
監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
令和4年4月に大きく改正された育児・介護休業法。この改正で、会社は様々な規程整備、運用体制の見直しが必要となりました。育児休業や介護休業へスムーズな対応を行うことは、昨今の人手不足問題に対して有効な手段となります。
育児介護休業制度が整っている会社は、求職者にとって魅力を感じるポイントとなりますので、採用戦略の1つとして捉えてもよいでしょう。法改正の内容は非常に複雑となっており、改定条文を見るだけでは内容を理解することは困難といえます。
本稿では、改正内容のポイントや企業が行うべき対応について詳しく解説していきますので、社内整備にお役立てください。
Contents
令和4年4月より施行される「育児・介護休業法改正」で何が変わる?
令和4年の改正では、育児休業に関する内容が大きく変更となりました。対象者の拡大や、新たな育児休業制度が創設されています。また、従来の育児休業制度についても変更がありました。
まずは、育児・介護休業法の全体像から確認していきます。
育児・介護休業法とはどんな法律?
育児・介護休業法とは、育児や介護によって仕事を継続することが困難となった従業員に対し、休業期間を設けることで、仕事と家庭の両立を目指すための法律です。
両立が前提となりますので、休業後は仕事へ復帰することが原則となっています。また、女性のための法律と考えられがちですが、育児・介護休業法は男女共に対象となっておりますので、男性従業員であっても、要件を満たしていれば、育児休業・介護休業いずれも取得可能となっています。
育児・介護休業法が改正された目的は?
育児・介護休業法は男性も対象とした法律です。しかし、女性の育児休業取得率に対し、男性の育児休業取得率は年々上昇しているものの、低水準で推移しています。
また、共働き家庭の増加や少子高齢化が急速に進行している社会情勢も踏まえ、育児・介護等による労働者の離職を防ぐことは喫緊の課題となりました。今回の改正は、男女ともに仕事と育児等を両立できる社会の実現を目的としています。
そのため、職場での休業取得に関する環境整備だけでなく、男性の育児休業取得促進のための育児休業制度が新たに創設されるなど、法律が大幅に改正されることとなりました。企業にとっても、この法改正に適切に対応することで、従業員のライフステージの変化による離職を防止する社内体制が整備できることになります。
育児・介護休業法の改正内容とポイント(令和4年4月・10月施行)
育児・介護休業法は令和4年4月と10月の2段階で改正が行われました。主な改正点は以下の4つとなります。
- 雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化
- 有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
- 出生時育児休業の創設
- 育児休業の分割取得
それぞれの内容について以降で詳しく解説していきます。
①雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化(令和4年4月施行)
育児休業を取得しやすい職場環境の整備として、会社は以下のいずれかの措置を講じることが義務づけられました。
- ①育児休業・出生時育児休業(産後パパ育児休業)に関する研修の実施
- ②育児休業・出生時育児休業(産後パパ育児休業)に関する相談窓口の設置
- ③自社の労働者の育児休業・出生時育児休業(産後パパ育児休業)取得事例の収集・提供
- ④自社の労働者へ育児休業・出生時育児休業(産後パパ育児休業)制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
上記の措置は、少なくとも1つは実施するよう義務化されていますが、複数の措置を講じることが望ましいとされています。
また、従業員本人もしくは配偶者の妊娠出産等を、従業員が申し出た場合には、会社は育児に関する制度内容を説明(個別の周知)し、育児休業等を取得するかどうかの意向確認を行うことが義務となりました。
②有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(令和4年4月施行)
有期雇用の労働者に関しては、改正前は
- ①引き続き雇用された期間が1年以上である者
- ②1歳6ヶ月までの間に契約が満了することが明らかでない者
を取得要件としていましたが、法改正によって、①の要件が撤廃となり、取得要件が緩和されました。なお、この取得要件の緩和は介護休業も含まれますので、介護休業の対象要件は改正後、以下の要件のみになります。
「介護休業開始予定日から起算して、93日経過日から6ヶ月を経過する日までに契約が満了することが明らかでない者」なお、①の要件については法改正後に新たに労使協定を締結することにより、引き続き取得要件とすることが可能です。
③出生時育児休業の創設(令和4年10月施行)
出生時育児休業は通称、産後パパ育児休業とよばれます。制度上は男性だけが対象というわけではなく、養子等の場合は女性であっても取得可能です。出生時育児休業は通常の育児休業とは別に取得できますが、期間が限定されています。対象期間は、出生後8週間以内の4週間(28日)となっています。出生時育児休業は、上限である4週間までの範囲内であれば、分割して2回に分けて取得することができます。
出生時育児休業は男性の育児休業取得促進を目的として、男性育児休業のニーズが高い、出生直後の時期に限定して設けられた制度です。休むことによる業務への支障が気になる男性従業員に、まずは短期での休業を促すといった意味合いもあります。そのため、出生時育児休業は労使協定を締結している場合に限り、従業員が合意した範囲で休業中に就業することが可能となっています(上限あり)。
④育児休業の分割取得(令和4年10月施行)
従来の育児休業は子が一歳に達するまで取得できる、1回限りの休業でした。今回の法改正では、1歳までの育児休業を分割して2回取得することが可能となりました。また、出生時育児休業とは別で取得できますので、出生時育児休業と組み合わせると1歳までに4回休業を取得することができます。
さらに、1歳以降の育児休業延長期間についても、期間途中に夫婦が交代して取得することが可能となりました。分割取得が可能となったことで、夫婦が共に主体的に育児を行うことができる制度となっています。育児休業等の分割取得は、仕事と家庭を両立させるためには非常によい制度ですが、会社側の管理負担は従来に比べて大きくなっています。
出産・育児の対象となる従業員に早い段階でコンタクトをとり、事前面談で休業時期の予定を把握するなど、スムーズな社内体制を整えるようにしましょう。
法改正への対応を怠った場合のペナルティは?
育児・介護休業法自体に罰則規定は設けられていません。だからといって、法改正へ対応しなくてもペナルティが発生しないわけではありません。法改正への対応を怠ったり、改正による育児休業取得を拒否するなどがあれば、労働局から助言・指導・勧告を受ける可能性があります。
また、勧告等を受けたにもかかわらず、改善しない場合には、企業名が公表され、さらに報告を怠るもしくは虚偽の報告を行った場合には20万円の過料が科されるおそれがあります。これらのペナルティは金銭的負担というよりも、企業イメージの低下や、社会的信用の損失といった面での影響が大きいでしょう。
育児休業制度に前向きでない会社というイメージは人材確保に大きなダメージとなるおそれがあります。法改正への対応は容易ではありませんが、専門家のアドバイスも受けながら適切に行うようにしましょう。
育児・介護休業法改正に向けて企業がとるべき対応
法改正を踏まえて、企業が対応すべきポイントは以下の通りです。
- ①妊娠・出産を申し出た労働者への個別周知と意向確認
- ②就業規則の変更・周知
- ③必要に応じて労使協定の締結
以降で、順を追って解説していきます。
妊娠・出産を申し出た労働者への個別周知と意向確認
個別周知や意向確認では、どのような対応が求められるでしょうか。
どのような制度を活用できるのか従業員が分からず、育児休業等が取得できていないといったケースも、特に男性の場合は少なくありません。法改正では、対象者に対して会社が適切な制度説明を行うこと等を義務としています。
以降で具体的な対応内容について確認していきましょう。
個別の周知事項とは?
従業員本人もしくは配偶者の妊娠出産等を、従業員が申し出た場合、会社は個別周知を行わなければなりません。個別の周知事項とは以下の内容になります。
- ①育児休業・出生時育児休業(産後パパ育児休業)に関する制度
- ②育児休業・出生時育児休業(産後パパ育児休業)の申出先
- ③育児休業給付に関すること
- ④育児休業・出生時育児休業(産後パパ育児休業)期間に負担すべき社会保険料の取扱い
上記4点について、従業員が使える制度等を具体的に伝えるようにしましょう。
個別周知・意向確認はどのような方法で行う?
制度説明は面談もしくは書面交付が原則となります。FAXやメール等による対応は従業員が希望した場合に限られています。出勤が難しい従業員の場合には、オンラインによる面談も活用するとよいでしょう。
制度説明を行った上で、育児休業等を取得するかどうかの意向確認を個別に行います。育児休業取得の意向がある従業員にだけ制度説明を行うことは、育児・介護休業法に違反することになります。制度説明⇒意向確認、の順番に行うようにしましょう。
意向確認の方法については、面談、書面交付、FAX、メール等のいずれかで行えばよいとされています。取得希望の有無のほか、「取得するか分からない」といったものも意向確認に含まれますので、取得の有無の決定まで確認することは要しません。
個別周知・意向確認を行うタイミングは?
個別周知や意向確認の時期については、法律上の定めはありません。しかし、従業員が希望する時期にスムーズに育児休業を取得できるよう、引継ぎ期間等も踏まえて、会社として配慮すべきでしょう。厚生労働省のパンフレットでは以下のような実施時期が望ましいとされています。
従業員からの申出時期 | 事業主からの周知・意向確認の実施時期 |
---|---|
出産予定日の1ヶ月半以上前の申出 | 出産予定日の1ヶ月前まで |
出産予定日の1ヶ月半前から1ヶ月前の申出 | 申出から2週間以内など、できる限り早い時期 |
出産予定日の1ヶ月前から2週間前の間の申出 | 申出から1週間以内など、できる限り早い時期 |
出産予定日の2週間前以降や、子の出生後の申出 | できる限り速やかに |
就業規則の変更・周知
法改正によって制度内容が大きく変わっていますので、改正内容に応じて就業規則の見直しをする必要があります。変更後の就業規則は従業員へ周知し、労働基準監督署へ届出するようにしましょう。育児・介護休業法のモデル規程は、厚生労働省や各都道府県労働局のホームページで公表されています。
難解な内容となっていますので、会社独自の制度を設ける場合には、モデル規程を修正して作ることは難しいでしょう。また、従業員のために法を上回る制度にしたつもりが、かえって育児休業給付金の対象外となってしまうようなケースもあり得ます。育児介護休業規程の変更は、専門家に相談して行うことをおすすめします。
必要に応じて労使協定の締結
法改正後の育児介護休業法では、労使協定を締結することで、有期雇用労働者の取得要件を従前通りとすることや、出生時育児休業の休業中の就業が可能となります。これらの労使協定については、労働基準監督署への届出は不要となっていますが、期限ごとに更新手続きを行い、社内で適切に保管することが必要です。
なお、出生時育児休業中の就業については、従業員が希望した場合に限られますので、従業員が希望しない場合に会社が業務命令として就業させることは違法な対応となります。男性従業員であっても、育児休業中は育児が最優先となることを前提として対処しましょう。
今後も改正育児・介護休業法が順次施行されます!
令和6年5月に育児・介護休業法が改正され、令和7年4月から段階的に施行されることが決っています。改正の概要としては、①子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、②育児休業取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化、③介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等となっています。
この法改正の枠組みの中で、企業によっては、フレックス制度など、新たに柔軟な働き方を導入することになる可能性があります。新しい働き方の導入には、社内運用の整備や就業規則の整備などが必要となります。
また制度内容を正しく理解できなければ労働時間の算出を誤る可能性もあります。法改正によって新たな制度を導入する際には、弁護士のアドバイスやリーガルチェックを受けるなどして、適切な運用体制を整えましょう。
育児・介護休業法改正へ適切に対応できるよう、弁護士がアドバイスいたします。
育児介護休業法は、従業員のライフステージの変化による離職を防ぐためには非常に有効な制度です。会社にとっても従業員が長く活躍できる体制作りは、人材の流出を防ぐためにも重要な課題です。しかし、その制度内容は複雑となっているため、どのような対応が適切なのか理解することは容易ではありません。
規程の整備や社内運用は専門家にアドバイスを求めたほうがよいでしょう。育児介護休業法の対応に疑問や不安があれば、弁護士へご相談下さい。弁護士法人ALGでは、労務に精通した弁護士が多数在籍していますので、社内体制の整備や規程の整備、トラブル対応など、ご相談頂ける内容は多岐に渡ります。トラブルが起こってからではなく、事前にトラブルを防止するためにも、まずは弁護士へご相談下さい。
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