労務

副業禁止なのに副業している従業員への対応と注意点

札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈

監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士

平成30年に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が公表され、それに伴いモデル就業規則も改定されました。

この流れを受けて、副業・兼業は原則として認める方向になりつつありますが、認めることが義務とまではされていません。
副業・兼業はその内容によっては会社の業務に支障をもたらすおそれもあります。

また、安全配慮義務の面から従業員の健康を損なうおそれがないか、労働時間を通算して把握する必要もあり、会社としては諸手を挙げて歓迎するわけにはいかない事情があるでしょう。

では、副業を禁止とした場合、それでも副業を行う従業員に対して、会社はどのような措置が可能となるでしょうか。
本稿では、副業を禁止しても副業を行う従業員に対しての対応と注意点について解説していきます。

従業員の副業禁止は法的に問題ないのか?

副業は、公務員については禁止と定められていますが、それ以外の労働基準法やその他の法令においては、禁止するとも、労働者の自由であるとも定められていません。

なぜなら、副業は原則として会社の業務時間とは離れた、個人の私生活上の領域で行われるものですので、本来は個人の裁量の範囲と考えられるからです。

ただし、副業の内容等によっては、就業時間の労働生産性が著しく低下する等の懸念もあるため、会社が副業を禁止することには合理性があります。
ただし、法律に定めがない以上、会社のルールとして就業規則に定める必要があります。

就業規則における副業禁止規定の有効性

会社として副業を禁止する場合、就業規則へ副業禁止規定を定め、その内容を従業員へ周知することで、社内ルールとして法的拘束力を発することになります。

つまり、副業禁止規定がない、もしくはその規則を周知していないといった不備がある状態では、副業禁止のルールを従業員へ適用させることは難しくなります。
また、副業を全面禁止と規定すると、従業員からの反発が考えられるほか、公序良俗違反等に抵触する可能性もあります。

会社として禁止することに合理性がある範囲内で禁止規定とするべきでしょう。
ガイドラインでは、制限が許される例として、以下のようなポイントを挙げています。


  • ①労務提供上の支障がある場合
  • ②業務上の秘密が漏洩する場合
  • ③競業により自社の利益が害される場合
  • ④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

従業員が副業禁止に違反している場合はどう対応すべきか?

副業禁止を社内のルールとして適切に運用しているにもかかわらず、副業を行っている場合には違反行為にあたります。

違反行為を放置することは、ルールの形骸化に繋がるため、組織として毅然とした対応が求められるでしょう。副業禁止違反への対応について、以下で詳しく解説します。

副業禁止違反時の対応方法・流れ

副業禁止に違反していることが判明したら、まずはその事実確認を行いましょう。

どのような指導や処罰を行うにせよ、事実無根の可能性もありますので、憶測で対処することは許されません。本人へのヒアリングはもちろん、客観的な証拠の有無についても確認しておくとよいでしょう。

副業の内容について詳しく確認し、副業禁止への違反はもちろん、競業避止義務への違反や、会社への損害が発生していないかなどを把握する必要があります。
事実関係を調査した上で、会社としてとるべき対応を検討することが大切です。

副業している従業員を懲戒処分にできる?

副業禁止が就業規則に規定され、かつ懲戒処分規定の懲戒事由に該当すれば処分の対象となり得ます。
もし副業禁止の規定がなかったとしても、上述の競業避止義務に違反する副業であったり、営業秘密の漏洩などが確認できたりした場合には、その点について懲戒処分を行うことができるでしょう。

ただし、懲戒処分には、その処分内容と対象となる行為の重さにバランスがとれていることが必要です。
懲戒処分を検討する前に、まずは、副業している従業員に対してヒアリングをし、注意・指導を行うようにしましょう。

副業で懲戒処分が認められるケース

副業の事実が確認できたとしても、ただちに懲戒解雇を行うことは避けるべきです。
懲戒処分は、事実の程度を踏まえ、客観的に合理的といえる処分内容でなければなりません。

1回の副業で懲戒解雇とすることは、社会一般の価値観からみて、重すぎる処分として不当と判断されるおそれがあるでしょう。問題行動と処分内容の重さのバランスは慎重に判断すべきです。
懲戒解雇ほど重い処分でなかったとしても、1回の違反行為で即懲戒処分というのは、早計であり、不当と判断されるケースもあります。

副業禁止への違反事実があり、注意・指導を重ねても改善されない場合であれば、懲戒処分を行うといったプロセスであれば、客観的にみても合理性があるといえるでしょう。
注意や指導の内容や頻度については、客観的資料として開示できるよう記録に残しておきましょう。

懲戒解雇が「不当解雇」とみなされる場合もあるため注意!

懲戒解雇は、会社の規律を保つために問題行動に対して行う最も重い制裁です。従業員にとっては不利益が大きいため、トラブルに発展しやすい処罰ともいえるでしょう。

紛争化した場合には、不当解雇とみなされ、処分が無効になるケースもあります。
その場合には、処分以降の賃金支払いなどの金銭的負担も発生してしまいます。懲戒処分が不当処分とならないために、懲戒処分は比較的軽い処分から行うようにしましょう。

改善されない場合は、順に処分内容を重くしていくといった流れであれば、社会通念上も相当といえるでしょう。また、副業の内容やそれによる被害の重さと比較して処分内容を決める必要もあります。
どのような処分を行うべきか迷う場合には、弁護士へ相談した上で実施しましょう。

副業に関する労使トラブルを防止するための対策

副業・兼業は少しずつ浸透してきた制度ではありますが、まだまだ適切な対応については不明点が多いことでしょう。

副業に関する労使トラブルを防止するには、対策を講じることが大切です。
トラブルを未然に防止する対策例をご紹介します。

就業規則の整備と周知

副業は法令で禁止されているわけではありませんので、会社のルールとして周知と整備を行う必要があります。

まずは、就業規則へ副業に関する規定を定めましょう。その際、全面禁止ではなく、競業となる業種について制限するなど、従業員の理解が得られるような合理性のある内容にするとよいでしょう。
また、副業は従業員の長時間労働に繋がりやすいため、労働時間の把握を目的として、副業先の労働時間の報告義務なども盛り込んでおくと、実務上の対応もスムーズになります。

また、就業規則に規定するだけではルールとしての拘束力は得られません。
規定した就業規則は必ず従業員へ周知するようにしましょう。

解雇ではなく退職勧奨を行う

もし、副業についてどれだけ注意・指導を行っても継続し、懲戒処分によっても改善が見込まれない従業員がいれば、解雇についても検討することになるでしょう。

しかし、解雇はトラブルに発展しやすいため、合意退職を目指す方がリスクを軽減できます。
実務上は、リスクを減らすため、解雇を検討していたとしても、まずは退職勧奨を行うことが有用な手段といえます。

退職勧奨であれば、退職条件等について対象従業員も希望を述べることができるため、納得の上で退職してもらえる可能性が高まります。
トラブルを未然に防ぐためにも、解雇の前に退職勧奨の検討は必ず行いましょう。

副業を解禁することも検討する

新型コロナウイルスの感染拡大以後、労働者の就労観は大きく変化し、副業解禁の流れは加速しています。

大企業では副業人材の活用も活発化し、優秀な人材を確保する一手ともなってきました。
副業を禁止することで、自社への専属性は高まりますが、副業を希望する優秀な人材の獲得機会を逃しているともいえます。同業他社が副業を解禁する動きが高まれば、その傾向は益々高くなるでしょう。

いずれは法改正等によって副業を解禁せざるを得ない状況になる可能性も無いとはいえません。
会社の事情を踏まえて副業解禁を検討することは、新たな人材戦略に繋がる一歩となることでしょう。

ただし、導入の際には、規定の整備や労働時間通算の管理モデルなど、制度への正しい理解が必要となりますので、不明点があれば弁護士へ相談することをおすすめします。

副業禁止と懲戒処分に関する裁判例

副業禁止は多くの会社で行われています。
しかし、経済的な理由などから副業を行う従業員もいるでしょう。

そのような従業員に対し、懲戒処分を行うケースもあります。
副業禁止と懲戒処分に関する裁判例として、マンナ運輸事件をご紹介します。

事件の概要

Xは、貨物運送業を営むY社で大型貨物自動車の運転手として勤務していました。
しかし、担当コースの変更や、完全週休2日制の導入によって給与の手取りが減り、Xは他社で構内作業のアルバイトを行うことにしました。

無許可のアルバイトを知ったY社は、Xと面談し、無許可の副業・兼業は就業規則に違反する旨を伝え、減給処分としました。
しかし、その後もXがアルバイト就労を継続したため、Y社は再度面談し、出勤停止処分を行いました。

Xは、Y社に対して4度アルバイト就労の許可を申請しましたが、長時間労働を避けるため、過労による交通事故のおそれをふまえて等の理由から、Y社はすべて不許可としていました。

裁判所の判断(平成21年(ワ)5151号・平成24年7月13日・京都地方裁判所・第一審)

Y社には、就業規則において兼業を禁止する規定が設けられており、この規定は準社員であったXにも効力が及ぶと、裁判所は判断しました。

その上で、Xの4度のアルバイト申請を不許可としたY社の言い分につき、前2回については、休息時間の確保や長時間労働回避といった合理性があると認定しました。

しかし、後2回については当時のXの実労働時間数が兼業の許可基準を下回っていたことから、不許可はXのアルバイト就労を不当に妨げる不法行為と判示しました。

ポイント・解説

本事案において裁判所は、勤務時間外は労働者が自由に利用することのできるものであり、他社での就労を原則として許すべきとしています。
ただし、その副業・兼業によって労務提供が不能または不完全になる、また企業秘密が漏洩するなど経営秩序を乱すような場合においては、例外的に就業規則で禁止することが許されると判示しています。

副業・兼業の内容が経営に影響を及ぼすか否かについて判断することは会社にとって必要なプロセスであるといえますので、副業・兼業を事前申請による許可制とすることは問題無いとされています。
ただし、無許可での副業・兼業であれば、どのような懲戒処分も有効となるわけではありません。

副業・兼業に関する懲戒処分は、副業に許可を出すかどうかの判断が適切に行われていることを前提とし。①就業規則に規定があるにもかかわらず無許可で行っている、②企業秩序への悪影響もしくは労務提供への支障が発生している、の2点を踏まえて、その処分の重さを検討する必要があります。

副業に関する従業員対応でお困りの際は弁護士までご相談下さい。

副業の促進は柔軟かつ多様な働き方の第一歩とされていますが、まだまだ副業の活用と並行して本業の誠実労働を実現させることは容易とはいえません。
これは、法的整備だけでなく当事者の意識が十分でないといった問題もあります。

副業の規定に違反した従業員への対応にお困りの場合は、弁護士へご相談下さい。
弁護士法人ALGでは、副業にまつわる社内整備からトラブルまでトータルサポートを実現できる、労務に精通した弁護士が多数在籍しております。

副業の禁止、もしくは副業の解禁など、少しでも不安や疑問があれば、まずはお気軽にお問い合わせください。

札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈
監修:弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長
保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)
札幌弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

来所・zoom相談初回1時間無料

企業側人事労務に関するご相談

  • ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
  • ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
  • ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
  • ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
  • ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)

顧問契約をご検討されている方は弁護士法人ALGにお任せください

※会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません

ご相談受付ダイヤル

0120-406-029

※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。

メール相談受付

会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません