労務

試用期間中の社員に問題があるときの対応

札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈

監修弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長 弁護士

試用期間とは、本採用する前に実際に働いてもらい労働者の能力や適性を見極めるための期間をいいます。試用期間中に面接では見極められなかった専門能力やコミュニケーション能力などに問題があることが分かり、本採用を拒否したい、または延長したいということもあるかと思います。

試用期間であれば容易に本採用の拒否・延長が認められると考えがちかもしれませんが、それは誤解です。試用期間中であっても雇用契約が成立しているため、本採用拒否・延長するには正当な理由が求められます。

このページでは、試用期間中の社員に問題があるときの対応方法について解説していきます。

試用期間中の社員に問題があるとき、会社はどう対応すべきか?

試用期間中の社員に問題が見受けられた場合、会社としてまずは必要な注意・指導を行い、改善が図られるかどうかを見極めるべきです。
そのうえで、次のいずれかの対応をとることが考えられます。

  • 試用期間を延長する
  • 試用期間の満了時に本採用を拒否する
  • 試用期間中に解雇する

この記事では、これらの3つの対応方法について解説していきます。

試用期間中の社員と会社の関係

試用期間中の社員と会社は、「解約権留保付労働契約」の関係にあると考えられています。
これは、一般社員との労働契約関係とは異なり、「会社側に解約権を留保されている」という特別な労働契約関係にあることになります。

つまり、会社と試用期間中の社員との間にはすでに本採用と同等の雇用契約が成立しているものの、試用期間中に本採用に適さない事情が判明した場合には、解約権を行使して解雇できる(=本採用を拒否できる)権利をもつ状態であることを意味します。

もっとも、試用期間中であっても労働契約が成立しているため、無制限に解雇できるわけではなく、解雇するには正当な理由が求められます。

試用期間中に問題視されやすい要因とは?

試用期間中に問題視されやすい行為として、以下が挙げられます。

  • 能力不足
  • 成績不振
  • 適格性の欠如
  • 欠勤・遅刻・早退が多い
  • 協調性が不足している
  • 会社や上司の指示命令に従わない
  • 反抗的態度を繰り返す
  • 経歴詐称をして入社した(学歴や職歴、犯罪歴の偽りなど)

これらの問題が見られる社員については、もう少し適性を見るために試用期間を延長したり、試用期間終了時に本採用を見送ったり、試用期間途中に解雇したりなどの措置を講じる必要があります。

問題社員の試用期間を延長することは可能?

試用期間中は解雇権が留保されているため、労働者の地位は不安定です。

そのため、不当に長い試用期間を設けることは許されず、原則として試用期間の延長は認められません。
ただし、例えば、病気やけがなどで欠勤が続き、本採用とするには不安が残るなど特別の事情があって、労働者も同意しているならば、例外として試用期間を延長することも可能です。

実際にどのような要件を満たせば、試用期間の延長が認められるのか、以下で詳しく見ていきましょう。

延長が認められる基準とは?

原則として試用期間が終了した労働者については、本採用しなければなりません。
ただし、以下の要件をすべて満たした場合は、例外として試用期間を延長することが可能です。

  • 就業規則等に試用期間延長の可能性とその事由、期間などが定められている
  • 試用期間の延長について正当な理由がある
  • 労働者が事前に同意している
  • 社会通念上妥当な長さの延長期間である

「欠勤や遅刻が多い」「入社時に期待していた能力よりも著しく低い」など、本採用とするには不安が残る場合には、試用期間を延長することも可能です。
ただし、前提として試用期間を延長できることを就業規則に定めておくことと、本人の同意を得ることが必要です。

延長期間の長さは最大6ヶ月程に抑えるのが適切ですが、特殊な仕事などで見極めの期間を長く要する場合は、1年程度までなら延長できるものと考えられます。

試用期間中の解雇は法的に認められるのか?

試用期間は本当の能力や適性を判断するための期間です。

そのため、試用期間途中における解雇は、通常の解雇と比べると広く認められています。
ただし、試用期間であっても雇用契約が結ばれている以上、解雇するには、「客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性」が求められます(労契法16条)。

例えば、「社風に合わない」「性格が暗い」など曖昧な理由で入社を断ることはできません。
試用期間中に正当な理由なく無断欠勤や遅刻を続け、改善の見込みがない、重大な経歴詐称を行ったなど、よほどの事情がない限り解雇は認められないでしょう。

試用期間満了時における本採用拒否も解雇にあたるため、解雇するには正当な理由が求められます。
ただし、試用期間中に十分な指導を行っていれば、試用期間途中の解雇よりも有効になる可能性が高いと考えられます。

本採用を拒否したい場合は?

試用期間満了時における本採用拒否についても、解雇であることに違いありません。
そのため、本採用の拒否が認められるには、「客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性があること」が求められます(労契法16条)。

本採用拒否の理由として、成績不振や能力不足、勤務態度不良、協調性の欠如、業務命令違反などが考えられます。
本採用を拒否する「合理的な理由と社会通念上の相当性」があるかどうかは、これらの問題行為の内容や程度、回数、会社の指導歴などから総合的に判断されます。

解雇するには、再三の指導を行っても一向に改善しないという事情が求められるため、試用期間の満了時まで会社として適切な指導を続けることが大切です。

不当な処分を行うことのリスク

試用期間中に特に問題のなかった社員を、正当な理由なく試用期間中に解雇したり、本採用を拒否したりした場合には、不当解雇と判断される可能性が高くなります。

裁判などで解雇が無効と判断された場合は、現在でも労働者との雇用契約関係は続いていたことになります。そのため、労働者を復職させたうえで、解雇された日から解雇が無効と判断されるまでに発生した未払給与(バックペイ)を支払わなければなりません。この点は会社にとって大きなリスクです。

特に裁判などトラブルが長期化し、その結果解雇が無効とされるとその支払金額は膨大なものとなります。また、悪質な解雇と判断された場合は、慰謝料の支払が命じられることもあるため、試用期間中の解雇については慎重な検討が求められます。

試用期間の延長・解雇を行う際の注意点

試用期間を延長する場合は、試用期間の延長に先立ち、まずは社員に対して十分な改善指導を行うことが必要です。そして、成績不振が改善されないなど、試用期間の延長がやむを得ないと判断された場合は、本人に対して試用期間の延長を提案しましょう。

同意が得られたら同意書に署名、捺印を得ておきます。
また、延長後も引き続き指導しなければなりません。
また、試用期間中の解雇については、試用期間であっても本採用と同等の雇用契約が成立しているため、通常の解雇と同じく十分な改善指導を行ったかという点が重視されます。

そのため、試用期間中は適切な指導を行い、会社として解雇を回避するために最大限努力することが必要となります。

どのような指導・教育が必要か?

試用期間中は本人の適性を見る期間ですが、同時に教育期間でもあります。

そのため、採用時に求めた能力よりも低いことが判明した場合でも、仕事に慣れてもらうための指導や教育を行ったり、欠勤や遅刻等があっても注意して改善を求めたりすることが必要です。
何ら指導せずにいきなり解雇すると、不当解雇となるおそれがあります。

適切な指導・教育がどの程度であるかについては、能力不足の程度、労働者の業務内容やポジション、改善指導歴、会社の規模などを踏まえて判断されます。

例えば、自らの実績をアピールして面接に合格し、即戦力を期待して好待遇で迎え入れられたような人物が、実際には能力不足で指導にも従わないような場合には、本採用拒否は認められやすいでしょう。
なお、指導する場合は、解雇の有効性をめぐり争いとなった場合に備えて、書面やメールなどの証拠として残る形で行うことが大切です。

弁明はどの程度まで受け入れるべきか?

会社側が社員の言い分を聞かずに解雇すると、むりやり辞めさせたとして不当解雇と判断される可能性が高くなります。

そのため、本人との話合いの場を設けて、解雇する理由を説明した上で、本人の言い分を聞く機会を与えるのが望ましいでしょう。
もっとも、通常の解雇に比べると、本採用の拒否は有効性が認められやすいと考えられます。

本採用を拒否すべき事情があるのに、安易に弁明に応じて本採用してしまうと、留保していた解約権が失われるため、解雇が認められるためのハードルがさらに高くなってしまいます。
したがって、弁明に応じるかどうかは慎重に検討すべきです。

能力不足はどう判断するか?

未経験者や新卒採用者は、入社時に仕事ができないのは当然であり、会社が責任をもって指導や教育を行う必要があります。

繰り返し指導しても改善されず、能力不足が会社として求める水準よりも著しく低いような場合にはじめて解雇を検討すべきでしょう。
多少の能力不足を理由に解雇すると、不当解雇とされる可能性があるため、注意が必要です。

他方、専門能力や経験を買って即戦力として採用した者については、未経験者や新卒採用者に比べて、能力不足を理由とした解雇は認められやすいと考えられます。

ただし、会社ごとに仕事のやり方が異なるため、そのような専門を有する者に対しても十分な指導を行う必要があります。
なお、能力不足であるか否かを判断する場合は、個人的な評価ではなく、客観的な数値や証拠により、他の社員よりも劣っているかという視点で判断するべきでしょう。

試用期間の延長・解雇に関する裁判例

ここで、試用期間終了時の本採用拒否に関して争いとなった裁判例をご紹介します。

事件の概要

不動産賃貸等を営むY社は、金融業務における5年以上の実務経験を持つことを前提として、オペレーションズ部門のアナリストとして社員Xを中途採用したところ、Xが多数回にわたりミスを繰り返し、Y社が再三の注意指導を行っても改善が見られなかったことから、試用期間終了時に本採用を見送りました。

これを不服としたXが、本採用拒否(普通解雇)は不当な解雇であるとして、Y社を訴えた事案です。

裁判所の判断(平成28年(ワ)第43366号 東京地方裁判所 平成31年2月25日判決)

裁判所は以下を理由として、Y社が行った本採用拒否(普通解雇)を有効と判断しました。

  • Y社の採用募集時における求める人材の記載やX自身の経歴、履歴書の記載から、Xは即戦力としてY社に採用されており、かつXもそのことを理解していたと判断される。
  • 本採用拒否の有効性を考える際は、Xを即戦力として採用した経緯を前提とし、試用期間中に判明した行為に照らして、Xを引き続き雇用することが適切でないと判断することに客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められるかどうかを検討すべきである。
  • Xは連日、自らの注意不足や慎重な態度の欠如により、決して軽微なものとはいえない業務上のミスをしており、上司らが何度もXに指導を行ったにもかかわらず、有意な改善が見られないため、本件の本採用拒否には、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められる。

ポイント・解説

裁判所は、経験者として採用した経緯を重視して、能力不足を理由とする本採用拒否を有効と判断しています。

会社に求められる対策としては、専門的な業務の募集をする際には、業務内容を詳細に記述した書面を交付するなどして、即戦力としての募集であることや、応募者のどのような能力を重視して採用したかについて本人に明確に伝えることが必要です。

また、経験者採用であっても、会社ごとに業務内容や仕事の方法が異なるため、一定の指導や教育は求められます。
さらに、経験者採用の社員を解雇する場合に備えて、入社時に期待された専門能力を欠いていることの証拠を収集しておくことも必要です。

例えば、営業経験を理由に採用した場合は、営業成績や顧客への対応履歴、クレーム記録などが証拠として役立ちます。

試用期間の延長及び解雇を検討される際は弁護士にご相談下さい。適切な対応方法や注意点についてアドバイスいたします。

試用期間を設けることで、会社としては本採用の前に社員の能力や適性を見極めることができます。
ただし、試用期間であっても雇用契約が成立している以上、安易に解雇することはできず、解雇するにはやむを得ない事情が必要です。

「試用期間中の社員は簡単に解雇できる」という考えは間違いですので、ご注意ください。
試用期間中の解雇は不当解雇のリスクを伴います。

そのため、試用期間中の延長や解雇を検討される場合は、労働法務に精通する弁護士法人ALGにぜひご相談ください。
試用期間中の社員に問題があるときの適切な対応方法や注意点、解雇の有効性などについてアドバイスさせていただきます。

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札幌法律事務所 所長 弁護士 川上 満里奈
監修:弁護士 川上 満里奈弁護士法人ALG&Associates 札幌法律事務所 所長
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