監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
有期契約による雇用は、人員計画における有効な手段のひとつです。
しかし、有期契約は無制限に許されているわけではありません。
有期雇用契約は、会社にとって有用なものである一方、多くの労働者にとっては正社員に比べると安定性に欠けるといったデメリットがあります。
そのため、有期契約に更新上限を設定し、一定の期間を超過した場合には、労働者の申込みによって無期契約に変更される無期転換ルールが生まれました。
無期転換ルールの存在によって、会社は、契約更新の状況を踏まえたうえでの適切な対応が求められます。法改正によって労働条件通知書への記載項目が増えるなど会社の管理は複雑化しているといえるでしょう。
本稿では無期転換ルールへの変更対応について解説していきますので、ご参考になさってください。
Contents
「無期転換ルール」とは?
同一企業との間で締結された有期契約が更新され、その期間が通算して5年を超えると、有期契約の従業員に無期転換を申し込む権利が発生します。この権利は、契約社員やパート、アルバイトなど名称によらず、有期雇用契約の従業員すべてが対象となります。
従業員が、契約期間の満了日までに申込みをすることで、有期契約終了の翌日から無期雇用としての契約に転換されることになります。ただし、変更は契約期間についてのみ適用されるものです。
正社員でない従業員を正社員にしなければならないわけではありません。
労働条件上は、契約期間が有期から無期となるほかは、別段の定めがない限り、無期転換申込時の有期契約と同一の内容となります。また、このルールには企業規模による限定はなく、すべての企業が対象となります。
問題社員の無期転換を拒否することは可能か?
無期転換ルールは、会社側の承諾を要件としておりません。契約の通算期間等を満たしたうえで、従業員が申込みをすれば、自動的に無期契約へ転換されることになります。
つまり、勤怠不良や能力不足などを理由として無期転換を拒否することはできず、申込みがなされれば受け入れざるを得ない制度といえます。
ただし、5年の間に6ヶ月以上のクーリング期間があるなど正しく要件を満たしていない場合には拒否することができますので、要件確認は必ず行いましょう。
無期転換回避を目的とした雇止めは有効か?
無期転換申込権が発生すると会社に拒否権はありません。
会社が無期転換させない手段としては雇止めが考えられますが、有効な手段といえるでしょうか。
この点につき、厚生労働省では、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではないとしています。
しかし、無期転換回避を目的として、申込権が発生する前に雇止めを行うことが、ただちに違法となるわけではありません。
無期転換権が発生するまでは、原則として契約更新の有無については自由が認められているからです。
ただし、契約更新が常態化しているなど、従業員の更新への期待に合理性がある場合には、注意が必要です。
労働者保護の観点から、一定の場合には、雇止めを無効とする雇止法理が適用されます。
雇止めには、客観的に合理的な理由および社会通念上の相当性が求められることになりますので、疑問があれば、弁護士へ事前に相談しておきましょう。
懲戒処分に値する行為があった場合は?
懲戒処分があれば雇止めが有効とは限りません。
従業員の契約更新に対する合理的な期待をもってしても、更新を拒絶することが妥当といえるだけの事情が必要です。
この点について、どのような懲戒処分であれば雇止めが認められるかといった明確な定義はありません。
問題行為の悪質性や態様など様々な事情を総合考慮しての判断になると考えられます。
けん責や訓戒といった軽い懲戒処分を理由とした雇止めが認められるのは難しいでしょう。
ただし、正社員の解雇に比べると、客観的合理性や社会的相当性の基準は緩和される傾向があります。
問題社員の無期転換を回避するには
問題社員を無期雇用にしたくないと考えるのであれば、無期転換権を発生させない事前対応が重要です。
無期転換権を発生させない方法としては、以下の2点が挙げられます。
- 初めから更新なしの有期契約社員として採用する
- クーリング期間を意識し、要件を満たさない場合にのみ更新する
初めから更新なし有期契約社員として採用する
有期雇用の上限期間は原則3年ですが、専門知識を要する業務や満60歳以上の労働者と契約する場合には、5年が上限となります。
この上限を踏まえた上で、当初から更新の上限が3年もしくは5年といった有期契約社員として採用するとよいでしょう。この際、更新なしの契約とすることと、実態上も契約内容に沿った対応が必要です。
なお、令和6年4月以降、更新上限を設定する場合は、基本的に、雇入れ時に書面で更新上限がある旨明示することが義務付けられましたので、注意してください。
万が一、契約更新に十分期待がもてる状態にしてしまうと、雇止法理により更新拒絶が困難となる可能性があります。
クーリング期間を意識し、要件を満たさない場合にのみ更新する
無期転換ルールにおける通算5年の要件には例外規定があります。
各契約更新の合間に6ヶ月以上の無契約期間があれば、クーリング期間として期間の通算がリセットされることになります。
リセットされた場合には、その時点から改めて通算5年超とならなければ、無期転換権は発生しません。
そのため、クーリング期間をふまえ、5年の要件を満たしてしまう場合には更新を避けるべきでしょう。
ただし、クーリング期間を設けるためには有期契約を一度終了させる必要がありますので、この際にも雇止法理の適用が考えられます。クーリング期間を狙って設けることは、困難なこともあります。
企業が無期転換の対応を取らないことのリスク
無期転換は、要件を満たした従業員からの申込みによって行われます。
この制度では会社の承諾は要件ではないため、申込みがあれば自動的に実行されることになります。
申込みがあったにもかかわらず、会社が無期転換の対応を行わなかった場合、どのようなリスクが考えられるでしょうか。
会社が拒否をしても、法定要件をクリアしていれば、その従業員はすでに無期雇用に転換された状態となります。無期転換後であるにもかかわらず、有期契約終了として退職させたのであれば、不当解雇として従業員から訴えられる可能性があるでしょう。
解雇無効と判断されれば、退職時に遡って賃金を支払うことになり(バックペイ)、従業員が復職を望む場合には復職を認めることにもなります。
無期転換の申込みがあった場合には、不当な拒否は避け、適切に対応することが大切です。
無期転換ルールに違反した場合の罰則
無期転換ルールは労働契約法第18条に定められています。
労働契約法は、労使の契約に関するルールを定めた法律であり、罰則の定めはありません。
ただし、令和6年4月から無期転換ルールに関する事項が労働条件通知書の明示事項として追加されました。
この対応を怠った場合には、労働基準法違反として30万円以下の罰金が科されるおそれがあります。
無期転換後の労働条件に関する注意点
無期転換後の労働条件は、別段の定めがない限り、期間に関する条件を除いて、有期契約時と同内容となります。ただし、契約期間が無期である以上、最低限、定年に関する定めは必要となるでしょう。
また、無期転換後の就業規則が無い場合、雇用契約書や法律上の定め以上のルールを適用できなくなるおそれもあります。
一方で、正社員の就業規則が無期転換後の従業員にも適用されるような曖昧な状態であった場合には、大きなトラブルへ発展する可能性は十分考えられます。
無期転換後の労働条件について、別段の定めもしくは就業規則によって設定することも考慮すべきでしょう。
就業規則を整備する必要性について
就業規則は会社のルールを記載する重要なものです。
正社員や有期契約社員用の就業規則は用意していても、無期契約社員用がなかった場合、無期転換後の従業員に適用される社内ルールが曖昧になってしまいます。
待遇が不透明になると、定年や無期転換後の処遇の見直し等に関して労使間でトラブルになることが懸念されます。また、懲戒処分などは就業規則への規定が求められるため、適用される就業規則が無い状態であれば、処分を行えない可能性も考えられます。
有期雇用の従業員がいるのであれば、無期転換社員用の就業規則を整備し、会社としての規律を守れる体制を整えた方がよいでしょう。
有期労働契約にまつわる裁判例
無期転換ルールが施行され、実際に無期転換権を行使する労働者も増えてきました。
労働条件通知書への明示によって、今後益々、無期転換は活発となるでしょう。
しかし、無期転換権の発生に関する要件については労使間で認識の齟齬が発生するケースもあります。
無期転換の有効性について争われた学校法人専修大学事件について解説していきます。
事件の概要
学校法人Yの大学で非常勤講師として勤務するXは、外国語の授業や試験を担当していました。Y法人とXは有期労働契約を締結し、1年更新としていました。
6回目の契約更新時にXはY法人に対し、無期転換を申し込みました。これに対しY法人は、Xとの契約は、科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律(以下、「科技イノベ活性化法」という。)に該当し、通算10年まで無期転換を認めない旨、回答しました。
この回答を不服としたXは、Y法人の対応は不当であり、無期契約従業員としての地位確認を求めてY法人を訴えました。
裁判所の判断(令和2年(ワ)第10360号・令和3年12月16日・東京地方裁判所・第一審)
裁判所は、科技イノベ活性化法の適用により、科学技術に関する研究者または技術者等に関しては、無期転換権の発生を10年とする運用を認めた上で、Xが本法の研究者等に該当するかについて判示しました。
Y法人とXによる契約書には科技イノベ活性化法の対象者であることが明記され、採用時の審査にも研究内容の実績審査がありました。
しかし、非常勤講師としての業務は授業や試験等の業務にとどまり、研究業務を行っていないことから、実態としてXは科技イノベ活性化法上の研究者に該当しないと判断されました。
この結果、無期転換ルールの例外適用は不適当となり、Xの無期転換申込実績により、期間の定めのない労働契約が成立していたと認められました。
ポイント・解説
本事案では、Y法人はXの無期転換の申込みを拒否し続けていました。
しかし、Xが科技イノベ活性化法上の対象となる研究者ではなかったことから、Xの意思表示時に遡って無期転換が認定されています。
その結果、当時の契約期間満了日の翌日からの無期契約が適用されました。
無期転換ルールでは、労働者からの申込みはもちろん、様々な要件をすべて充足している必要があります。
本事案では、Y法人からは例外適用の主張がなされていますが、労働者ごとの要件確認が不十分だったと考えられます。
有期雇用の従業員についての契約期間の通算など、要件を正しく管理し運用することが大切です。
無期転換ルールの把握に不安があれば、弁護士へ相談した上で、対応することをおすすめします。
問題社員への無期転換対応についてお悩みなら、労働問題の専門家である弁護士にご相談下さい。
無期転換ルールは令和6年4月に改正され、更新契約締結の際に、無期転換申込みに関する事項および無期転換後の労働条件の明示をすることが必要とされました。
今後、無期転換制度の認知が進むことで無期転換権の行使件数も増加していくものと考えられます。
しかし、無期転換を踏まえた雇用契約の検討や転換後の定年の定め、無期転換後の就業規則の整備など、会社に求められる体制準備は容易とはいえません。
誰でも無期契約にできるとなれば会社はリスクを負うことになり、転換後の条件が不明確であれば紛争の温床となるおそれもあります。
問題社員の無期転換対応についてお悩みがあれば、労務問題に専門性をもつ弁護士法人ALGへお気軽にご相談ください。

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