際の留意点
フレックスタイム導入要件として、就業規則に「始業・終業時刻の決定を労働者に委ねる」ことを定めておく必要があります。コアタイムやフレキシブルタイムを設定する場合には、労働時間にかかわる事項ですので、この点も就業規則に規定するようにしましょう。
また、フレックスタイムを実際に運用すると、想定とは反対に、業務への集中力の逓減や生産性の低下が発生することも十分考えられます。
そのような従業員はフレックスタイム制の適用を除外する必要も出てくるでしょう。
不測の事態に備えて、フレックスタイムの適用解除についても就業規則に定めておくと安心です。
労働者への周知により就業規則の効力が発生する
就業規則を新たに作成する、もしくは改定するには、労働者への周知が必要です。
就業規則には、その事業場で勤務する従業員へルールを適用させる法的拘束力がありますが、この法的拘束力は就業規則があれば、もしくは届出すれば発生するわけではありません。
就業規則が法的拘束力をもつ要件は、従業員への規則の周知です。
就業規則の作成、もしくは改定時には必ず従業員への周知を徹底するようにしましょう。周知を行わなかったことで、就業規則の効力が否定された裁判例もありますので、手続きは厳密に行う必要があります。
フレックスタイム制の導入を円滑に進めるには
フレックスタイム制は、従業員自らの意思で勤務時間を決定できるため、効率的な働き方の実現や労働時間の短縮が期待できるとして法整備が為されてきました。
しかし、従業員の自主性を問う制度でもあるため、すべての従業員に適した制度であるかは見極めが必要となります。
フレックスタイム制を有用な制度として円滑に進めるには、以下のようなポイントに注意しながら進めるとよいでしょう。
- 適用する職務・対象者を見極める
- 労働者が制度を理解することが肝心
- 想定されるリスクへの対策を講じる
以降で詳しく解説していきます。
適用する職務・対象者を見極める
フレックスタイム制は、残念ながらすべての職務に有用とはいえません。
Web系エンジニアやクリエイティブ系の職種であれば、業務量と締切りを設定することでフレックスタイム制を円滑に運用することが可能でしょう。
しかし、実店舗での接客業や製造ライン等の職務では、一定の時間帯に一定の人員を確保することが必須となるため、適用は難しいといえます。
また、フレックスタイム制の下では、従業員が自ら労働時間を決定するため、従業員が業務に対して自主性をもって取り組めるといったスキルを有していることが必要となります。
フレックスタイムを有用な制度として運用するには、適用範囲の職務や対象者を慎重に見極めることが肝要です。
労働者が制度を理解することが肝心
フレックスタイム制は少しずつ一般社会に浸透しつつありますが、その制度の詳細まで理解している労働者は少ないでしょう。導入にあたっては対象となる従業員に説明会などを開き、しっかりと制度の主趣旨と仕組みを理解してもらうことが大切です。
制度を理解せずに導入すれば、労働時間を好きに決められるといったイメージだけが先行し、業務に対する秩序が乱れてしまうおそれもあります。ワークライフバランスを実現させるためにも、制度を適切且つ有効に活用してもらえるよう、資料等を用いて理解を促すように努めましょう。
想定されるリスクへの対策を講じる
フレックスタイム制は大きなメリットが多数ある一方で、その制度の複雑さや適正の有無によって生じるリスクもあります。
状況によってリスクの大小は異なりますが、一般的には、勤怠管理が正しく行えない、生産性が低下する、生活リズムの乱れや長時間労働による健康への影響などが考えられます。
特に勤怠管理の不足は未払い賃金問題に直結し得ます。従業員の働き方向上のための制度導入がトラブルに繋がらないよう、勤怠管理は徹底しましょう。
フレックスタイム制に対応したシステムの導入も正しい勤怠を記録するのに有効な手段の1つです。
フレックスタイム制を運用する上での留意点
フレックスタイム制は労働時間の決定を従業員に委ねる制度ですが、会社の労働時間管理が免除されるわけではありません。制度の対象従業員であっても、実労働時間を把握し、適切な管理を行う必要がありますので、引き続き時間外労働の上限規制に違反していないか等を徹底する必要があります。
また、総労働時間を超過した場合の残業代支払いはもちろん、総労働時間が不足している場合の対応についても取り決めをしておくべきです。
給与計算等を内省化内製化している場合には、割増賃金の計算方法や実務上の対応方法などについて、専門家の研修等を設けておくとトラブル防止に繋がります。
フレックスタイム制の導入で不安があれば一度ご相談下さい。弁護士が最善の方法をアドバイスいたします。
フレックスタイム制の採用には、人材の獲得と定着、さらには労働意欲の向上や企業イメージのアップなど様々な利点があります。
ただし、フレックスタイム制を正しく運用するには、導入時の設計が非常に重要です。
導入後の運用まで考慮して設計する必要がありますので、専門家のアドバイスを踏まえて検討すべきでしょう。従業員の働き方にかかわる制度ですし、従業員へ一度与えたメリットを奪うことは困難になる場合もあるので、導入後に変更を繰り返すのは避けたいところです。
制度の導入に不安があれば、労務に詳しい弁護士へご相談ください。
弁護士法人ALGでは、労務に特化した部署を設け、日々、様々な労務問題に取り組む専門性の高い弁護士が在籍しております。
フレックスタイム制の設計、導入から運用までワンストップでサポートしておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。
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