労務

採用内定を取り消したい場合の対応

札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈

監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士

基本的に社員を採用するときには、採用決定と同時に働き始めることは少なく、入社日を定めて内定通知を出すことが通例です。
では、入社日までの間に入社させられない事情が発生した場合、どうすればよいでしょうか?

会社が内定を通知した時点で、会社と内定者の間には労働契約が成立すると解されています。
そのため、会社から内定取消しを行う場合は解雇と同じ取扱いとなり、正当な理由がない限り認められないため、注意が必要です。

このページでは、採用内定を取り消したい場合の対応方法や、内定取消しが認められるケースなどについて解説していきます。

採用内定を取り消したいとき、企業はどう対応すべきか?

会社が採用内定を出したタイミングで、会社と内定者との間には雇用契約が成立します。
そのため、会社側からの内定取消しは原則として認められません。

内定を取り消すには、一般社員に行う解雇と同じく、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。また、内定取消しは内定者の人生を大きく左右する事柄です。

一方的に言い渡すなど配慮に欠ける態度をとると、内定者から裁判を起こされるリスクが高まります。
採用内定を取り消したいときは、内定者に対して丁寧に事情を説明して誠意をもって謝罪し、金銭的補償や就職支援などを提案して、合意による内定取消しを図ることが必要です。

採用内定は簡単に取り消すことができない

会社が採用内定を出すことによって、会社と内定者との間には、「始期付解約権留保付労働契約」が成立します。

つまり、入社予定日を就労の始期とし、学校を卒業できなかったなど内定取消し事由が生じた場合には、会社側が解約(内定取消し)できる契約を結んでいることを意味します。

そして、実際に内定を取り消すことができるのは、「採用内定当時は知ることができない、または知ることが期待できない事情が内定後に発覚し、その事情が内定取消しの理由として合理的かつ社会通念上相当と認められる場合」に限られるとされています(最高裁判所第二小法廷 昭和54年7月20日判決参照)。

そのため、内定を取り消したい場合は、取り消すことに正当な理由があるかどうかについて慎重に検討した上で、適切な手順を踏む必要があります。

内定取消しが認められるケースとは?

内定取消しが認められる可能性が高いケースとして、以下が挙げられます。

  • 学校を卒業できなかった
    内定者が単位不足など何らかの理由で学校を卒業できず留年してしまった場合
  • 健康状態の悪化
    内定者が内定後に通常の仕事ができなくなるほど重大な病気や障害を負った場合。
    ただし、一般的な風邪など仕事に支障のない病気やケガなどについては内定を取り消せません。
  • 重大な経歴詐称
    内定者の履歴書や職務経歴書などに重大な虚偽の記載があることが発覚し、かつ業務上必要不可欠な経歴に関する詐称や学歴詐称などである場合
  • 業務上必要な資格を取得していない
    業務上必要な資格を入社前に取得していることが雇用の条件であるケースで、入社までに内定者が必要な資格を取得できなかった場合
  • 反社会的行為
    内定者が内定後に刑事事件を起こしたり、SNSで会社を誹謗中傷したり、反社会的勢力と関わったりするなど会社の社会的信用を著しく低下させる反社会的行為をした場合
  • 著しい経営状況の悪化
    著しい経営難により整理解雇の必要があって、整理解雇の4要件を満たす場合

会社都合による内定取消しは認められるのか?

原則として、経営状況の悪化など会社都合による内定取消しは認められません。

ただし、例外として経営難による内定取消しであっても、以下の整理解雇の4要件を満たした場合は、例外的に認められる可能性があります。

  • ①人員整理の必要性があること
  • ②内定取消しを回避する努力義務を果たしたこと
  • ③内定取消しの対象となった人員の選定が合理的かつ公正であること
  • ④内定取消しの際に適正な手続を踏んだこと(対象者や労働組合などに対する事前の説明など)

②内定取消しを回避する努力義務を果たしたといえるには、希望退職者の募集や役員報酬の削減、出向、配置転換など、内定取消しを回避するために相当の経営努力がなされたことが求められます。

内定を取り消すことで生じる企業へのリスク

内定取消しは、企業に以下のリスクを及ぼすおそれがあります。

  • 会社の信用の低下
    内定を取り消す企業であるとの情報がSNSなどで拡散されると、会社の信用が低下し、顧客の流出や業績の悪化、優秀な人材の獲得が困難となる可能性があります。
  • 厚生労働省による企業名の公表
    2年以上連続して内定取消しをしたり、同一年度内に10人以上の内定取消しをしたりするなど、不当な内定取消しを行った場合は、厚生労働省より企業名が公表されることがあります。
  • 裁判を起こされる
    内定を取り消すと、内定者から内定取消し無効の裁判を起こされる可能性があります。
    裁判の結果によっては未払給与(バックペイ)の支払い義務が生じ、悪質な場合は慰謝料を請求される可能性もあります。
  • 社員の信頼低下
    不当な内定取消しを行うと、他の社員からの信頼も悪化し、自分も不当解雇されるのではとの懸念から優秀な人材が離職するリスクがあります。

不当な内定取消しであれば訴訟に発展する可能性も

内定取消しは法的には解雇と同じ扱いとなるため、よほどの事情がなければ認められません。

客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性がないにもかかわらず、会社側が一方的に内定を取り消すと、内定者から内定取消しは不当であるとして、社員としての地位確認や損害賠償を求めて裁判を起こされる可能性があります。

裁判で内定取消しが無効との判決が出されると、会社は内定者を入社させなければならず、入社予定日から支給するはずであった給与(バックペイ)の支払い義務が生じます。
また、場合によっては、慰謝料や再就職までにかかる一定期間の賃金相当額などの支払が命じられることもあります。

裁判で敗訴した場合に受ける会社側のダメージは大きいため、内定取消しは慎重に検討しなければなりません。

内定取消しはどのように行えばよいのか?

まずは会社から採用内定者に対して、これまでキープ(留保)していた解約権の行使として、採用内定を取り消すことを通知する必要があります。

後で会社と内定者の間で言った・言わないのトラブルとならないようにするには、配達証明付きの内容証明郵便により「採用内定通知書」を送付する方法があります。

内定取消しの通知はいつ行うのか?

内定取消しの通知は、できる限り早いタイミングで行いましょう。

通知が早ければ、本人がその分早く求職活動を再開できます。また、通知が遅れるほど本人に与える支障が大きくなり、裁判リスクが高まるため注意が必要です。
なお、内定取消しは法的には解雇と同じ扱いとなるため、解雇予告または解雇予告手当の支払いが必要となります。

入社までの期間が30日以上あるならば、内定取消しの予告通知を行えば問題ありませんが、30日を切っているなら予告手当の支払が求められます。
伝える際は、取消しの理由を明確にすることや、電話や面談など直接的なコミュニケーションを取ることを心掛けるべきでしょう。

内定を取り消す際に合意書は作成すべき?

内定取消しについて内定者と合意できた場合は、合意書を作成するのが望ましいでしょう。
口頭のやりとりだけだと、後で言った・言わないのトラブルにつながるおそれがあるためです。

会社側の担当者が内定者と面談し、内定取消しの理由を説明したうえで、合意書を交わします。
この際、内定者の理解を得るため、内定取消しの根拠となる証拠も添付するべきでしょう。

合意書を作成する場合は、トラブル防止のため、本件以外何らの債権債務のないことを確認する「清算条項」や、第三者に合意内容を漏らさない「口外禁止条項」を盛り込むのが望ましいといえます。
また、SNSへの告発などを防ぐため、口外禁止条項に違反した場合の「違約金条項」を設ける方法もありますが、困難なことも多いでしょう。

内定取消しを円満に行うためのポイントとは?

これまでのまとめとして、内定取消しを円満に行うためのポイントを以下に挙げます。

  • 内定取消しの事由をあらかじめ明示する
    内定当時にあらかじめ内定取消しの事由を明示しておけば、内定者もどのような場合に内定が取り消されるのか予見でき、内定取消しの際も理由が明らかとなるため、同意を得やすくなります。
  • 内定取消しの通知は早めに行う
    他社への就職活動の機会を与えるためにも、内定を取り消すべき事情が生じたら、できる限り早く内定取消しを通知しましょう。
  • 内定者と面談する
    メールや電話、書面だけでは誠意や謝罪が伝わらないため、内定者に責任がある場合でも、直接面談して内定取消しの理由について説明するべきでしょう。
  • 金銭補償などを提案する
    内定者が受ける不利益や精神的苦痛への配慮から、損害賠償金や慰謝料などの金銭補償をすることも検討すべきでしょう。
  • 合意書を作成する
    内定取消しについて内定者と合意できた場合は、必ず合意書を作成しましょう。
    後に内定取消しの有効性をめぐって争いとなった場合に、証拠として役立つからです。

再就職先の確保に向けた支援について

会社側は、悪気があって内定取消しをしているわけではないと思われます。
しかし、内定をもらった者は通常は求職活動をやめてしまうことから、後で会社側から内定を取り消されると、その経済的損害や精神的苦痛は計り知れないものです。

内定取消しを行う会社側としては、できる限り内定取消対象者の支援をすることが大切となります。
例えば、自社と取引のある会社の求人を紹介するなど、内定取消対象者の再就職先を確保するために最大限努力することが必要です。

内定取消しに関する判例

ここで、内定取消しに関して争いとなった裁判例をご紹介します。

事件の概要

当時34歳であった男性Xは、中途採用の面接を受けて、非鉄金属専門商社Y社の東北支店において、電子機器の営業社員として採用内定を得たところ、内定後に行われた懇親会の席での発言などを理由として、Y社から採用内定を取り消されました。これを不服としたXが損害賠償を求めてY社を訴えました。

裁判所の判断(令2(ワ)7906号 東京地方裁判所 令和4年9月21日判決)

裁判所は以下を理由に、本件の採用内定の取消しを有効と判断しました。

  • ①上司を呼び捨てにしたこと、②入社理由は、ついでに受けただけで、偶然採用までの速度が早かったから入社したとの発言、③先輩になることが予定されていた従業員に「やくざ」「反社会的な人間に見える」と述べたことは、飲酒のうえでなされたものでも、Y社の社員を侮辱するものであって、職場の秩序を乱す、悪質な言動である。
  • 入社予定の支店には社員が18名しかいないため、正常な業務運営のために社員同士の協調性が不可欠であり、特に営業職では社外との協調性も求められ、取引先と会食する機会もあるため、社会人としてのコミュニケーション能力や礼儀が求められる。このことについては、X自身も認めるものである。Y社はこれらの資質をXが備えていると判断して内定を出している。
  • Xの発言はXが上記の資質を備えていないことを示しており、Y社はこの事実を内定時には知り得なかったため、これらを理由に内定を取り消すことは、Xが謝罪した点を踏まえても、客観的に合理的で社会通念上も相当であると認められる。

ポイント・解説

本件は内定後の飲み会(歓迎会)の場での発言を理由として内定が取り消されたことにつき、その有効性が争いとなった事件です。

内定取消しの有効性を考えるにあたっては、正当な取消し事由があるかどうかという点だけでなく、その理由を会社としていつ知り得たかという点もポイントとなります。
本件では、営業職の社員に求められる基本的資質に欠けることが内定時には知り得なかったため、内定取消しは有効と判断されています。

他方、例えば、「雰囲気が暗い」「社風に合わない」など面接時に知り得た事情を理由に内定取消しを行うと、不当な取消しとして無効と判断される可能性が高いため注意が必要です。

内定取消しで後々トラブルとならないためにも、企業法務に詳しい弁護士にご相談ください。

内定取消しは解雇に相当するため、法律で厳しく制限されており、正当な理由がなければ認められないものです。
正当な理由がないまま内定取消しを行うと、損害賠償請求や企業名の公表など、会社の受けるダメージが大きいため注意が必要です。

やむを得ず内定取消しを行う場合でも慎重な対応が求められます。
また、本人にはできる限り早めに伝えて、内定取消しの理由の説明や金銭補償の提案など、誠実に対応することが必要です。

法的リスクを回避しながら、採用内定を取り消すことを希望されている場合は、企業法務に詳しい弁護士に相談することを強くおすすめします。

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札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈
監修:弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長
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