労務

育児休業取得中・産後パパ育休中の就業について|給付金や企業側の注意点

札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈

監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士

育児休業制度は女性従業員だけでなく、男性従業員にも確実に浸透しています。
厚生労働省による令和5年度雇用均等基本調査では、男性の育児休業取得率が初めて3割を超えました。

近年の上昇率からすれば、今後も男性従業員の取得率向上が見込まれるでしょう。
育児休業を取得すると従業員が一定期間職務から離れることとなり、会社としては一時的な人手不足となることは否めません。

とはいえ、育児休業は男女問わず確立された権利であって、不当に侵害することはできません。一方で、職務から離れることに不安を覚える従業員も少なくないと考えられます。

このような場合には、休業中に一定の就労を可能にすることで、従業員の不安を払拭することができるでしょう。本稿では、育休中の就業について解説していきますので、休業中に働く際の参考にしてみてはいかがでしょうか。

育児休業取得中の就業は認められるのか?

育児休業は、子の養育を行うために仕事を一定期間休み、その間の労務提供義務を消滅させる制度です。
そのため、制度上は、そもそも休業期間中に働くという状況が想定されていません。

たとえ短時間であっても、恒常的に働くとなれば制度の趣旨に反することになります。就業の必要があっても、あくまで一時的・臨時的なものとしましょう。

また、休業中の就労を会社の指示として一方的に行わせることは制度利用の阻害に繋がり得ます。
どうしても必要な場合に限り、労使で十分に話し合った上で一時的に就労するといった緊急対応であることを認識しておきましょう。

「一時的・臨時的な就労」の具体例

一時的・臨時的な就労は法律上、限定的に列挙されているわけではありませんが、以下のような状況が該当するとされています。

  • 自社製品の予期せぬ需要増大に伴い、臨時的にスキル指導が必要となった
  • トラブル発生等により、経緯を知る社員の対応が急遽必要となった
  • 災害の初動対応に関する専門知識を目的とした、臨時の対応業務の発生
  • 従業員の大幅な欠員による、限定的な業務の遂行

上記のように、休業当初には予定していなかった状況の発生によって、臨時的な応援として就労を依頼するようなケースが該当すると考えられます。
休業時に、あらかじめ勤務日等を定めるようなものは、一時的・臨時的な就労には該当しませんので、注意しましょう。

【令和4年10月施行】産後パパ育休(出生時育児休業)中の就業も可能に!

育児介護休業法の改正により、令和4年10月から産後パパ育休(出生時育児休業)制度が導入されました。通常の育児休業では原則就業不可となっているのに対し、産後パパ育休では休業開始前に一定の就労を予定することが可能となっています。

しかし、産後パパ育休であっても育児を目的とした休業であるという制度趣旨は変わりません。
どのような就労であっても許容されるわけではありませんので、以降のポイントに注意して設定しましょう。

休業中の就業日数等には上限がある

休業中の就業が可能とはいえ、休業の目的である育児が滞るような就業は制度の趣旨に反します。そのため、産後パパ育休中の就業日数等には制限が設けられています。
以下の上限以内の就労とすることが必要となりますので、注意しましょう。

  • ①就業日の合計日数が、休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分以下とする
  • ②休業開始日・終了予定日を就業日とする場合には、その日の所定労働時間数未満とする

具体的な手続きの流れ

産後パパ育休中の就労が制度上可能であっても、会社が業務命令として従わせられるということではありません。休業中の就業を実現させるには、あらかじめ労使協定を締結しておくことが必要です。

その上で、個々の従業員から就業内容について合意を得なければなりません。以下の具体的な流れに沿って手続きするようにしましょう。

  1. 産後パパ育休中の就業について、労使協定を締結
  2. 休業予定の従業員が就業してもよい場合は、会社にその条件を申し出
  3. 会社は、従業員が申し出た条件の範囲内で候補日・時間等の条件を提示
  4. 従業員が同意
  5. 会社が就業内容を正式に通知

育児休業中に就業した場合の育児休業給付金はどうなる?

育児休業中に就業した場合、その就業に対して得た賃金額によっては育児休業給付金が減額となります。
1ヶ月あたり10日かつ80時間以下の就労であれば、減額はされても原則として差額の給付金を受給することができます。

しかし、限度を超えて就業した場合等は、育児休業給付金自体が不支給となる可能性があります。これは、育児休業期間中の就労もしくは産後パパ育休中の就労いずれであっても同様です。

就労することによって育児休業給付金が減額となる可能性については、就労の合意を得る際に従業員へ説明しておく必要があるでしょう。

社会保険料の免除にも影響するのか?

社会保険料の免除要件について2022年10月に改定が行われました。改定によって、一月あたり14日以上の休業が無い場合には、社会保険料の免除が受けられない可能性があります。

また、賞与に関する保険料免除にも同じく改定が行われ、賞与月の末日を含み、連続1ヶ月超の休業があった場合に、免除が適用されることになりました。

育休中に就労することによって、これらの要件を満たせなくなれば、従前通りの社会保険料の支払いが必要となり得ます。就業によって社会保険料が発生した場合の対応についても、事前に取り決めておくとトラブルの防止に繋がるでしょう。

育児休業中の就業を行う際の企業側の注意点

育休中の就業は、対象従業員が育児休業なのか産後パパ育休なのかによって手続きが異なります。
育児休業中は原則として就業を認めないことを前提とし、あくまでも一時的・臨時的な場合に上限日数内での就業が可能となります。

これに対して、産後パパ育休では、労使協定の締結と対象従業員の合意があれば、休業前に上限の範囲内で就業を予定することができます。
いずれも、育児休業給付金に影響を及ぼすため、不支給にならないよう十分に配慮した上で就業日数等を定める必要があります。

また、就業を予定していたとしても、育児の状況によっては就業が難しくなる可能性は大いにあり得ます。そういった場合にも許容できる人員計画が必要となるでしょう。

休業中の就業に関する不利益取扱いの禁止・ハラスメント防止

休業中の就業は、育児休業もしくは産後パパ育休いずれであっても、従業員が合意することが前提となります。

休業中の就業を容認しなかった従業員に対して、不当な扱いを行うことは育児介護休業法に違反する行為です。ハラスメントになり得る行為ですので、就業を前提とした休業はできるだけ避けるべきでしょう。

就業に合意することが暗黙の了解となってしまえば、制度利用をためらう従業員も出てきます。
そのような職場環境は決して良好とはいえず、若く優秀な人材にとっては転職する十分な理由ともなり得るでしょう。
休業中の就業は従業員が希望する場合を除いて、最低限の運用とするほうがよいでしょう。

育児休業給付金や社会保険料免除についての労働者への説明

育休中は育児休業給付金の受給や、社会保険料が免除になるなど、従業員にとって有益な制度があります。しかし、これらは育児休業を取得すればすべて適用されるわけではありません。

それぞれ個別の法律によって定められているため、各要件を満たして初めて適用されます。まずは制度の正しい理解が必要となるでしょう。

2022年4月に、妊娠・出産の申し出をした従業員にはこのような制度説明を個別に行うことが義務化されました。要件等を一覧にするなどして説明資料を準備しておくと業務がスムーズになるでしょう。
さらなる制度変更も予定されていますので、常に最新の情報を確認し、適切に説明することが大切です。

育児休業の取得を促進するために企業が取り組むべきこと

育児休業の取得促進は優秀な人材の定着や獲得のためにも、積極的に取り組むべき施策といえます。2024年7月に厚生労働省が発表した、若年層の意識調査では、育休を取得したいと考える若年層が男女ともに8割を超える結果となっています。

育児休業の取得促進を進めるのであれば、社内外にその方針を積極的に発信することも大切です。また、育休がとりやすい社内体制を構築し、復帰をスムーズに行える環境も重要となります。

昨今では、復職時における同僚との関係性等が問題となっています。
これは周囲の従業員が業務を引き受けているにもかかわらず、評価に反映されない、給与に直結しないといった会社の対応が原因となっていることが多いと考えられます。

手当の支給等の対応を検討し、誰もが育休を取得し復帰できる職場作りを目指すことが大切です。

育児休業中の就業についてご不明な点があれば、労務の専門家であるALGにご相談下さい。

育休中の就業は、育児休業であるか産後パパ育休であるかによって対応方法が異なります。

適切に行わなければ、制度利用の阻害と判断される可能性もありますので、正しい理解が必要でしょう。
また、就業が恒常的とみなされれば、育児休業給付金にも影響し、従業員にも多大な不利益が生じるおそれもあります。

育児介護休業法は法改正が非常に頻繁であり、最新の内容を把握しておくことが求められますが、複雑な制度であるため容易とはいえません。
育児休業中の就業について不明点があれば、労務を専門とする弁護士へ相談するとよいでしょう。

弁護士法人ALGでは、労務に精通した弁護士が、会社の状況に応じて柔軟なリーガルサービスを提供しています。制度の解説から規定整備、適用など幅広く対応しておりますので、まずはお気軽にお問い合わせください。

札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈
監修:弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長
保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)
札幌弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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