監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
モンスター社員とは、「遅刻や欠勤を繰り返す」「協調性がない」「仕事をやる気がない」といった問題行動が見られ、会社側で指導を尽くしても改善の兆しが見えない社員を指します。
このような問題社員は企業経営にも悪影響を与えるため、早急な対策が必要です。
しかし、対処法を誤れば、会社側が行った正当な指導や処分であっても「パワハラ」や「不当な嫌がらせ」であると主張され、法的トラブルに発展するおそれがあります。
このページでは、モンスター社員の特徴や放置することのリスク、正しい対処法と辞めさせ方について、解説していきます。
Contents
モンスター社員とは?
モンスター社員とは、法律上の用語ではありませんが、一般的には仕事場での言動や態度に深刻な問題がある社員のことをいいます。「問題社員」などと呼ばれる場合もあります。
例えば、以下のような社員があてはまります。
- 会社のルールや業務命令に繰り返し違反する社員
- 同僚・上司などを繰り返し誹謗中傷する社員
- 著しい能力不足や協調性の欠如が見られ、指導しても改善しない社員
- 無断欠勤や遅刻を繰り返す社員
- ハラスメントを行う社員など
このような社員に、会社として適切に対処するためには、多くの労力や時間がかかります。しかし、放置すると周囲の社員のモチベーションも下げて、退職者が増えるなど会社に不利益を与えます。
昨今では、上記のような社員が増えつつあることが問題視されています。
モンスター社員が増加している背景
モンスター社員が増加している背景として、主に以下が考えられます。
- コミュニケーション不足
インターネットやSNSの普及により、直接の対面によるコミュニケーションが希薄化した現代では、相手を気遣う心やモラルが欠如していき、自分勝手でわがままなモンスター社員が増えるものと想定されます。 - 成果主義による影響
現在の日本は、終身雇用社会から成果主義の社会へと移り変わっています。
成果主義においては自分さえ成績が良ければいいとして、個人プレーに走る者が多くなる傾向にあるため、自己中心的な社員が増えるものと判断されます。 - 会社への不満
会社の指導や人事評価が不適切であったり、上司から過剰なプレッシャーを受けていたりすると、社員の不満が募ります。
その結果、勤労意欲が低下し、ストレスフルとなり、モンスター社員化するおそれがあります。
モンスター社員の主な特徴は?
モンスター社員の特徴は社員ごとにケースバイケースですが、主なタイプとして以下が挙げられます。
- ①自己中心的
- ②素行不良
- ③遅刻・欠勤の常習犯
- ④能力不足
- ⑤逆パワハラ
自己中心的
モンスター社員は自己中心的で協調性に欠けることが多く、他の社員と度々トラブルを起こしたり、他人の意見やフィードバックを聞き入れなかったりする者が多いです。
また、このタイプの社員は、自分の意見ややり方が最も正しいと考え、社員同士の協力やチームワークを重視しない傾向があります。さらに、何かの問題に直面したときは責任逃れしようとすることが多いのも特徴です。
このような自分勝手な行動に周囲の社員は振り回されて、社員同士の正常なコミュニケーションや業務効率に悪影響を与えるおそれがあります。
素行不良
上司や同僚、顧客などに乱暴な言動をとる、社内の基本ルールを守らない、パワハラなどのハラスメントを繰り返し行う、社内で不倫するといった素行不良のモンスター社員もいます。また、プライベートで素行が悪い社員も問題です。
例えば、社員がギャンブル依存に陥って高額の借金を抱えていたり、女癖が悪く不倫をしていたりするような場合は、一見会社に関係がないようにも思えますが、消費者金融などの債権者や不倫の被害者から会社に連絡が入る可能性があります。
万が一これらの素行不良が犯罪などに発展すれば、会社のイメージ悪化は避けられないため注意が必要です。
遅刻・欠勤の常習犯
正当な理由なく欠勤や遅刻、早退を常習的に繰り返す社員も存在します。
特に注意が必要なのは、体調不良を装った私的な欠勤や、単なる意欲の欠如による勤怠不良です。
特に札幌をはじめとする北海道の冬季においては、積雪や交通障害を理由とした遅刻・欠勤が発生しやすいですが、他の社員が出社できている状況下で特定の社員だけが安易に休みを繰り返すような場合もあります。
これらを放置すれば、真面目に働いている他の社員の不満が募り、職場全体のパフォーマンスを著しく低下させることにつながります。
能力不足
仕事に要求されるスキルや知識が欠けていて、ミスを連発する、仕事が遅すぎる、仕事を取ってこられないなどのモンスター社員もいます。
これらの問題行動により周囲の社員の負担が増えたり、品質の良くない成果物を提出して顧客の信用を悪化させたりするおそれがあります。
能力不足については、本人に悪気があるわけではないためやむを得ない面があり、本人にとっても能力不足がストレスの要因となっている場合もあります。
しかし、放置すれば、他の優秀な社員の勤労意欲の低下や、生産性の低下を招くリスクがあるため、対策が必要です。
逆パワハラ
逆パワハラとは、部下が上司に対し、業務上必要な範囲を超えて、優越的な関係(専門知識の独占や集団による孤立化など)を背景とした言動をとり、職場環境を害することをいいます。
パワハラは上司から部下へのイメージが強いかと思いますが、昨今ではこの逆パワハラを行うモンスター社員が増えています。
上司が業務上必要な指導をしたにもかかわらず、部下が過剰に反応して「パワハラだから労基署に訴える」「あなたの指導には従わない」などと罵倒するケースが挙げられます。
このような状態を放置すれば、上司が怖じ気づいて適切な指導を行えなくなり、会社の指揮命令体制が正常に機能しなくなるおそれがあるため、迅速な対応が必要です。
企業がモンスター社員を放置することのリスク
会社がモンスター社員を放置することにより、以下のようなリスクを受ける可能性があります。
- ①職場環境へのリスク
- ②人材流出のリスク
- ③金銭面でのリスク
- ④訴訟を起こされるリスク
職場環境へのリスク
モンスター社員の職務怠慢や業務上のミスをフォローすることにより、周囲の社員への業務負担が増えることは間違いありません。
モンスター社員の存在に嫌気が差していることに加えて、そのせいで真面目に働いている自分にしわ寄せが来ている状況ではストレスが倍増し、職場全体の雰囲気が悪化してしまうおそれがあります。
このような状況を放置すると、優秀な社員が職場に見切りをつけて連鎖退職する事態を招くおそれがあります。
また、モンスター社員に同調する新たなモンスター社員も出現させるなど負のスパイラルに陥るリスクもあるため注意が必要です。
人材流出のリスク
同じ職場にモンスター社員がいると、周囲の社員がその対応に疲弊し、また適切な対策を講じない会社への不満もつのり、「こんな不快な環境では働けない」として、退職を決意してしまうおそれがあります。
特に優秀な人材ほど職場環境の悪い会社で働き続ける理由が見当たらないため、早期に退職してしまう可能性が高いです。
人材の流出は会社にとって大きな損失となります。人材の定着のためには、モンスター社員への適切な対処が必要です。
金銭面でのリスク
職務怠慢や能力不足等により本来の業務量をこなしていない社員に対し、他の社員と同等の給料を支払い続けることは、会社にとって無駄なコストとなる懸念があります。
また、モンスター社員が職場にいることで、職場環境が悪化し、職場全体のパフォーマンス、ひいては生産性が低下し、会社の売り上げに悪影響を与えるおそれもあります。
さらに、優秀な社員が退職することにより、退職者にかけてきたこれまでのコストが無駄となり、新たな社員の採用や指導にかかる費用が発生することになります。
加えて、モンスター社員を放置すると会社の責任も追及されて、パワハラによる被害者への賠償金などの支払いが必要となる場合があることも金銭面のリスクの1つです。
訴訟を起こされるリスク
例えば、ある社員がモンスター社員からの不適切な言動によって、うつ病などの精神疾患を発症し、その原因が、会社のハラスメント行為の放置にあった場合、当該社員から安全配慮義務違反や使用者責任に基づき損害賠償を請求され、裁判を起こされる可能性があります。
また、モンスター社員は自分の意見が最も正しいと考える傾向が強いため、業務上の指導をしたに過ぎない場合でも、過剰に反応し、「パワハラだ」などとして、裁判を訴え出る場合もあります。
裁判を起こされた場合は、会社はその対応に相当な労力や費用を割かなければいけなくなりますし、社会的信用が悪化する可能性も否めません。
モンスター社員を安易に解雇することはできない
モンスター社員を直ちに解雇したとしても、それが客観的に合理性を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、「解雇権濫用」として無効となってしまいます(労契法16条)。
仮に裁判などで解雇無効と判断されると、社員を職場復帰させる必要があることに加えて、未払賃金(バックペイ)や慰謝料など多額の金銭の支払いが命じられるリスクがあります。
解雇の有効性については、モンスター社員の問題行為が解雇するほど悪質なものであるのか、解雇制限に該当しないか、解雇の手続きは適正に行われているか、会社側の対応に問題はなかったのかなど、あらゆる観点から評価されます。
正当な解雇に当たるのかどうか判断がつかない場合は、弁護士などの専門家にご相談ください。
モンスター社員の解雇が不当解雇とみなされた裁判例
ここで、モンスター社員の解雇が不当解雇と判断された裁判例【東京地方裁判所 令和元年10月23日判決 有限会社スイス事件】をご紹介します。
事件の概要
本件は、洋食店を営むA社との間で期間の定めのない雇用契約を結んでいた店長Xが、勤務態度の悪さなどを理由に普通解雇されたことについて、解雇は無効であると主張し、A社に対し復職やバックペイなどの支払いを求めて提訴した事案です。
裁判所の判断
裁判所は、以下の理由から、店長Xには解雇理由となるまでの著しい能力不足があったと認められないとして、普通解雇を無効と判示しました。
- 社長らは店長Xの接客態度について、表情が暗く、お客と会話せず、お客からも感じが悪いと言われた点や、その後ホール係と調理場担当を兼務した後も、食器を適当に洗うなど業務が雑であった等主張するが、これらを証明する客観的かつ的確な証拠が存在しない。
- 社長らが訴える店長Xの接客態度は、表情の暗さなど、多分に評価を含むものであり、たとえそのとおりの事実が認められたとしても、店長Xに解雇事由となるまでの著しい能力不足があったと認めることは困難である。
ポイント・解説
この裁判例では、個人的な評価が含まれやすい「能力不足」を理由に解雇するには、一定の高いハードルがあることが示されました。
客観的かつ公平な人事評価に基づかない解雇は、使用者の主観や好みの押し付けとみなされ、違法・無効となるおそれがあります。
そのため、会社側としては、社員に要求されるスキルを可能な限り具体的かつ一意的に定め、「いつ、どのような不備があり、どう指導したか」を客観的な証拠(指導記録や改善報告書など)として残しておくことが極めて重要です。
モンスター社員の正しい対処法と辞めさせ方
会社に悪影響を及ぼすモンスター社員に対して、どのように対処すべきでしょうか。
モンスター社員への正しい対処法や辞めさせ方について、以下で紹介していきます。
注意指導を行う
まずはモンスター社員に対し、適切な注意指導を行うことが必要です。
最初に口頭で「なぜその行為に問題があるのか」ということを丁寧に説明し、改善を求めます。
それでも改善されない場合は、メールや書面により引き続き注意指導を行います。
これにより問題行動が改善される可能性があります。
なお、解雇の有効性の判断においては、これまで行った会社の注意指導の有無やその内容が重要な要素となります。
注意指導をして改善の機会を与えた事実を証拠として残すためにも、指導内容やそれに対する社員の反応、その後の社員の変化の有無などについては、「指導記録簿」や「面談記録」として詳細な書面(あるいはメール等の客観的記録)を残しておくことが不可欠です。
始末書や誓約書を提出させる
注意や指導を繰り返しても問題行動が改善しない場合は、モンスター社員に「始末書」や今後は問題行動をとらないことを約束させる「誓約書」などを提出させるのも有効な方法です。
始末書や誓約書を提出させれば、モンスター社員が自分自身に非があることを認めた証拠を得ることができるのに加えて、本人の反省も深まり、今後同じ行為を繰り返すことを防ぐことができます。
また、例えば、後に解雇することになった場合、社員が始末書等を提出していたという事実があれば、解雇の正当性を満たす可能性も高まります。
なお、仮にこれらの提出を社員が拒否した場合は、その点についても書面等で記録しておくようにしましょう。
人事異動で対応する
人事異動を行い、他の仕事で適性を見てみたり、感情的に対立する社員と引き離したりすることも、モンスター社員の対処法として有用です。また、人事異動の試みは解雇を回避する努力をしたことを証明する証拠にもなります。
仕事内容や職場の環境を変えれば、モチベーションや行動が改善され、新たな能力を発揮できる可能性があります。
ただし、次のような配置転換は違法・無効となる可能性があります。
- 就業規則や雇用契約書等に配置転換に関する定めがない場合
- 社員との間で職務内容や勤務地を限定する特別な合意がある場合
- 権利濫用に当たる場合(業務上の必要性がない、退職に追い込むなど不当な動機や目的がある、社員に著しい不利益を与えるなど)
配置転換が無効と判断されないよう、業務上の必要性と本人が受ける不利益を総合的に考慮して判断する必要があります。
懲戒処分を行う
再三の指導や人事異動などを行っても、問題行動が改善されない場合は、懲戒処分を検討する必要があります。
懲戒処分の種類は、軽い順に以下が挙げられます。
- 戒告(文書または口頭で注意する処分)
- 譴責(始末書を提出させる処分)
- 減給(賃金から一定額を差し引く処分(労働基準法第91条による制限に注意が必要))
- 出勤停止(就労を一定期間禁止し、その間の賃金を支払わない処分)
- 降格(役職や職能資格を下位に引き下げる処分)
- 諭旨解雇(退職届の提出を勧告し、応じない場合に解雇する処分)
- 懲戒解雇(極めて重大な企業秩序違反に対する、制裁としての即時解雇)
改善の余地を見極めるためにも、いきなり重い処分を行うことは避け、就業規則に従って、軽度の懲戒処分から段階的に対応することが必要です。
モンスター社員であっても労働法の保護を受けるため、問題行動に比べて懲戒処分が重すぎる場合や、適正な手続きが取られていない場合は、懲戒処分が無効となる場合があるため注意が必要です。
退職勧奨する
懲戒処分等を行っても改善に至らない場合は、退職勧奨することが考えられます。
退職勧奨とは、会社が社員に対し退職を勧めることをいいます。
紛争化のリスクを回避するため、一方的な解雇に踏み切る前に、退職勧奨による「合意退職」の可能性を模索することが推奨されます。退職勧奨において注意すべき点は、あくまで社員が自発的に退職するよう促すことにあります。
退職に応じるよう強く迫ったり、退職勧奨に応じないと明言しているにもかかわらず執拗に退職勧奨したりした場合は、違法な退職勧奨として、合意退職の有効性を否定されるリスクがあります。
退職強要として違法とされないように、その言動や時間、回数などに注意しなければなりません。
最終的には解雇する
これまで挙げた手段を尽くしても、モンスター社員の問題行動が改善されず、自主的に退職することもなかった場合は、最終手段として解雇を検討せざるを得ない状況になります。
解雇には、普通解雇と諭旨解雇、懲戒解雇があり、いずれについても、裁判所は会社側に厳しい態度をとっているため、正当な解雇として認められるためには、一定のハードルをクリアする必要があります。
仮に不当解雇だと判断されると、会社として大きな損失を被る可能性があります。
解雇権の濫用とならぬよう、できる限り弁護士などの法的アドバイスを受けながら、慎重に判断することをお勧めします。
モンスター社員を生まないために企業ができる対策
モンスター社員を生まないために会社ができる対策として、以下が挙げられます。
- 面接を適切に実施し、問題のある兆候を感じた応募者の採用を見送る
- 試用期間中に問題があるか否か見極め、問題がある場合は本採用しない
- 本採用後に問題が発覚した場合には、適切な注意指導を行い、問題の改善を図る
- 適正な人事評価制度や給与・昇進システムを整備する
- 特定の社員に業務や権限を独占させない
- 定期的に面談やミーティングなどを行い、社員とのコミュニケーションを強化する
- 日頃から社員の心身の健康に留意し、不調が見られた場合は早急に対処する
モンスター社員・問題社員でお悩みなら、まずは弁護士にご相談ください。
モンスター社員は本人の性格や特性に由来する場合もありますが、職場の環境が原因で発生する場合も多々あります。
まずはモンスター社員を生まない職場を整備した上で、仮に問題が発生した場合は、適切な指導や処分を行うことで、会社への影響を最小限に抑えていくことが重要です。
もっとも、モンスター社員への対処法を誤ると、会社側が法的責任を追及されるリスクがあるため、極めて慎重な判断が求められます。
弁護士法人ALGには労働法務に精通する弁護士が多く所属し、モンスター社員への対応についても豊富な解決実績を有します。
必要に応じて電話やWeb会議も活用し、迅速なコンサルティングを通じて、指導の仕方の助言から退職勧奨の進め方まで、企業側の立場に立った戦略的なサポートを行っております。
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