監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士
従業員が退職時に離職票を希望した場合、会社には発行手続を行う義務があります。また、離職票は雇用保険の失業給付の手続きに必須の書類であるため、一定期間内に発行しなければなりません。
離職票には離職理由の記載欄が設けられていますが、この記載内容についてのトラブルが頻発していることはご存知でしょうか。
離職理由によっては失業給付の受給開始が遅くなる、給付日数が少なくなるなど給付内容が不利になるおそれがあります。そのため、離職理由の誤りは従業員にとって死活問題になることもあり、異議申立て等の手段がとられるケースもあります。
本稿では、離職票の離職理由について異議申し立てがあった場合の会社の対応について解説していきます。
Contents
離職理由に関する労働者からの「異議申立て」とは
会社が作成した離職証明書の離職理由に対して、労使間で認識が異なることがあります。
この場合、離職者は離職理由を訂正したいと思えば、ハローワークに異議申立てを行うことができます。
離職票には離職理由に対する異議の有無をチェックする欄があります。
その欄の「有り」に丸をした上で、異議申立ての書面を提出するなどすれば、ハローワークが事実確認の調査を行うことになります。
なぜ離職票の離職理由に関するトラブルが多いのか?
会社が認識している退職理由と離職者が考えている退職理由が必ずしも一致しているとは限りません。
退職届を見て、形式上は一身上の都合と理解して提出していても、実は上司からのパワハラが原因であったとハローワークで申し出るといったケースもあります。そのほか、離職理由の記載方法を理解していなかったため、退職勧奨を自己都合としてしまう等のミスもあります。
しかし、離職理由の相違は、離職者、会社それぞれに影響を及ぼしてしまうため、実はトラブルに発展しやすい事案といえます。
離職理由は失業給付の金額や支給期間に影響する
従業員側への影響で最も大きいものは、いわゆる失業給付の内容への影響です。
雇用保険における失業給付(正確には基本手当)は、離職理由によってその所定給付日数が異なります。
また、離職理由によっては、最大3ヶ月の失業手当が受け取れない給付制限期間が発生します。
自己都合ではなく、会社都合や特定の理由による離職であれば、給付制限がなく、給付日数も通常より優遇されるため、給付金額や支給期間は有利になるといえます。離職理由の相違によってこれらの優遇が受けられないとなれば、離職者にとって大きな不利益といえるでしょう。
会社が受給する助成金との関係
会社側への影響は、離職理由が会社都合となった場合に起こります。
雇用の安定や従業員の待遇促進を目的とした雇用関連助成金には、会社都合の退職者が出た場合には受給できないという規定があります。
キャリアアップ助成金などは多くの企業で活用されている助成金ですので、離職理由が会社都合になると困る会社も少なくないでしょう。
不支給要件にあたる時期は活用を見合わせるなどの対応が必要となるため、助成金の申請を控えている会社にとっては、離職理由の異議は容易に受入れられないかもしれません。
離職票の離職理由に異議を申し立てられたらどう対応すべき?
離職者がハローワークへ異議を申し立て、ハローワークが必要と判断した場合には、会社へ事実確認等の調査が行われます。
この際、会社はどのように対応すべきでしょうか。以降で詳しく解説していきます。
離職理由の訂正には必ず応じなければならないのか?
ハローワークから離職理由の相違について連絡があったからといって、必ず離職理由を訂正しなければならないわけではありません。
会社として認識している離職理由を改めて確認し、訂正の必要性を検討しましょう。
もし、実態と離職票の離職理由に相違がなければ、修正の必要無し、と判断することもできます。
むしろ、事実確認をせずに、安易に離職理由を異議の通りに補正することは避けるべきでしょう。
内容によっては、不正受給への加担となってしまうおそれもあります。
訂正が不要な場合には、経過報告書を提出し、離職の経緯や、会社の判断根拠を記載しましょう。
訂正する場合は離職票の再発行が必要
事実確認の結果、訂正が必要と判断した場合には、補正願とあわせて事業主控え等の書類をハローワークに提出し、離職票を再発行してもらう必要があります。
補正願には、訂正内容を証明する書類などがあれば、エビデンスとして添付しましょう。
また、離職理由の間違いが、意図的な虚偽記載ではない旨もしっかりと主張しておくことが大切です。
故意の虚偽記載と判断されれば処罰の対象になり得ますので、注意しましょう。
ハローワークによる調査の対応について
ハローワークでは、離職者と会社双方の主張および収集した客観的資料により、離職理由について判断します。
事案によって、確認資料の提示要求などもありますが、正しい判断となるようできるだけ対応するべきでしょう。もし、離職理由がハラスメントによるものであった等の異議であれば、ハラスメントの事実調査を行う等の対処も必要となります。
会社が準備しておくべきものとは?
従業員が離職する際には、退職届を提出してもらうことが一般的ですが、社内運用として徹底できていないかもしれません。しかし、客観的資料の有無は、会社の判断に対する信頼性に大きく影響するものです。
実務上は、退職理由を本人へ確認したうえで、自筆の退職届の提出を求める体制にすることをおすすめします。もし、どうしても退職届の提出が得られないようであれば、退職の経緯を記録しておく等、後から確認できるようにしておきましょう。
退職勧奨の場合には、退職合意書を作成します。
調査に応じなかった場合はどうなる?
調査では、ハローワークが離職理由を判断するために双方の主張や資料を収集します。
もし、調査に応じず、資料を提出しなかった場合には、会社の主張が認められにくくなる可能性があります。会社側が主張する離職理由についての調査が困難となれば、離職者の異議が認定され、会社として不利な結果になるおそれもあります。
一度調査で判断が下されれば、その決定を覆すのは困難となってしまいます。
調査への協力は可能な限り応じるようにしましょう。
離職理由を正しく選択するためには
離職に至る経緯が複雑な場合には、事情を把握していても、労使で離職原因の認識が一致しないことがあります。離職原因を相互に確認し、記録に残すなどしなければ、認識がすれ違ったまま書類を作成してしまうかもしれません。
離職証明書を作成する際に、できるだけ離職理由を離職者に確認してもらったうえで、署名をもらい提出するとよいでしょう。また、離職理由を正しく選択するためにも、ハローワークの離職理由の判断基準等を把握しておくことはとても大切です。
以降で、判断基準と注意点について解説していきます。
離職理由の判断基準
ハローワークは、会社が提出する離職証明書の主張内容、離職者が提出する離職票の主張内容および各資料をもとに離職理由を判断します。
両者の主張を把握し、それらを確認できる資料によって事実確認を行い、判断しますので、主張のみをもって最終決定がなされるわけではありません。
資料が不足する場合には、会社に資料の提示を依頼することもあります。
つまり、離職理由を確認できる資料を適切に準備できているかが重要なポイントとなります。
退職届だけでなく、雇用契約書や就業規則、早期退職優遇制度などの場合にはその制度資料なども必要となる可能性があります。
特定受給資格者・特定理由離職者における注意点
雇用保険の失業給付を有利に受給できる対象者には、特定受給資格者と特定理由離職者があります。
それぞれの定義は以下の通りです。
- 特定受給資格者:倒産・解雇等により再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた者
- 特定理由離職者:有期労働契約が更新されなかったこと、その他やむを得ない理由により離職した者(特定受給資格者を除く)
これらの定義には、会社による直接的な解雇等だけでなく、待遇の結果としてやむを得ず退職せざるを得なかったなどのケースも含まれています。
そのため、離職証明書の離職理由欄をよく確認したうえで、選択を間違えないようにしましょう。
会社が虚偽の離職理由を記載するとどうなる?
会社が離職理由欄に実態と異なる記載をするケースがあります。
これは、会社が良かれと思って、離職者に有利な給付内容になるよう特定理由離職者等に該当する記載を行うことが多いでしょう。
しかし、離職者の有利不利にかかわらず虚偽の記載は補正の対象となります。
それだけでなく、偽りその他不正の行為をしたものとして罰せられる可能性があります。
具体的には、不正受給した者と連帯して不正受給金を返還させられる、納付命令(不正受給金の2倍に相当する額以下)を受けるなど、があり、また、場合によっては詐欺罪等に該当するおそれもあります。
離職理由は事実に基づいて正しく記載することが大切です。
離職理由の異議申し立てがなされた判例
離職理由について異議申立てが行われた場合、ハローワークは調査を行い、慎重に判断を下します。しかし、その決定に不服がある場合に、離職者は審査請求制度によって、審理を請求することができます。
審査請求の決定にも不服がある場合には、再審査請求もしくは原処分の取消訴訟を起こすことが可能です。原処分の取消訴訟が起こされた事例として、新宿公共職業安定所長事件をご紹介します。
事件の概要
タクシー乗務員として勤務していたXは、訴外Y社を離職し、ハローワークへ離職票を提出して求職の申込を行いました。
失業給付の受給資格決定は受けたものの、離職理由が「正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合」に該当するとして、3ヶ月の給付制限が設けられました。
この決定に対し、Xは交通事故多発を理由とした解雇が離職理由であり、自己都合の事実はないとして異議申立てをし、審査請求を行いました。
しかし、審査請求が棄却されたため、Xは原処分の取消しを求めて訴訟を提起しました。
裁判所の判断(平成4年(行ウ)29号・平成4年11月20日・東京地方裁判所・第一審)
Xは訴外Y社による解雇が離職理由であり、退職届は偽造であると主張しました。
裁判所は、訴外Y社が3度の交通事故に対してXに注意・指導は行ったものの、減俸などの処分を行わなかったことや、退職届の筆跡がXのものであり、偽造とは認められない等から、解雇の主張を採用しませんでした。
また、訴外Y社が直接的または間接的に退職勧奨を行った事実もないと認められることから、離職は、正当な理由がなく自己の都合によって退職した場合に該当するとして、処分の取消請求を棄却しました。
ポイント・解説
本事案では、離職理由の相違による給付制限の有無をめぐって審査請求、訴訟が行われました。
離職理由について、Xは実質的な解雇であることや、退職届が偽造であることなどを主張しましたが、その根拠となる資料は提出しませんでした。
また、訴外Y社では、原告の希望に応じて、精神的、肉体的にも疲労度が少ない日勤や車種の限定などの待遇を行っていた点からも、Xが身体的条件や職場環境等によって、退職がやむを得なかったとされる事実もないと判断されました。
離職理由の相違によるトラブルでは、退職時のみの待遇を切り取って判断するのではなく、それまでの経緯も踏まえて退職せざるを得なかったのかなどが判断されることになります。従業員の処遇を変更することがあればその内容を記録し、経緯を明確に提示できる社内体制が望ましいといえます。
離職理由について異議を申し立てられたら、弁護士に解決を委ねることが得策です。まずは一度ご相談下さい。
退職した従業員が離職理由について異議を申し立てるケースは決して少なくありません。
退職理由によっては失業給付の内容が不利になってしまうため、従業員にとっては大きな問題といえます。離職理由について労使の認識がずれることもあり得ると想定して、根拠資料などを保管しておく体制を整えるべきでしょう。
離職理由の異議申立てが起きた場合には、弁護士へご相談下さい。
弁護士に依頼することで、離職の経緯から正しい離職理由を判断することができ、またハローワークの調査に対しても適切な回答、対応が可能となります。
従業員の離職にあたっての実務に不安があれば、まずは一度弁護士へご相談ください。

-
保有資格弁護士(札幌弁護士会所属・登録番号:64785)
来所・zoom相談初回1時間無料
企業側人事労務に関するご相談
- ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
- ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
- ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
- ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
- ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)